京都大学 大学院工学研究科 都市環境工学専攻 准教授 水戸 義忠
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2.ダム情報の総合サイト
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膨大な情報をベースとした日本のダムの総合サイトといえるのが,財団法人日本ダム協会のウェブサイトである。 このウェブサイトの主要コンテンツである「ダム便覧」(http://damnet.or.jp/Dambinran/binran/TopIndex.html)は,「ダム年鑑」に使用されているデータを基礎とする膨大な情報を統一的なフォーマットで整理したページであり,ダムに関する情報を極めて要領よく手軽に閲覧することができる。また,技術的なコンテンツとしては,「ダム事典」と「テーマページ」と呼ばれるページがある。このうち「ダム事典」はダム工学に関わる基本的な用語集となっており,ダム工学の入門者や大学(院)生にとって非常に便利なサービスである。一方,「テーマページ」にはダム工学に関連する技術者にとって有益な議論が数多く収録されており,あらためてインターネット時代の便益というものを実感する次第である。
なお,日本ダム協会のウェブサイトにおいては,「キッズ・コーナー」および「ダム雑学コーナー」と題する,子供から大人までが楽しんでダムに関する知識を学べるコンテンツがあるが,これらのページは一般の国民がダムについての正しい科学的知識を理解するのに大いに役立つものと考えられる。一連のダムに関する議論や報道の中には,正しい科学的知識に立脚していない極めて印象的な内容や数字の独り歩きも少なくなく,このような誤解を防止してフェアな議論をする上でも,このようなコンテンツによる教育活動が重要な役割をもつものと思われる。
さて,日本ダム協会のウェブサイトは,極めて優れたダムの総合サイトであるが,ダム事業全般に対するコンテンツをより一般的に広く発信するためには,このような総合サイトをさらに一歩進めた「ダムのポータルサイト」の開設が重要であると考えられる。すなわち,ダムに特化した「入り口」となるウェブサイトを構築することによって,ダムに関するウェブサイトにアクセスしたいユーザーが,各種コンテンツに容易に到達できるようにするものである。取り扱うコンテンツとしては,ダムのデータベースの他に,ニュース,プロジェクト報告,関連ウェブサイトへのリンク集(ダム関連の事業所・管理所・学会・企業・団体・教育機関など),イベント(見学会,学会など),文献検索,書籍・映像資料,教育(小・中・高生,一般,大学生,技術者などレベル別),掲示板などが挙げられる。なお,上記の各種コンテンツのサブシステムをすでに構築している日本ダム協会のウェブサイトがこのようなポータルサイトに発展していくのが,最もスムーズな形であると筆者は考える。ダムのポータルサイトの構築のためには,綿密なシステム設計や官民学の共同作業が必要になるものと考えられるが,日本のダム分野の持続的発展のためにもぜひとも実現してほしいマターである。
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4.ダム運用情報の発信サイト
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インターネットのような速報性があるメディアによってダムの放流などの運用情報をリアルタイムに発信することは河川流域の住民の安全を確保する上で極めて重要である。もちろんセキュリティや風評被害の防止などの観点からそのすべての情報を明らかにすることは不可能と考えられるが,ダムが普段の生活に役立っていることを検証する上でも,わかりやすい表現で積極的に運用情報を公開することは,真のオーナーでありユーザーでもある国民に対する説明責任であると考えられる。
このようなダムの運用情報を発信しているウェブサイトに国土交通省の「川の防災情報」(http://www.river.go.jp/)がある。従来,ダムという構造物の管理についてはリアルタイムデータを基に管理事務所でその安全性を確認してきたが,国民の防災意識の高まりから,近年はこのようないわゆる上流側の管理情報に加えて,下流側の安全情報をリアルタイムに発信することが重要視されるようになってきた。もちろん警報システムによる情報伝達はこれまでにも存在したが,本格的なインターネット時代を迎えている今日,河川利用者に対して基本的な知識とリアルタイムの運用状況をインターネットを通して提供し続けることは,未然に危険を回避する上での重要な試みと考えられる。また,このような情報を基に,ダムによる防災効果をその都度定量化して発信することが将来の課題と考えられる。このことは,治水面に限らず,利水についても積極的に公開すべきであり,このような透明性の高い情報をベースにして,真の意味でのダム建設の是非を議論すべきであると思われる。
