《このごろ》
ダムマイスター研修会「藤沼ダム建設工事見学会」

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 平成27年6月20日(土)、ダムマイスター研修会が行われました。今回は、復旧工事が進められている福島県の藤沼ダム建設現場を見学することになりました。旧藤沼ダムは、4年前の東日本大震災の際に本堤が決壊したため、下流域に人命を伴う大きな被害をもたらしました。


1.現地事務所

 はじめに現地事務所において、福島県県中農林事務所農村整備部の渡邊様と安藤ハザマ・三栄特定建設工事JV所長山岸様より、藤沼ダムの概要についての説明がありました。

 旧藤沼ダムは、本堤体と鞍部に設けられた副堤体によって構成される貯水池を持つダムでした。ダムの直接流域面積は小さく、貯水量のほとんどは一級河川阿武隈川水系簀ノ子川の上流部からトンネルを経て導水されていました。復旧工事は、決壊した本堤と大きく損壊した副堤の跡地にそれぞれ新しい堤体を建設するものです。


現地事務所での説明

 現在、旧藤沼ダムから農業用水を受けていた農地は、簀ノ子川から導水することである程度の作付けが行われているそうです。しかしこれでは、農業用水を自転車操業的に管理しているようなものです。もし旱魃が起こった場合には、稲は枯死することになり、それまでの農作業がすべて無に帰してしまいます。当然、農家は大幅な減収となります。安定した営農のためには、一刻も早い藤沼ダムの復旧が望まれることになります。
 ただし、この地に貯水池を再構築するためには、地震で堤体が決壊した原因の究明と再度大規模な地震が起きても決壊させないための十分な安全対策が大前提となります。


旧藤沼ダムの決壊原因

 専門家による検証の結果、激しい地震の揺れで堤頂部の盛土が貯水池側にすべり、ほぼ満水状態であった貯水池の水が低くなった堤体を越流したことで決壊が起きたものと結論されました。

 地元の方の中には、重力式コンクリートダムによる復旧を望む声も強いようです。もっともな要望だと思います。しかしながら、ダムサイトの地質は「白河層」と呼ばれる凝灰岩です。那須火山帯の火山噴出物が造った白河層は、地球規模の歴史では、新しい年代の岩盤となります。それゆえ、重力式コンクリートダムを建造する岩盤としては適したものではありません。これらの検証結果を踏まえ、調査と検討を重ねた結果、中心遮水型フィルダムとして復旧することが最も適切であると判断されました。設計上は、海溝型の地震波でも直下型の地震波にも耐えうる構造となっているということでした。


ダムサイトのボーリングコア

 本堤・副堤ともに天端標高は、旧藤沼ダムと同じ高さ(EL=417.4m)です。しかし、新しく建設される藤沼ダムの高さは、それぞれ、本堤31.4m(旧本堤の堤高は18.5m)、副堤18.0m(旧副堤の堤高は10.5m)となっています。すなわち、より安全度の高い基礎岩盤を求めて深く掘り下げた結果、堤高が高くなったということです。


2.本堤ダムサイト

 旧堤体と同じ位置に新しい藤沼ダムが建設されます。


見学者

 中央のやや赤みがかった部分は旧堤体の痕跡であるということです。最終的には、上流面・下流面ともに斜めの赤線の部分まで、新しい堤体が盛り立てられます。


ダムサイト右岸

 コンクリートが吹き付けられている部分は、岩盤の劣化を防ぐための処理です。堤体右岸側地山には、かつての取水トンネルのコンクリートが顔を出していました。この内部はすでにコンクリートを充填して閉塞されており、堤体の安全性には何ら影響はないそうです。


旧取水トンネル

 本堤の盛立は、本年6月22日に着手されます。なお、本堤も副堤も冬期休工期間が設けられています。冬期はアースフィルダムに使用される土が凍結するためです。このように、細心の注意を払って工事が進められています。


建設中の浸透水観測室

 堤体下流部には、「浸透水観測室」が新たに設置され、堤体完成後は堤体の管理が強化されます。


コンクリート打設中の洪水吐

 洪水吐は、左岸地山の部分に設置されます。流路は旧藤沼ダムのものと同じ谷となりますが、新たに導流路となる躯体の打設工事が進められていいました。また、左側には管理用の道路が設置されます。


3.副堤の盛り立て状況

 中央のブルーシートで養生されている部分が、遮水壁(コア)となります。その両脇がフィルターゾーンで、それを支える形でランダムゾーンの盛り立てが行われていました。


副堤の盛り立て状況

 堤体上流面には、ロックフィルゾーンが設けられます。上流は貯留水の影響を受けるため、堤体の保護を目的としています。水平幅は4mで、重機による転圧に必要な幅が確保されています。


ロックフィルゾーン(作業員の方が目視点検中の部分)

 写真からは分かり難いのですが、ランダムゾーンとロックフィルゾーンの間にもフィルターゾーンが設けられています。


ロックフィルゾーンとランダムゾーンの間のフィルターゾーン

 副ダムの盛立工は、昨年10月1日から開始され、この日の時点での進捗率は44%(堤高18.0mのうち、7.6mの盛り立てが完了)でした。また、副堤の下流部にも、新たに「副堤浸透水観測室」が設置され本堤同様の管理が行われます。


建設中の副堤浸透水観測室

 コア材などは、副堤下流のかつて水田があったところに仮置きされています。この仮置場は、旧藤沼ダムの決壊により導水が不可能となった水田を一時的に利用しています。新しい藤沼ダムが完成した後は、水田として復活する予定です。また、そのための土も掘り起こして保管してあるということでした。


テントの中のコア材


盛立材料仮置場

 旧藤沼ダムも、新しい藤沼ダムも分類上は同じアースダムとして一括りされてしまいますが、実際は全くの別物ということができます。


 見学会は、その後、現場事務所の会議室をお借りして懇親会を行い無事終了しました。なお、本堤工事現場には見学広場が設置され、盛り立ての様子を間近に見学することができます。ご都合のつく方は、これから本格化する本堤の工事を見学に行かれてください。


見学広場(日曜日は閉鎖、その他立入不可の時間帯あり。)

[関連ダム] 藤沼ダム(再)  藤沼副ダム(再)
(2015.6.23、安部塁)
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