《このごろ》
新刊紹介「水力ドットコム - 水力発電所の異空間美景」

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 ダムマイスターのHisaさんこと、阿久根寿紀さんの本が出版された。タイトルは自身で管理されているサイト名と同じ「水力ドットコム」だ。先日ご紹介した宮島咲さんの「ダムマニア」と同じオーム社の発行である。カバーの裏側には、こんなキャッチコピーが出ていた、「土木系エンタテインメント第2弾! 水力発電所のディープな世界!」。出版界では、「土木系エンタテインメント」というジャンルがすでに確立されているようだ。ダムマニアさんが独りコツコツと地図を探り、車やバイクで山奥をひた走り、ダム写真を撮って楽しんでいたダム巡りの楽しみ方が次第に世の中に広まっていったことを思うと、ダムもメジャーになったものだと思えるが、この本を開いてみるともっと奥深い、まさに水力発電所のディープな世界が広がっていた。


 A5判というハンディサイズながらもまるで写真集のような本だ。表紙をめくると大きな水車や巨大な導水管の写真が次々と登場してくる。もちろんダム本体の写真もあるが、主役は水力発電所である。分類としては、大規模なもの、静かな山里の暮らしに溶け込んでいるこじんまりとしたもの、レトロなレンガ造りの建屋など歴史を感じさせる施設などなど。大量の写真を見ているだけでも楽しめるが、この本の奥深さは、それら写真につけられている「般」「揚」「ダ」「流」「貯」といった小さな文字アイコンにも現れている。水力発電というのは、単にダムに貯めた水を落として巨大な水車を回して電気を作るとだけ思っていたが、実はいろいろと特徴があるらしい。まず発電するに当たって、水の位置エネルギーをどのようにして得ているかという発電の種別に始まり、どのようにして水の落差を得ているかという発電形式の違い、さらに水をどのように利用しているかという発電方式の違いといったものをこと細かく解説し、一つひとつ異なる発電所の特徴がわかるような工夫が凝らされている。

 それにしても、よくここまでと感心するのは、掲載している写真は1枚を除いてすべて自身で撮影したもの。またダムや水車、ゲートといった構造物を立体的なイラストで紹介しているが、これらもすべて技術者であるHisaさんがCADで作成しているものだということ。これまで1000ヵ所にもおよぶ発電所を見学し、つぶさに観察してきた著者ならではのこだわりが、こうしたところにいかんなく発揮されている。ダムを造る専門家であるダム技術者の皆さんでも、ここまで細部にわたって水力発電所を紹介している書籍に出会うのはおそらく初めてであろう。土木系エンタテインメントの新しい扉が開かれた。

  A5判、180頁、定価2310円(税込)、オーム社刊
  ISBN:978-4-274-50427-3

(2012.12.17、中野朱美)
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 (Hisa)
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