今日の毎日新聞の記事だそうである. http://mainichi.jp/kansai/news/20110904ddn001040003000c.html
見出しは 「台風12号:2棟流失、死亡・不明8人 増水でダム放流−−奈良・十津川」
一般の方は何とも思わないかもしれない. しかし,このタイトルは明らかに悪意を持っている.
ダム放流で流量が増えたかの様な印象を与えることが目的であることは明らかだ.
もう,何回同じことを言っているか知れないが, いつもながら,2つのことを思う.
一つは,このダムに限らず,増水時にダム上流から流れ込む流量以上の流量を下流に流すことはあり得ないということである.バケツはいっぱいになるまでは下流への流量は上流より少なくなるし,いっぱいになれば,入った分しか出ていかない.
蛇口からの流量が悪いのに, それを受けているバケツから水があふれているのを, バケツのせいにしているような話である.
2つめは,もともと使っている言葉が悪い,といううことである. ダムの出口から出ていく流量は, 文字通り出ていくから,放流しているように見えるだろう. しかし,満杯になれば,あるいは水位を一定に保てば, 入った分しか出ていかない.
これは,流量の通過であって,溜まっていた水の(体積の)放流ではない. (そうでなければ,床固めでも,河道自体でも,いつも「放流」していることになってしまう.)
しかし,これを用語として「放流量」と使っている以上, このタイトルは文字としては正しいことになってしまうのである.
事ある毎に言うのだが, 全量「通過」の状態を「放流」と呼んだら反則ということにするべきだと思う.
貯水量を減ずるときの放流と,単なる全量通過を区別しない限り, こういう記事ダム記事の誤解が解消されないどころか広がるばかり,と思う.
メディアの良心と,言葉の用意. 両方が必要だろう.
メディアを批判するだけではダメなのだ. 「あなたたちの言葉の使い方が間違っている」と言える状態にするべきだろう. 河川行政は,誤解誤解というだけで,そこのところを怠ってきた.
それは,技術屋にありがちな問題のように思う.
追記: このダムは発電ダムだそうだ. 普通に考えて,流量ピークの状況で上流より流量を増やす理由がない.
追記 その2: 「ダム操作に関する用語等の見直し」がH22年6月に行われ, H23年4月に改定されている. http://www.mlit.go.jp/river/dam/main/sousa/yougo110401.pdf これは,操作の用語に関する表現について, 一般に周知するときの表記などの在り方を定めたもので, 操作の細則等での用語は変更していない.
ダム操作の用語に関するものであり, 例えば「放流量」というような表現が修正されたわけではない.
上記についても,字数制限時の表現については取り組みを継続しているとのこと.
(これは、ブログ「sumisumi」2011年9月 8日 (木)に掲載された「いいかげんにしてほしい」の転載です。)
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(2011.9.9、鷲見哲也)
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