第11回 優秀賞 清水篤 「白昼夢」 (長野県・泰阜ダム)
[選評] <選評・窪田 陽一> 一方、この作品では、さざ波一つ立っていない、鏡のように平滑な水面に出会い、その中に舟のように浮かんで見えるコンクリートの塊が、 「これは何だろう?」と思わせる形で現れ、抗し難く視線を引き寄せ、その背景に倒立して水面に映るダムの堤体の姿へと眼差しを誘う、 という構図の中に生起する風景をとらえることに見事に成功しています。 「これは何だろう?」と怪訝な眼差しを向ける状況を、古代の哲人はタウマゼインと呼びました。 持ち前の知識では解読不能な、それでいて無視することができずにあれこれ思索を巡らせるように導かれてしまい、 これまで出逢ったことがない眼前の眺めに心を奪われる、ということです。自然生態系の危機を描いた作家として著名なレイチェル・カーソンは、 甥と一緒に過ごした日々の中で「センス・オブ・ワンダー」つまり「素直に驚くという感覚」こそ人間の成長に不可欠なのだ、と気づきました。 沈黙するダムの一隅に潜んでいた眺めに宿る能弁な風景の技巧を見出した撮影者の確かな眼力を讃えたいと思います。
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