《銅山川分水による製紙業の発展》
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ここで銅山川分水による製紙業の発展について考えてみたい。愛媛新聞社編・発行『愛媛県大百科事典』(昭和60年)に「宇摩地方は藩政期から手漉き和紙がつくられてきた。機械漉き製紙は大正3年スウェ−デン製長網式抄紙機が輸入されたのを契機に始まり、昭和22年に洋紙生産が本格化した。この地方が伝統的な和紙の生産地であったため、製紙業に従事する人が多く、技術導入、改良に積極的だったことや原材料の仕入れ、販売体制が確立していたことが発展の足掛かりとなった。」と、書かれている。
さらに、水資源開発公団吉野川開発局編・発行『水の講演集』(平成8年)で愛媛県紙パルプ工業会専務理事小谷良太郎は「伊予三島、川之江市における紙産業」について次のように述べている。
「この地域における、紙関係の製品統計が出ています。機械漉き製紙業、それ から紙加工業、手漉き製紙業という分類ですが、これを見てみますと全生産額 で 4,468億円という数字で、企業数 322あります。この三島、川之江で 322も の紙関連の会社があるわけです。 ここで、機械漉き製紙業の数字を見てみますと、そこの生産量が年間で平成 6年度で 267万 484tという数字です。この数字は、その次の3枚目に資料が 出ておりますが、愛媛県の生産高推移、全国の生産高推移が出ておりますが、 これと比較してみますと、平成6年、267万 484tは、全国の中で、9.4 %を占 めているということです。ちなみに、平成6年度の世界の生産量は大体、2億 6千tぐらいといわれています。従いまして、大体世界の1%に該当するとい うことで、狭い三島、川之江で世界の1%を生産していると数字上では言える わけです。種類も豊富で、地元では紙幣、切手、収入印紙以外はほとんど何で も出来るというふうに自慢しておられます。種類が非常に多いということ、単 一面積では生産高が非常に高いというのが、三島、川之江の特徴です。国民一 人当たりにすると、今日本では一人あたり 240kgぐらいの紙を使っています。 アメリカでは、すでに 370kgぐらいまでいってますので、日本ではまだまだ紙 の需要が伸びるだろうといわれています。(中略)三島、川之江地区で今日こ れほど紙の生産が盛んになって大きく伸びてきたというのは、銅山川の利水に よるものと認識しています」
このように銅山川の分水によって、工業用水の確保と電力供給が順調に進んだ結果であるといえる。平成15年愛媛県紙製品の統計によれば、川之江、伊予三島の宇摩地域では全生産額6516億円、生産量 651万8493トン、会社数96社、従業員12,873人となっている。
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すでに述べてきたように先人たちの血のにじむような努力による銅山川の分水が、今日の宇摩地方の経済発展につながっており、柳瀬ダム、新宮ダム、富郷ダムの三ダムによる水資源開発は、その発展に大きく貢献していることがわかる。四国中央市の誕生によって、さらなる農業、産業、商業の均衡ある持続的な発展を期待したい。
この銅山川分水の恩恵に感謝し、分水事業に貢献された先人たちの遺徳を偲ぶために、昭和48年から毎年4月戸川公園で「疏水感謝祭」が行われている。また、ダム建設に伴う水没者の方々に深く感謝し、さらに水に感謝する気持ちと嶺南地域の活性化の一助として「湖水まつり」が行われている。先人たちの恩も、水没者の方々の恩も、ダム工事等で犠牲になった方々の恩も、決して忘れてはならない。そして、これらの恩は後世に伝えていかねばならない。
<幾人の尊き命果てしめて生れたるダムの白きかゞよひ> (水落 博)
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