第20回 日本ダム協会 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の全体評

第20回D-shotコンテストは、266点の作品応募がありました。これらの作品を対象に最優秀賞、優秀賞、入選作品の選考を、令和5年3月7日に日本ダム協会にて行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。



写真をクリックすると大きな写真を見ることが出来ます

最優秀賞
「ユキノトキノ」
熊本県・立野ダム
撮影者:ハル
<選評・西山 芳一>

画面をシルエットで横切る余部鉄橋を彷彿とさせるトレッスル型の橋(立野橋梁)。今では珍しい従来の工法(柱状工法)で積み上がってゆくダム。双方の位置関係をダムの進捗をも考えながら撮影した秀作。鉄橋はシルエットでも存在感は出ますので夜景を選んだのはGood。タイトルにある通り薄っすらと積もった雪も効果的でしたね。制限されたアングルの中でこれほどの画面づくりをされたことに拍手です。






「ダム本体」部門

優秀賞
「天の川と共に」
山形県・月山ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・西山芳一>

ブルーにライトアップされたダム、天空を跨ぐアーチ橋、天の川、そのすべての位置やタイミングが周到に計算され尽くした作品です。何度も現地の下見をされ、星景写真もかなり撮られている方だと思われます。一期一会で出会った写真も良いのですが、このような写真も充分に見応えがありますね。次回作も期待しております。



入選入選
「オリフィスゲート」
岐阜県・阿木川ダム
「威風堂堂」
岐阜県・丸山ダム
撮影者:市川文之 撮影者:ハル
<選評・西山芳一>

ダム本体の写真を演出してくれるものに水と気象が挙げられますが、水流と霧、その両方を大胆に利用して表した作品です。一瞬ドキッとさせられますが、よく見ていると落ち着いてくるのは、思い切った構図の中にも繊細なモノクロ表現が見られるせいでしょう。昔に戻ってまたモノクロプリントをしてみたいなと思わせる作品です。

<選評・西山芳一>

丸山ダムで昨年のここまでの放流時は、私も近隣のダムのローリングゲートを撮っていました。前夜は線状降水帯の中で恐ろしいほどの豪雨。“ロケに行って豪雨に遭ったら翌朝、近くのダムに行けば美味しい画が撮れる。”とよく言いながらダムに向かったものです。豪快な放流も素晴らしいですが背景の霧も良かったですね。ご馳走様です。このダムも今後十年かけて変化してゆきますが、その都度での応募作品を期待しています。



入選
「雪が降った朝は」
群馬県・薗原ダム
撮影者:iiysk
<選評・西山芳一>

雪景の中、谷の奥に半身を見せて控えめに佇むコンクリートダム。ズームせずに堪えた画角が抜群です。単に巨大さを表現するよりも自然の中で縁の下の力持ち的なダム本来の存在意義を表しているようにも思えます。同じアングルでも緑の中ではおそらく埋もれてしまうので、ある程度のダムの存在感を主張できる白い雪の中に配置したのは正解ですね。





「ダム湖」部門

優秀賞
「やさしい光」
秋田県・鎧畑ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・大西成明>

天空にフワフワと樹林が舞っているような、なんとものどかで、見る人を幸せな気持ちに包み込むような力のある写真です。この雪国のダムは、春になると雪解けの放流で水位が上昇、上流玉川温泉の強酸性水が作り出すエメラルドグリーンの湖面が、独特な水没林の佇まいを演出しています。こうした光景は、横位置で広がりを強調したいものですが、作者はあえて縦位置の切り取りを選択、天空の映り込みを活かし、堂々とした樹の枝張りと萌色の新緑を見事にとらえています。植物から染料を、鉱物から顔料を作り出してきた「日本の古代色」の如く、刻一刻と変わりゆく湖面の表情を掬い上げる作者の手つきが、実に巧みです。



