《このごろ》
多目的ダムの書籍変遷

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私こと河川一等兵はウィキペディアにダム関連の執筆をしています。
ウィキペディアでは出典の明記が必須であるので、参考文献を漁っているわけですが、一般の書店にはダム関連の書籍がほとんどない。あっても反対派が書いた主観的な参考にもならない書籍だったりします。で、良く利用しているのが古本屋のネット注文。結構色んなものがあって興味深いです。
そうした中で多目的ダム関連の書籍を何冊か購入したのですが、それを時系列にご紹介したいと思います。

1)「日本における多目的ダムの概要」:1954年(昭和29年)発行。建設省河川局刊。

これは日本における多目的ダム関連の書籍では一番早く出版された本です。
当時の多目的ダム事業が全て掲載されており、後年出版される「日本の多目的ダム」の源流ともいえましょう。特徴としては完成しているダムが松尾(小丸川)や長柄(綾川)、内場(内場川)と数えるほどしかなくほとんどは建設中か計画中。ですから建設中の田瀬ダムや石淵ダムなど貴重な写真が載っています。

2)「河川総合開発調査実績概要」第一巻・第二巻:1955年(昭和30年)発行。建設省河川局開発課刊。

これは「特定地域総合開発計画」や「河川改訂改修計画」が各重要水系ごとに地図付きで掲載されているというもの。利根川や木曽川、吉野川などにおける総合開発計画が解説されております。この中には「小歩危ダム」や「沼田ダム」など幻のダム計画についても記載されていますが、驚いたのは貯水量5億トンだの6億トンだの大規模ダムが計画されていたということです。吉野川に計画されていた「大佐古ダム」なんか6億8千万トン・・・徳山より大きいとは。

3)「多目的ダム全集」:1957年(昭和32年)発行。建設省河川局監修・国土開
発調査会刊。

これは1)をさらに充実させたものです。1)よりも完成したダムが増えているのですが、まだまだ建設中や計画中のダムが多いです。また、現在のダムとは異なる型式で計画されていたダムもあって、天ヶ瀬ダム(淀川)は当初重力式として計画されていたんですね。巻末にはいまの「ダム年鑑」に相当する日本のダム一覧表が掲載されていたり、電力会社や建設会社の広告があったりします。御母衣ダムや佐久間ダム、小河内ダムの建設写真なんかもありますよ。

4)「日本の多目的ダム1963年版:1963年(昭和38年)発行。建設省河川局監
修・全国河川総合開発促進期成同盟会編。

いよいよ「日本の多目的ダム」シリーズとなります。その第一弾がこの1963年版。1)や3)に掲載されていなかったダムも掲載され、3)に比べて分厚くなっています。特筆すべきは補償交渉についての詳しさ。色々な苦難を知る事ができます。
そして、改修前の沖浦ダムの写真が載っていることも貴重でしょうか。

5)「日本の多目的ダム1972年版:1972年(昭和47年)発行。同上

「日本の多目的ダム」シリーズの第二弾。私が小学校二年生の時に図書館で見つけ、私をダム好きへといざなった契機を作った罪作りな(!?)本ともいえます。北海道のダム事業が増加していることや八ッ場ダムが初登場しています。ただ、63年版に掲載されているダムの幾つかは掲載されてなくて、63年版の補遺ともいえましょう。

6)「日本の多目的ダム1980年版:1980年(昭和55年)発行。同上

「日本の多目的ダム」シリーズの第三弾。ダムの数が多くなり遂に三分冊化されました。63年版・72年版で掲載された全てのダムが掲載されている他、建設中・計画中のダムも大量に掲載されています。温井ダムは重力式でした。

というわけで、私が所蔵している多目的ダム関連の書籍についてご紹介させて頂きましたが、何か足りません。そう、「日本の多目的ダム1990年版が無いのです。あらゆる古本屋サイトをしらみつぶしに当たりましたが、さっぱり見つかりません。(財)ダム技術センター様、定価で結構ですから、在庫がありましたら是非是非売ってくださいませ!!お願いします!!!

(2008.2.25、河川一等兵)
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