《このごろ》
潜水士さんのお仕事

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今年の秋にスキューバダイビングがしたくてライセンスを取りました。その時にお世話になったショップのインストラクターさん(以下Iさん)と、講習する海へ向かう車の中で色々な話をしました。

三重県松坂市から尾鷲市に向かう途中・・・
自分 「ダイビングショップの仕事ってライセンスの講習だけなんですか?」
Iさん「いえ、他にも色々ありますよ。あそこに火力発電所(中部電力尾鷲三田発電所)があるでしょう。あそこの船着き場の整備とか海水を取り込むトンネルの点検とか。」
自分 「へー、なるほど。」
Iさん「あとダムの点検で潜ったりもしますよ。」
自分 「え?ダムですか?」
Iさん「はい、ここから少し山に入った所にクチスボダムっていうダムがあるんですよ。」
自分 「知ってます!重力とアースのコンバインダムですね。」(大喜び)
Iさん「え?そういう風にいうんですか?」(ちょっと引きぎみ)
しまった。ダムという言葉が出てきて嬉しくなってしまった。ちゃんとお仕事の内容を聞こう。


中部電力尾鷲三田発電所

クチスボダム
自分 「どんな仕事をするんですか?」
Iさん「ゲートの点検とか、ダムから発電所へ水を送るトンネルの点検とかですね。」
自分 「トンネルかあ、怖そうですね。」
Iさん「怖いんですよ。当然真っ暗で。水も冷たいですし。トンネルも1本ならまだいいんですけど、中には迷路みたいになっているダムもあって。」
自分 「クチスボダムも迷路みたいなんですか?」
Iさん「クチスボダムは小さいダムなんで点検しやすかったと思います。あと、ダムは高い所にあるでしょう。標高が高くなると気圧も下がるんで、海とは潜る時間とか浮上方法とかが違ってくるんです。また勉強してみて下さい。」
帰って調べてみると、ダムや水力発電所の保守管理に潜水士さんたちが様々な役割を果たされている事が解りました。インストラクターさんが言っていたゲートや放水路の点検だけではなく、堤体の点検・補修、水質調査、土砂やゴミの除去等の作業があるようです。ダムは人工の湖を作っているわけですからダムの設備には水中に沈んでいる部分が多いのは当然のことですが、実際にどのように保守点検されているかまでは考えが及んでいませんでした。

ダム再開発工事においても潜水しながらの作業が多くあり、鹿児島県の鶴田ダムでの再開発工事では、最大65mの水深で作業するため飽和潜水という方法がとられているようです。水中などの高圧下から急に浮上するなどすると、体内に溶けていた窒素が気泡となり、体内の組織を損傷してしまうのが減圧症です。飽和潜水は減圧症を防ぐために作業期間である1カ月、作業水深と同じ気圧のカプセルのような居住空間で生活し、作業期間が終われば約3日間かけて地上の大気圧に徐々に身体を慣らしていくそうです。

また、ダム湖は流れが少ない為、一定の深さから急に水温が低くなります。底にある冷たい水は5〜10℃前後であり、そのまま放流すると下流の生態系・農業に影響を与えるため、各地のダムには選択取水設備が設置されています。海と違ってダム湖は透明度も悪く、堆積物やゴミなども多いでしょう。自分が潜る立場になると、水中で視界が悪くなることの恐怖や作業することの大変さがよくわかります。


沖縄の海 透明度20m超

台風で濁った海 透明度2〜3m程度

1か月外に出られず、水温10℃、視界が50pの過酷な環境で1日最大6時間の作業。作業員の方々には相当な精神力、忍耐力が要求されます。考えただけで気が遠くなるような話です。(詳しくは鶴田ダムホームページをご覧下さい。)ダムの点検・整備や再開発工事の際には、水を抜いてしまう事ができれば潜水して工事する必要はないのですが、利水(鶴田ダムでは発電)の役割を保ちながら工事をする必要がある場合、水を貯めながらの作業が実施される事になります。鶴田ダムに訪問した事はまだありませんが、訪れた際には特殊な工法や作業員さんの頑張りに思いを馳せながら、下流を守るために生まれ変わった姿を見てみたいと思います。

ダムの機能や役割を十二分に発揮する為に、様々な技術を持つ人たちが働いておられます。潜水士さんはその中でも作業の最前線に立つ人達です。危険で過酷な仕事ですが、これからも安全第一で頑張って頂きたいと思いました。

(2013.12.19、やまとり)
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