入選入選
「モノクロームの世界」
埼玉県・間瀬ダム
「水天一碧」
秋田県・小羽広ダム
撮影者:太田正実 撮影者:yfx
<選評・大西成明>

後景の山は、「ぼかし」で濃淡や滲みやかすれを表す、墨絵の世界。中景の、近代土木遺産に選定された間瀬堰堤や管理棟は、どこか昭和の懐かしさやフラジャイルな繊細さを醸し出している。そして前景には、雪が積もったボートの緩やかな輪郭と、じっと春の訪れを待つ木々。作者の狙い通り「モノクロームの世界」が、前中後景の三位一体の中、幽玄に立ち上がってきます。迷いなく、これしかないというつもりでシャッターを切っている潔さが伝わってくる、堂々とした作品です。

<選評・大西成明>

「水」という存在は、液体であり固体であり気体であるという、世にも不可思議な存在です。この作者は、そうした水の変幻自在に変化する真っ只中に座って、座禅を組み瞑想しているかのようです。「水天一碧」、なんと素敵なタイトルでしょう。空がそのまま水になる、この驚きが、静から動への「魂のギアチェンジ」を始動させています。私はこの写真を見て、「禍福はあざなえる縄のごとし」という諺を思い起こしました。人生、凪あらばまた急転直下の激流あり、その絶えざる繰り返しなのかもしれませんね。



入選
「初夏の天空を染める」
群馬県・野反ダム
撮影者:ハル
<選評・大西成明>

霧が晴れた一瞬のチャンスを逃さず、絶妙な撮影ポイントに勝手に身体が動いて、空・雲・風の動きに呼応するように撮っていますね。相当撮り慣れた方だと思います。サッカーのゴールシーンを思い出してください。優れたフォワードは、ボールのやってくる所にスーッと身を寄せて、ひとたびチャンスが巡ってくれば、迷わず蹴りこむ。この写真も、作者は「光の狩人」となって、気がついたらもう撮り終わっていたという、電光石火の攻めが必要なことを教えてくれる会心の一枚です。




「工事中のダム」部門


入選入選
「リアルゲーム ロードランナー」
長野県・伊奈川ダム
「巨大バイパス」
京都府・天ヶ瀬ダム
撮影者:ハル 撮影者:HAMTIY
<選評・森 日出夫>

伊奈川ダムでの改修工事を撮影した作品です。堤体下端にポツンと一人、上を見上げている人物(作業員さんか、点検職員さんか)と、作業足場上の小屋から構造物の大きさが分かります。また、築45年での黒ずんだコンクリート表面の色あいも相まって、撮影者が題した「リアルゲーム ロードランナー」の近未来の退廃的な世界感が出ている逸品です。ダムもこういう捉え方をするのも面白いと思います。

<選評・森 日出夫>

天ヶ瀬ダムは放流機能を高めるため、左岸側地山に大規模なトンネル式放流設備を構築する再開発工事が10年に渡り続けられました。写真は工事終盤期、ダム本体下流からトンネル式放流設備の吐口を下流から撮影したものです。多分作業が終了し、重機類を整列させ終わったところでしょうか。ダム本体と整列した機械から、吐口の大きさが想定され大規模な再開発工事のスケール感が出ています。また、夜間撮影で、構造物の存在感を際立たせる意図が感じられます。





「ダムに親しむ」部門

優秀賞
「ヒーローインタビュー」
群馬県・藤原ダム
撮影者:ハル
<選評・中川 ちひろ>

よーく目を凝らして見てみると……下から見上げてダムを撮影する群衆の目線のさらにその先には、豆のように小さな人たちが、上からも撮影しています。一枚の写真のなかで、視点が交差しているところに面白みを感じました。3年ぶりのヒーロー登場ということで、さぞ盛り上がったでしょうね。スマホで綺麗な写真が撮れるようになったことで、こうして気軽に持ち上げて撮影ができるのもいいですね。上からも下からもマスコミに追われて、この藤原ダムはなんだか大変そうです。



入選入選
「放流管を歩く1」
熊本県・立野ダム
「しぶきを浴びて」
群馬県・薗原ダム
撮影者:yamasemi_K 撮影者:太田正実
<選評・中川 ちひろ>

タイトルに「歩く」と書かれていなかったら、まさかここに人が写っているとは思いません。すごいですよね。人間の知恵と力が集まると、自分よりずっと大きなものをつくることができるのですから。こんなに小さな人間がこんなに巨大なものをつくってしまったと視覚的に訴える、いろんな要素の入った写真で、とてもよく撮れていると思いました。ほとんどが直線で構成されている画面の中に、白い点となっている見学者のヘルメットも効いていますね。この立野ダム、昨年末に見学者が一万人に達したそうです。

