土木学会の出版委員会と社会コミュニケーション委員会が企画に参画し、取材協力をしたイカロス出版刊「土木をゆく」が、10月10日の発売を前に、土木学会全国大会で先行発売された。
届いたばかりのインクの香りも新鮮なB5判、116頁のMOOK本を開くと、目を見張るばかりの土木写真のオンパレードである。道路、鉄道、トンネル、空港、ダム、橋梁、下水道など、大型土木構造物を網羅的に取り上げ、圧倒的なスケールを感じさせる写真でまず魅せている。また、それらの工事の代表例を詳しく解説。さらに史書に残る土木を追跡して古代から日本の土木の歴史を遡って見せた。また個性豊かな土木写真家6人のコラム。そして、まさに今現場で活躍しているドボジョを登場させるなど、実に豊富な内容で、どの頁をめくっても細部まで手が込んでいる。
写真も文章も迫力があり、技術も詳しく解説しているのでダムや鉄道など、ある特定分野の土木好きにとっても、日頃はあまり土木を意識したことのないライトな建設ウォッチャーでも、この本から入れば立派な土木通になることは間違いないだろう。
私たちは、普段はなにげなく通過してしまっている高速道路のジャンクション、橋、トンネルなどについて、何か考えたことがあるだろうか?それが完成するまでにかかった長い時間の中には、構想を具体化させるまでの粘り強い用地交渉や、地道な作業の繰り返しの構造計算、工夫を重ねて空間を創造する設計業務、重箱の隅をつつくように節約に努めた工費の積算、膨大な資材を効率よく運び、組み上げていく数多くの人々の力仕事がぎっしりと詰まっているはずだ。
この本には、そうした土木の細部が魅力的に描き出されている。どちらかと言えば、縁の下の力持ち的な存在である土木構造物を圧倒的なスケール感をもった、何かわくわくする楽しいモノとして、改めて発見して見事に描き出してくれたという印象を持った。
とくに今この時代に戦隊ヒーローものに目を見張る子供たちを育てている、TVゲーム世代のお父さんたちにとっては、今度の休みには社会見学がてらに見に行ってみようという気にさせる一冊だろう。ここまで網羅的に、これでもかと土木の力を絵で描くように見せた本はなかったのではないかという気がする。
山を削り、岩を砕き、より便利でより安全な暮らしが出来るようにと、厳しい自然に向かって取り組むだけでなく、時には社会の逆風にさらされながらも黙って耐えてきた土木人の頑張りを、これほどまでに丹念に誌面に落とし込んでいくということは、どれほど難工事だっただろう…。編集者の頑張りに敬意を表したい。
改めて頁をめくりつつ、一人でも多くの人がこの本を手にすることがきっかけで、橋やトンネル、ダムを見に行こうと思ってくれればと願った。とにかくボリューム感も十分。何も知らなくてもこの一冊から読み始めればたちまち土木ファンになってしまうだろう。
| | イカロス出版 B5判、116頁、定価1,600円(税込)、イカロス出版刊 ISBN978-4-86320-771-4、2013年10月10日発行
|
|
(2013.9.24、中野朱美)
|
|
ご意見、ご感想などがございましたら、
までお願いします。
|
|