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《ダムの小説と河川文学》

 終わりに、ダムの小説について、河川文学との関連で考えてみたいと思う。

 初めて、文学作品のジャンルに「河川文学」と称したのは、高崎哲郎ではなかろうか。高崎哲郎著『開削決水の道を講ぜん−幕末の治水家船橋随庵』(鹿島出版会・平成12年)に「河川文学小品集」という表現があったからである。

 河川文学をどう捉え、どう定義するかは難しいものの、敢えて次のように試みた。「河川文学とは、河川を治水、利水、親水の観点から捉えて、公共の福祉のために施行される事業、その事業に尽くす人々の人間性を追求した小説、記録、評伝の作品である。」

 このような定義に基づくなら、宝暦治水を描いた杉本苑子の『孤愁の岸』(講談社・昭和38年)、豊田穣の『恩讐の川面』(新潮社・昭和59年)、松浦節の『約束の奔流−玉川上水秘話』(新人物往来社・平成15年)、タカクラ・テルの『箱根用水』(東邦出版社・昭和46年)、峯村淳の『大欲−小説河村瑞賢』(講談社・平成13年)、HNS研究所(松江市)の出版、出雲の三治水偉人を捉えた村井敏夫の『清原太兵衛』(平成9年)と『大梶七兵衛』(平成14年)、交易場修の『周藤彌兵衛』(平成6年)、大石堰開削の五庄屋を描いた林逸馬の『筑後川』(第一藝文社・昭和18年)、延岡五ケ瀬川岩熊井堰開削に係わる城雪穂の『藤江監物/笛女覚え書』(鉱脈社・平成8年)、さらに、上林好之の『日本の川を甦らせた技師デ・レィケ』(草思社・平成11年)、同様に、デ・レィケを描いた三宅雅子の『乱流』(東都書房・平成3年)、高崎哲郎の『評伝 工人宮本武之輔』(ダイヤモンド社・平成10年)などの小説や評伝も河川文学の作品となる。

 河川文学は、水を媒介とする河川をテ−マとしたものであり、事業や人物を扱った作品であっても、その根底には河川が描かれていることが必要である。このような意味で、ダムの小説もまた、当然に河川文学のジャンルの一つに含まれるものである。


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