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大鳥圭介・初翻訳のダム建設技術書

 明治15年(1882)4月、工部省工部技監大鳥圭介(旧幕臣、天保4年(1833)−明治44年(1911))は『堰堤築法新按』(えんていちくほうしんあん、287ページ)を丸善から翻訳・刊行した。この初翻訳書の英文原典が特定できた。“Construction of Mill Dams”で、1871年にアメリカ・オハイオ州スプリングフィールドのジェームズ・レッフェル社(James Leffel and Co.)から初版が刊行された。大鳥は翻訳文中で同社の所在地をマサチューセッツ州スプリングフィールドと記しているが、これは明らかに誤記である。日本で初翻訳されたこのアメリカの初期ダム建設技術書に着目した土木史研究者は決して多くはない。
 同書は、勝海舟と伊藤博文の推薦文が載せられている。海舟の推薦文(漢詩・草書体)を和文に訳す。名文である。

「情を究(きわ)めるは造化の理(ことわり)、学を貫くは天人の際(まじわり)」


 『堰堤築法新按』の原著を入手した経路は不明だが、明治6年(1873)6月訪米した際ニューヨークの書店で購入したのではないかと思われる。大鳥が語学の天才であったことは著名であり、英語・オランダ語は読み・書きかつ会話に不自由しなかったとされる。訳者大鳥は、土木工学や農業土木に知識のない農民や村の職人でも理解できるように、翻訳本が現場での工事関係者に参考になるようにと、ダム(または堰)建設の作業工程が詳しく分りやすく記述している。同時に詳細な図面が数多く掲載されているのも大きな特徴である。内務省はお雇オランダ人技師の指導を受けながら大河での河川改修工事を進めていた。河川技術書として、長工師ファン・ドールンは明治5年(1872)『治水総論』を著した。河川改修の技術解説が中心でダム・堰の建設法は論じていない。私は大鳥圭介の生涯に強い関心を抱いている。(松浦茂樹氏の土木史論文を参考にした)。


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