《このごろ》
「人とのつながり」の中に、土木広報の新たな可能性を見出す。

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 先日開催された土木学会・全国大会で、社会コミュニケーション委員会による『震災後の土木広報戦略 −地域社会と共築する幸せづくり−』と題したパネルディスカッションに出させていただきました。土木学会の阪田元会長、山本前会長も参加され、70名近い入場がありました。発表者がそれぞれのテーマでおよそ10分のプレゼンテーションを行い、話題が出揃ったところで、新しい土木の広報のあり方について会場と意見を交わしました。

 当日の発表メンバーは、以下のとおり
○緒方英樹(社会コミュニケーション委員会幹事長・新たな土木広報論の具現化)
○小松 淳 (Web部会長・facebook活用による新たな展開)
○高橋 薫 (土木学会100周年戦略会議委員・土木コレクションの展開)
○大橋幸子(国土交通省 国土技術政策総合研究所・土木の語り部「行動する技術者」
の展開)
○中野朱美((財)日本ダム協会・「ダムマイスター制度でダムのPRの支援の環境づくり」)


 私は、ダムマイスター制度の概要と、これまでの皆さんの活動内容をまとめてご紹介しました。その狙いは、ダムの達人たちがダムマイスターという称号を得て、一般の人と専門家との間の橋渡し役として、どのような活動をしてきたかということを具体的にお伝えすることで、土木広報の分野に、新たな取り組みの可能性を感じていただきたいということでした。

 今から10年ほど前に、初めてダムマニアが自らサイトを立ち上げ、ダムについての情報を一般に向けて発信するようになりました。それから何年もたたないうちに、ダムを見に行って写真を撮ったり、知識や情報を収集するという趣味的活動がどんどん広がっていき、その熱意が伝わってダムマイスター制度の立ち上げにもつながっていきました。


 「ダムの役割を知る」ということを改めて考えてみますと、日常生活を送っている人は、毎朝、起きたら顔を洗い、トイレに入り、朝食を食べます。そうしたごく当たり前の生活の1シーンは、ダムや送電線、上下水道や道路、橋、トンネルなどなど、数え切れないほどの土木インフラのお世話になっていますが、空気と同様、あまりにも当たり前に存在するものなので、誰もその恩恵というものをほとんど意識することはないのだと思います。

 例えば、小学生の時、社会見学に行ってダムや水道について習ったとしても、今は便利になりましたと記憶するだけで、中学校や高校、大学に進んでも、インフラをとくに勉強する機会もなく、土木工学科という名前が付いていない学部に進めば、まったく意識することなく社会人となって、便利な日本の日常に埋没していってしまいます。

 震災後、インフラや土木に対しての重要性について、市民の関心が高まる中、どう伝えていけばよいのかを考えると、今までのような一方通行的な「知らせる」ことに重きをおいた広報ではなく、一般の人が自らの目で見て、何が問題なのかを考え、気づいてもらうことが大事なのではないかと思いました。例えば、人里離れた渓谷にダムが建設される村があるとしたら、その下流には、そのダムの恩恵を受けるたくさんの人が生活する都市があります。川の上下流は、水の流れを通して一つにつながっているはずですが、水についての意識が分断されていれば、有難さを共有する気持ちも違ってきます。

 「絆」という言葉が大きくクローズアップされたこの1年でしたが、ダムのあるなしにかかわらず、川の上下流を結ぶ想いを大切にしていきたい。ダムマイスターの方々が、いろいろな機会を通して、人から人へとダムについての知識や情報を広めてくれるということも、人のつながりを介して新たな土木広報の形として定着していってくれることを願っています。

 ダムに反対意見を述べる、いわゆるダム不要論者に対しても、ダムマイスターは、豊富な知識をもとに、ダムの実態や役割の重要性を説いてくれます。そのソフトパワーは、ダムの本当の姿を理解していただくという大きな目的のために、これからもはかりしれない力を発揮してくれると信じています。

 今回、土木学会の研究討論会で、こうした発表ができたのも、これまでダムインタビューにご登場いただいた方も含めダムの達人のおかげだと感謝しています。

(2012.9.11、中野朱美)
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