《このごろ》
ダム工学会若手の会
〜「ダムを知るための若手技術者勉強会」を開催〜

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 平成26年8月25日(月)から26日(火)に、高知工科大学、和食(わじき)ダム、早明浦(さめうら)ダムにおいて、ダム工学会・若手の会による「第2回ダムを知るための若手技術者勉強会」が開催された。
 ダム工学会・若手の会では、ダムに関心のある人への情報提供のほか、若手技術者に対しての技術継承や技術者間における連携を目的として、これまで6度にわたり「若手技術者のためのダム見学会」を開催してきたが、昨年度から土木を勉強中の学生を対象にダムの魅力を知ってもらうために勉強会を開催している。


【プログラム】

 初日は、高知工科大学で、ダムの基礎知識講座及び四国の水問題についての講義、さらに参加大学による研究発表と、主に座学中心の内容。
 翌日は、まず建設中の和食ダムと早明浦ダムの見学から。和食ダムではまさにこれからコンクリートを打設する前の段階。自らが歩いている場所に巨大なダムが建設されるところである。そこで全員がダムの底になる場所から渓谷を見上げた。次に向かった早明浦ダムでは、監査廊を通り堤体内や周辺施設を歩いて回りダムの大きさを体感しながらの見学となった。今回は、「2日間でダムがわかる」という趣旨で行われた勉強会で、3大学、1高専から学生21名が参集している。ダムを初めて見る大学生もいるとのことで、土木を学ぶ学生にとってはダムを知るための貴重な体験となった。


【イベント初日:バスで高知工科大学へ】

 8月25日朝に高松駅集合の参加者は、バスで高知工科大に向い、講師をはじめ、現地集合の参加者と大学で合流した。当日、構内はオープンキャンパスの真っ只中で、夏休み中の高校生でたいへん賑わっていた。高知工科大は、アメリカ景観建造物協会優秀賞、公共建築優秀賞を受賞しており、「日本一美しいキャンパス」を自称しているだけあってとても綺麗なキャンパスであった。芝生が目につき木々の緑が多いと感じる。ドミトリーは、キャンパス内で一際目立つ高い塔である。初めてこのキャンパスを訪れる中、大学の自由な校風を肌に感じた。


高松駅

高知工科大(右がドミトリー)


【ダムについて学ぶ】

 初日の座学の開始。講義教室で実行委員の石田教授(東京大学)から、この2日間で参加者の間の交流を深めて今後の活動に活かして欲しいと開会の挨拶があり、ダム工学会の紹介と、つい先日起こったばかりの広島の土砂災害などに代表されるこの夏の豪雨についての話があった。最近は、50年に一度といったフレーズをよく耳にするが、そういったことが頻発する気象状況となっている。一方で渇水の発生など水資源の重要性も増している。ダムに対する今後の役割は益々大きくなるので、更なる技術開発が必要になるであろうと話された。
 次いで、(株)建設技術研究所技師長武田理氏より「ダムの基礎知識講座」の講義を拝聴する。武田氏は、ダム工学会として上梓された「ダムの科学」の執筆者の一人でもある。有名なのは香川県の豊稔池、満濃池等で長い間地元の人々に雨水の恩恵を与え続けている。また、わが国の自然条件としては、ほとんどの川は急峻でどこの山でも降った雨はすぐに流れ出してくるという話と、日本に建設されているダムの役割について、またダム用語の解説、ダムの豆知識、ダムの維持・管理方法の話があった。中でも、洪水時に役立つダムの働きとして、豪雨時、台風時の防災操作やただし書き操作についての説明があった。よく「ダムが放水したから洪水になった」という意見があるが、実はダムの洪水調節の現実として“ダムに流入してきた雨水以上にダムが水を流すことはない”という事実があるということを覚えておいて欲しいという話だ。これは同感である。あまりに多くの雨が降っている時にダムが放流していると、なぜこんな時に放水しているのだ?という、素朴な疑問が沸くのは当然だろう。しかし、ダムは降ってきた雨を全部貯めるのが仕事ではなく、ある一定時間、川に流れ出す時間を調整して洪水を防いでいるのだということをしっかりと理解していただきたいと改めて感じた。


石田委員(東京大学教授)

武田理氏((株)建設技術研究所 技師長)


