平成28年10月11日、台風の影響で当初予定日より10日ほど遅れて浅川ダムの試験湛水が開始されました。田中康夫長野県知事(当時)の脱ダム宣言の象徴とされ、一時は“死刑宣告”まで受けた浅川ダムが、こうして新たな段階を迎えたことに一人のダム愛好家として感慨深いものがあります。
浅川ダム堤体 試験湛水用のゲートはすでに常用洪水吐スクリーンの中に設置されておりました。そのためイメージしていた「スリットにゲートが落とされる」というシーンは、今回は見ることができないようです。その代わりゲートを降ろしている作業音は聞こえるということでした。
常用洪水吐(上流面)スクリーン 少し早めに現地に到着しました。平日ということもあり、見学に来られた方はそれほど多くはなかったようです。
一般の見学者 作業員の方が、天端の移動式のクレーンに吊り下げられて常用洪水吐きに向かいます。
クレーンで吊下ろされる作業員の方 しばらく、この現場には来ておりませんでしたが、上流部はきれいに整備されていました。浅川右岸には立派な魚道も設置されていました。
天端より上流部
浅川右岸に整備された魚道 かつて浅川を転流する仕事をしていた締切堤にはスリットが入り、その部分を浅川が流れています。今後は、大規模な土石流や流木を補足する仕事を担います。
スリットが入れられた締切堤(上流面) 予定通り午前11時から建設事務所による安全祈願式が開始されました。
試験湛水安全祈願式
安全を祈る神職 神職が提体を清め、試験湛水が無事に終了することを祈願します。
提体を清める神職 その後、建設事務所所長による挨拶が行われました。式典は粛々と進みます。
建設事務所長の挨拶 予定時間になり、ゲートが閉塞されることになりました。この指示は、天端で待機中の浅川改良事務所長が旗を振って合図をすることになっています。
天端で待機している浅川改良事務所長 そして、白い旗が振られました。浅川改良事務所長から試験湛水開始の指令です。いよいよ試験が開始となりました。
浅川改良事務所長による試験湛水開始の指令 実際にゲートが動く姿を見ることができたのは、現場作業を担当した方のみであったと思います。しかし、立ち会った私たちはゲートが降ろされてゆく音を確実に聞くことができました。
サーチャージ水位 ところで、見学に来た一般の方の中には、「試験湛水はだめだ、地滑りしたらどうするんだ。止めた方がいい。」などと言う方もいらしていました。しかし、試験湛水は誰も答えを知らない卒業試験です。地滑りやその他の異常がある可能性が絶対に否定できないからこそ試験を行って安全性を確かめるのです。
試験湛水開始直後の常用洪水吐流入部 もし、少しでも異常を示すデータがあった場合に、爾後の対策を講じる目的のために行われるものです。すでに建設が完了している河川構造物をこのまま放置したら、それこそ危険です。当然ではありますが、いまさら、この堤体を解体・撤去するという選択肢はあり得ません。
取材に来られた報道関係者 この提体は、完成後は長野市民を洪水被害から守る重要な砦となります。試験湛水において、万一にも不具合があった場合に、それを早期に発見して修正することになります。
試験湛水前のスクリーン付近 この試験湛水では、水位がEL=525mを超えた時点で低水放流設備からの放流が開始されます。この放流は、河川維持放流を兼ねて水位の上昇が1日1m以内となるように調節するためのものです。
低位放流設備の流入部、EL=523m付近
浅川ダム下流部 直下の橋上から、この放流を見ることができるのは試験湛水期間のみの特典です。本日は下流側が落石のため立入禁止となっていましたが、整備が完了次第、数日中に開放される見込みということでした。
低位放流設備からの放流部 なお、実物を直視できなかったゲートは試験湛水の最終段階で撤去するそうです。ゲートを降ろすところは見ることはできませんでしたが、引き上げる作業は日程が合えば見学できそうです。今後も注目すべきポイントが満載の浅川ダムです。試験湛水期間限定のバルブ放流と新そばをセットにして信濃の紅葉を愛でにお出かけください。
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