<選評・中川 ちひろ>

大人がレインコートを着て水を浴びに行くこの姿、いいですね〜。いえ、水を浴びに行ったのではなくて写真を撮りに行ったのだと思うのですが、雨の日に、わざとみずたまりに足を入れたあの頃の期待感と、ほぼ同じではないかと予想しました。手前の赤い服が透けてる方、顔が写ってなくても背中から笑っている様子がうかがえます。さぞ迫力ある体験だったことと思いますが、個人的には大人が集まってレインコートを着てまで撮影したいと思うその気持ちに、キュンとします。



入選
「問題:写真の人物の気持ちを述べよ。」
宮城県・鳴子ダム
撮影者:iiysk
<<選評・中川ちひろ>

「しぶきを浴びて」と状況が似ているものの、まるで様子の異なる表情を持つこの写真。躍動感あるしぶきに対して静観している人物。ただものではないです。見上げていないし、背中から心の躍動も感じられないので、きっとダムを通して何か他のものを見つめているのでは……と思ったのですが、よく見ると微かに虹がかかっています。途端に、達観した人からロマンチストに見えてきました。いろいろ想像させてくれる一枚です。タイトルのつけ方も、とても面白いですね!





「テーマ」部門 『いろ』

優秀賞
「飽和」
愛知県・馬ヶ城ダム
撮影者:enma
<選評・八馬 智>

見事な質感表現と画面構成で、今回のテーマである「いろ」を紅葉という天然の色彩によって鮮やかに写し取っています。全体的にダークでウェットなトーンでまとめて落ち着きを生み出しつつ、ビビッドな赤をあたかも飽和させるように際立てています。さらに、ダム堤体にある水に濡れた緑のラインによって下方へのパースを強調し、紅葉する樹木に吸い込まれるような印象を抱かせています。歴史あるダムと紅葉の親和性の高さを感じさせてくれますね。



入選入選
「back to the Gassan」
山形県・月山ダム
「黄昏色の四次元ポケット」
滋賀県・青土ダム
撮影者:ハル 撮影者:玉井 勝典
<選評・八馬 智>

赤い光で浮かび上がるダム堤体と、おどろおどろしい雲が対比的に捉えられ、そこにシャープで動的な車両による光のラインが添えられて、とても強烈な印象を与えるものとなっています。赤は危険や警告を示す色であるだけに、未知の異常事態を暗示するかのごとく、見る者に何かを伝えようとしているようにも思えます。色彩の強調も見事ですが、動と静の対比が写真の強度を最大限に引き出しています。

<選評・八馬 智>

太陽が沈む直前、マジックアワーにさしかかろうとする時間帯に撮られた彩り豊かな一枚。遠景にはオレンジ色に照らされた山、近景にはすでに暗くなり青い色を帯びたダム堤体。それらを空と山が映り込んだ美しいグラデーションの湖面でつないだ構図は、空間的でありながら絵画的な視覚的インパクトを与えてくれます。その彩りがぽっかりと空いた常用洪水吐で切り取られる様子が幻想的でいいですね。



全体評


審査委員プロフィール
西山 芳一 (土木写真家)

例年のコロナ禍中にもかかわらず、遠くまで撮影行をされ、素晴らしい写真を多数応募していただいたことに心から感謝いたします。作品も年を重ねるたびに見ごたえのあるものが増えてくるのは審査冥利に尽きるというものです。しかし、応募者名を明かさずに審査を終えると、結果的にはお一人で幾つものダムを巡り、多数の受賞をされた方が何人か見受けられました。まめにダムに行く写真の上手な方が決まってきてしまっていると言ってしまえばそれまでなのですが、ここ数年で徐々に減ってしまった応募数が今後増えてくれば受賞者が分散し、もっと多くの素晴らしい作品に出会えるはずです。

コロナ禍もようやく収束の兆しが見えてきました。見学会やダムツアーも徐々に増えてくると思います。感染を嫌って団体での撮影に参加されなかった方や、あえて単独でのダム行をされていた方々もこれからはお仲間やお友達、ご家族をお誘い合わせの上、ぜひとも多くのダムの撮影、並びに多数の作品をご応募いただくよう、よろしくお願い致します。