【四国の水問題から見えてくるもの】

 次いで、高知工科大の那須清吾教授から、水不足が多発する一方、洪水の危険度が高いと言われる四国の気候についての解説があった。将来的には、今の起こりつつある気候変動によってさらに厳しい環境におかれると予想される地域の現状を憂いておられる。今は、四国・吉野川流域を対象に気候変動の影響を考慮した水循環、水利用、水環境の自然現象から社会現象に至る統合シミュレーションモデルの研究開発を行っていることを紹介され、地元住民の合意形成に向けて地域の交流をねらいとして情報発信をしていること、さらに四国の水資源政策の適応策としては、行政と市民、利害関係者の相互理解が重要であるという話をされた。今回は、参加者が中国・四国地方の学生ということもあり、身近な問題としてとらえることができた。


那須清吾教授

高知工科大講義室


【短時間で精一杯の研究発表】

 宿泊先の会場では、事前にお願いしていた各チームの研究の紹介があった。岡山大、高知工科大、香川高専、徳島大の研究内容はコンクリート、県内の防災に関する研究、卒研など多種多彩で発表内容について興味深く聞くことが出来た。
 一例を紹介すると、
○岡山大学:学生(8名)と一緒に先生(2名)も参加された。研究室から2つの研究発表を行った。研究室での取り組み方の紹介。
○高知工科大学:大学(4名)大学院(3名)の研究紹介。世界を知り、日本を知るというテーマでサマースクールをアジア中心に毎年開催している。高知県の防災を研究。高知県内の水害、土砂災害の防止についての研究をしている。
○徳島大:一人で参加。農業の第一線を引退してから社会人入学をして現在はコンクリートを勉強中、現役学生に負けない熱意を感じた。
○香川高専:「ボスの卒研」として研究成果を4名で紹介。とても学生らしい元気にあふれる発表で全体が和んだ雰囲気になった。
 参加者にとっては、他の研究チームの話を聞くのはよい刺激になり、またとない経験になったようだ。


研究発表会場

研究発表


【ダムの現場見学へ:初めてのダム現場へ】

 2日目は、高知県安芸土木事務所和食ダム建設事務所で、和食ダムの建設事業の概要の説明を受け現場見学へ向かった。和食川は流域面積が小さく降雨も短期間に集中することが多く水不足になることが多い。洪水から下流を守り、安定した水の供給のために和食ダム建設が計画され、現在、転流工、掘削工、仮設備など、ダム本体工事の前段階の工事が進められている状況だ。当日は晴天に恵まれたが、現地は8月の台風11、12号の他、前線の影響で高知県内では合計2000ミリを超す記録的な大雨があった後であった。現場も被害を受け、取り付けたばかりのコルゲートパイプが流されてしまったという。そんな中、左岸傾斜部でダム底部の基礎掘削面の岩盤をハンマーで叩いて調べる体験をさせて頂いた。学生たちは初めてダムの建設現場を見るということでダムへの魅力が増したようだった。
 和食ダムは、規模が小さいダムだが、洪水調節、利水、河川環境維持に期待が寄せられている。


基礎岩盤を見る

和食ダム集合写真


【四国のいのち早明浦ダムへ】

 和食ダムに続いて、バスで早明浦ダムに向かい、湖畔の「さめうら荘」で昼食後、(独)水資源機構池田総合管理所早明浦ダム・高知分水管理所で「四国のいのち」といわれる早明浦ダムの役割と吉野川の水資源開発について後藤所長からお話を頂いた。ダムの仕事は大変だがやりがいがある仕事なので、若い人達もダムの仕事に興味を持って頂き、将来仕事としてもらいたいと熱いメッセージを頂いた。見学コースとしてはまず徒歩で広い天端を移動し、続いて3班に分かれて堤体内部へエレベーターで降りて、監査廊を歩かせて頂いた。ダム内部は涼しく快適であった。その後、放流施設の見学もできた。ここでは和食ダムとは違い、本物のダムの大きさに皆感激の様子である。その後順路として、ダムの下流施設、発電所などを見学した。


概要説明を聞く

概要説明を聞く


堤体内部を見学

早明浦ダム集合写真


【ダムの理解へとつながる勉強会】

 建設中の和食ダムと、完成した早明浦ダムを見学でき、洪水調節、発電、水道用水、としても重要な役割を果たしているダムの役割について、実物を歩いて見て回ることで実感できたと思う。参加の学生からは、大学間の交流もでき、ダムに興味がもてた、将来はダム現場で働いてみたいという意見が寄せられた。
 今回の勉強会では、安全な飲料水の確保、便利で快適な生活環境を守るためにも、ダムが頑張っていることが体感してもらえたと思う。これからもダムに興味をもって、将来の研究にも今回の勉強会を役立てていってもらえたらと思う。

[関連ダム] 早明浦ダム(元)  和食ダム
(2014.9.2、中野朱美)
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