《このごろ》
がんばれる、日本に

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 2011 FIFA女子ワールドカップの優勝者は、「なでしこJAPAN」でした。おめでとうございます!彼女たちの優勝は3.11の震災以降、沈みがちな我が国の空気を一新してくれたと思います。決勝戦、世界ランク1位でこれまでの対戦成績が24戦0勝21敗3分というアメリカチームを相手に、先制点をとられるも同点に追いついて延長戦に持込み、さらに延長戦でも先制され残り数分というところで、またもや同点にしてPK戦にもつれ込んだ末の優勝でした。平均身長で10cmも低い体格差をものともせず、ひたすらボールを追いかけ、ゴールめざして走り回ったなでしこ達の驚異的な精神力と技術は、世界中から賞賛を浴びました。今回の優勝は「がんばろう、日本」を合言葉に、震災からの復興をめざす東北の人々、さらには放射能の影響で故郷を離れることになった福島県の方々にとっても、あきらめずにやり抜けば夢は叶うと、ひと筋の希望の光となったに違いありません。予選リーグでイングランド戦に敗れたとき、監督は選手達に東北の被害状況のビデオを見せて、ここで苦しんでいる人たちのためにも奮起して、ぜひ決勝トーナメントに出られるようにがんばろうと言ったそうです。確かに、東北出身の選手もいる中、選手達はみんなのためにがんばろうと思ったはずです。しかし、ただそれだけで、ここまでの力が発揮できるものでしょうか?一度も勝ったことのないドイツチームや、連敗記録しかないアメリカチームまでもを、うち破ることができるだろうとは、誰も想像しなかったのではないでしょうか?

 「がんばろう」と声をかけるというのはたやすいことでしょう。でも本当のところは、どうしたら「がんばれる」のでしょうか?
 団体競技では、一人ひとりが全力を出すこと。
 互いの弱点をカバーしつつ、総合力を発揮すること。
 個人競技者としては、気持ちで負けないこと。
 最後まであきらめないこと。
 そして、ジャッジが公平なこと。
 などなど、思いつくのはこういったことですが、そこには単なる精神論ではない、何かがあるのではないかと思ってしまいます。

 では、ダムの将来については、どうしたらがんばる力が出てくるのでしょうか?先日、竹林先生に再びお話をうかがう機会がありましたが、水とエネルギーについては、きちんと将来を考えた政策をとらないと、文明が、国が滅びてしまうと嘆いておられました。水については、これから少子高齢化で人口が減るから、水の需要も減るのでダムはもう要らないという意見の方もいるようですが果たしてそうでしょうか?


佐久間ダム(撮影:灰エース)

 東大の沖先生が提唱されているバーチャルウォーター(仮想水)の考え方では、小麦1kgを生産するのに4,500リットル、精白した米1kgを生産するにはおよそ8,000リットルの水が必要とされています。牛肉だって豚肉だって、家畜が飲む水だけでなく、日々食べる飼料を生産するための水が必要になるのです。食料の自給率が40%弱であまりに低すぎると指摘される我が国が、現在以上に農業用水を使わずに自給率を上げる方策があるのでしょうか。

 深刻な原発事故の影響はたしかにひどいものですが、だからといっていきなりゼロにとはならないのに、脱原発を唱えるのも、脱ダムの根拠のいい加減さに相通じるものがあるのではという思いもあります。太陽光や風力と同じ、再生可能な自然エネルギーの一つで実績のある水力発電という言葉すらが、メディアから発せられないのも不思議なことです。

 また、約70万人の人口を抱える江戸川区は、その面積の七割が海抜ゼロメートル地帯という現実からスーパー堤防を洪水時の避難場所としても活用したいという考えがあるにもかかわらず、今の予算規模だと実現までに400年もかかる計算になるから無駄使いだと、いとも簡単に人の命の仕分けをしてしまった政治家の言葉もありました。

 こうした諸々のことが積もりに積もって、どうにも「がんばれる、日本」につながらないのです。何かが違う。がんばろうにも、がんばれない。心が萎える。気持ちが折れ挫折感が漂ってくるのです。

 ゲリラ豪雨のような短期間の気象の変化は極大化する一方で、必要な時期に雨が降らない渇水傾向が続くなど、地球温暖化の影響がじわじわと迫って来るならば、どうしてそれを考慮した政策論が展開されないのでしょうか?目先のことばかりクローズアップされ、本当に大事な議論がなされずに隠されてしまうような気持ちの悪い状況について、誰も何も言わないまま、地震、津波、大雨に洪水と、自然災害のオンパレードが続く様を見ているとそうした憂鬱な気分になってしまいます。しかし、そこでへこたれていては、結果は出ないのでしょう。なでしこ達の活躍は、それを教えてくれたような気がします。基本を繰り返して鍛錬し、目前にある課題を避けず、どうすれば良いかを考え工夫し、対処する。「安全神話が崩壊」などという安易な見出しに騙されず、前土木学会会長の阪田先生の言う「想定外を想像できる想像力」を養っていくことが肝心なのではないでしょうか?他人任せに「がんばれる、日本」を求めるのではなく、自らもうちょっと、がんばってみたいというのがこの頃の雑感です。

(2011.8.16、中野朱美)
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