八馬 智 (都市鑑賞者/景観デザイン研究者)

審査会に参加して例年感じていることですが、全体的にレベルがとても高く、こちらとしてもたいへん勉強になります。優れた技術を注ぎ込み、考え抜かれた隙の無いクオリティの作品は、総合的に高い評価を得ていました。時間をかけて渾身の一枚を構築している作品には感服します。

その一方で、ダムの魅力をピンポイントで無邪気に表現している作品にも、とても心が揺さぶられました。審査会のワクワク感をつくってくれるのは、どちらかと言えばそんな作品かもしれないです。審査員の評価は分かれる傾向がありましたが。そんな作品でも、遠慮することなく、より多数応募してくださることを願います。

いずれにせよ、作品制作のモチベーションは、被写体であるダムへの並々ならぬ愛情なのだろうと思います。審査会ではそのエネルギーに圧倒されっぱなしでした。ダムという被写体が持つ魅力は底知れないなあとあらためて感じました。


大西 成明 (写真家)

今回から審査会のメンバーに加えていただきましたが、各部門ごとに机に並べられたプリント作品を見て、大変驚きました。応募写真の中に、一枚として駄作がないからです。己の「ダム愛」の強さにおいて、誰にも引けを取らないという一途さが、写真の強さとしてクリスタルゼーション(結晶化)を起こしています。だから、こんなピュアな写真を審査できるということが、「目の喜び」でないはずがありません。

写真は、英語ではphotographと言います。photoは「光」、graphは「描く」という意味で、それを日本語で「写真=真実を写す」と訳したものですから、写真発祥のヨーロッパでは「光を描く」というそもそもの意味が変質したと言えます。

でも、このコンテストの応募作を見ていますと、そのオリジンに立ち返って、白いキャンバスに好きな絵の具で「光の絵」を描くつもりで写真を撮る、そんな自由な精神の持ち主がたくさんいらっしゃることを実感できました。

写真の「意味」は、光のドラマの只中に忽然と立ち上がってくるものです。「ダム愛」があれば、「この光でダムを見てみたい」「この光が来なきゃ、撮る意味がない」とまで思いつめた写真が当然生まれてくるはずです。これは愛が強ければ、キリがありません。光の魔術師の、さらなる仰天するようなマジックに、また出会いたいものです。


中川 ちひろ (編集者)

毎年多くのダム写真を拝見していると、ついつい、新鮮な写真を求めてしまいます。そういった意味でも、毎年もうける「テーマ」に応募される作品はとても楽しみなのですが、今回は「いろ」ということで、わかりやすい写真が集まりました。今までに見たことのないような、極彩色の近未来型ダムが多く、ダムの新たな姿を見せてもらいました。

でもよく考えてみると、ダムそのものの姿は経年によってさほど変わりませんから、ダムの写真は、人が見て感じて、ちょっと考えて撮るという一連の流れが、むしろよく写り込むものだと思います。撮影者の個性や感性が、浮き彫りになるということですね。ですからこうして撮った写真を見せていただくと、撮影者の高揚する気分や驚きの気持ちと対面しているようです。感じ方は千差万別なので、自分の気持ちに素直にシャッターを切ると、自然と個性豊かな写真になるのでしょうね。

写真を人に見せるのは、自分をさらけ出すこと! こうして応募してくださっている皆さん、素敵です!

森 日出夫 (WEB広報委員会委員長)

今回は、いつもに増して審査に時間を要しました。年度毎に作風に傾向がありまして、ダムの形そのもののダイナミックさ、機能美みたいなものが中心となる年、一方、一目でダムだとはわからない、どちらかというと芸術性に富んだものが主流になる年という感じです。

ところが今回は、それらが適度にミックスされ、さらに撮影技術もレベルが高い作品が多く出品されました。ですからプロの写真家の審査員も選考には苦労されていました。ブームは応募される方々が作っているという事が実感され、審査の苦労と共に心が躍る審査会になりました。次回も楽しみです。



メインメニューへ

写真コンテスト入賞作品集 目次

第21回フォトコンテスト受賞作品へ