渡良瀬遊水地右岸(西側)の道路を走行すると、次々と目まぐるしく変わる県境を通過することになります。この道路は主要地方道佐野古河線という名称で、栃木県佐野市と茨城県古河市の中心部を結んでいます。
渡良瀬遊水地 本来、県道ですから各県の行政権で独自の路線番号を付与すればよいはずです。しかし、この道路は途中通過する群馬県と埼玉県を含めて「県道9号線」として統一され、ドライバーがあまり混乱しないように配慮されています。
主要地方道佐野古河線(栃木県・群馬県・埼玉県・茨城県道9号線) このように複雑になった事情は、蛇行していた渡良瀬川の流路を県境としていたことに由来しています。谷中湖(渡良瀬貯水池)の案内板を見ると、貯水池や道路などの人工物を無視するかのように入り組んだ県境が描かれています。その渡良瀬川は、明治末期から大正時代にかけて現在の渡良瀬貯水池東側を流れるように付替えられました。こうして、かつての流路は部分的に陸地となり、今日に至っています。
谷中湖案内板 日本の国土には、北海道と沖縄県を除いて陸上に県境があります。2県の県境は珍しいものではありませんが、3つの県の県境が集まる場所は限定されます。県境は、歴史的に山の尾根や谷(河川)など基準として定めらたようです。このため、3県の接点は、地形図を見ても非常に険しい山岳地帯の中に置かれることが多いようです。
こうして、通常では簡単に近づけない3県境も地形図を見ると渡良瀬遊水地の近くの陸地(埼玉県加須市・群馬県板倉町・栃木県栃木市)に存在していることがわかります。以前、スポーツ遊学館(「道の駅きたかわべ」に併設)の方に尋ねてみたところ、その場所に行っても、記念碑や標識のようなものは特には設置されていないということでした。
立札、後ろは「道の駅きたかわべ」 ところが最近の報道で、その場所に立札が設置されたということを知りました。そこで、さっそく見学してみることにしました。「道の駅きたかわべ」に駐車して徒歩で現地に向かいます。それほど歩くことなく、立札のある場所に到着することができます。なお、この道の駅にある「スポーツ遊学館」では渡良瀬貯水池のダムカードが配布されています。
3県境の立札 報道によりますと、この立札のある場所付近が3県の境界となるそうです。今後さらに、精密な測量調査を行ない正確な地点を特定するそうです。現在でもなおその境界点が明確に特定されていないという事実に少し驚きを感じました。 この付近で、たとえば埼玉県側にいる少年と栃木県側にいる父親がキャッチボールをしたと仮定します。すると、子どもが投げたボールが群馬県上空を通過して父親のミットに入るという不思議な体験をすることができます。
渡良瀬遊水地からの筑波山 渡良瀬遊水地付近には、もう一つ埼玉県加須市・栃木県栃木市・茨城県古河市が形成する3県境があります。その地点は地形図から判断すると渡良瀬遊水地第1排水門から少し下流の渡良瀬川水面下に位置するようです。
渡良瀬遊水地第1排水門と渡良瀬川 なお、関東地方では、埼玉県幸手市・茨城県五霞町・千葉県野田市が県境を接していますが、その地点は、江戸川の流路の中です。また、東京都葛飾区・埼玉県三郷市・千葉県松戸市にも都県境が存在しますが、こちらもまた江戸川の流路の中という結果です。こうして見ると、上記のスポットは、気軽に人が立つことができる珍しい3県境なのかもしれません。
周辺観光マップ(道の駅きたかわべ)埼玉県行田県土整備事務所作成 道の駅からも近く、また東武鉄道日光線柳生駅から徒歩7分という好立地です。この立札は地権者の方が設置したそうです。今後、地元の方々は、ラムサール条約に登録された渡良瀬遊水地と合わせて地域振興につなげたいと考えているようです。このスポットは現在のところ民有の農地内にありますので、見学される方は地権者や近隣住民にあまり迷惑をかけない形で訪れてください。また、道の駅きたかわべ(埼玉県加須市)は、地元埼玉県のものばかりではなく、隣接する群馬県・栃木県・茨城県の名産品も販売されていますので一石四鳥のスポットとなっています。
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