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5.ダム建設是非の議論サイト
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誰もがアクセス可能で透明性の高いインターネットで,ダムの建設の是非に関する議論を公開したウェブサイトの一つに,国土交通省近畿地方整備局の「淀川水系流域委員会」(http://www.yodoriver.org/)がある。この委員会での委員の発言内容は,ウェブサイト上において「会議録」という形で全文が公開されている。また,この会議録に対する一般からの意見も受け付けられていてその全文が公開されている。これまで,このような議論は報道機関によって編集され報道されてきた。しかしながら,科学的専門知識の欠如などにより意思の疎通が生じると,文字が独り歩きして内容が極めてセンセーショナルとなることもあり,この誤解がさらに独り歩きするという悪循環を生むこともあった。インターネットの場合では,会議録を全文掲載することができ,そこには編集が介入する隙間はなく,そのような意味においては,議論内容の公平な公開の場となっている。なお,このような議論をより客観的な立場を目指しながら解説するウェブサイト(例えば,「ダムの建設の是非」Wikipedia)もある。
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6.ダム工学会の取り組み
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以上いくつかの代表的なウェブサイトを紹介してきたが,最後に,ダム工学会のウェブサイトについて紹介しておきたい。
ダム工学会では,ダム工学会の活動を紹介するホームページ(http://www.jsde.jp/index.html)を運営している。最近では,このプラットフォーム上から会員にメールマガジン「ダム工学会メルマガ通信」も配信されるようになり,ホームページの存在も次第に会員に知られるようになってきた。また平成20年1月からは,「ダム工学」に掲載された論文,報告,ノートの一部が,独立行政法人科学技術振興機構が提供するJ-STAGEでオンライン公開されている。このような取り組みによって,ダム工学会発足趣意書にある,
(1)学際的かつ総合的研究を重視する。 (2)新技術の開発・応用など,創造的,先導的な研究を重視する。 (3)学際問題への適用を図るために,学,官,民の研究者,技術者の交流を促進する。 (4)国際的な交流と協力を積極的に図る。
を4つの柱としてダム工学研究の向上発達を図ることを目的とする上での,オンライン上のプラットフォームが概ね構築されつつあるものと考える。ただし,上記4つの柱のうち,(4)の「国際的な交流と協力を積極的に図る」という点については,現在のところ,十分に整備されている状況にはないと言わざるを得ない。
環太平洋の地震帯に位置するわが国のもつダム工学技術は,世界のダム技術の中でもとくに優れた耐震性に関する体系的なノウハウを持ち合わせている。また,日本の地形は急峻であるためにダムの需要が高く,これまでに多くの施工実績を挙げて経験が豊富であるという特長をもつ。このため,わが国のダム工学技術は,わが国と同様な地質・地形条件を有する東南アジア諸国においてとくに適用性が高い技術と考えられる。しかしながら,これまでにわが国の総合的なダム技術を海外に向けて十分に発信するプラットフォームはほとんどなかったといえる。
そんな中での,本格的インターネット時代の到来は,日本のダム工学分野にとって大きな一つの好機と考えることができる。インターネットを通して,日本が有する高度なダム技術を戦略的に海外に発信し,これを技術移転のベースとして,例えば東南アジア諸国と国際的な交流と協力を積極的に図ることができれば,日本のダム工学分野の一つのブレイクスルーとなる可能性もある。いずれにしても,英語版ウェブサイトによる日本のダム技術体系の発信や英文電子ジャーナルの発刊などの国際化を,ダム工学会が真剣に検討する時期に来ているものと考える。
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これは、ダム工学会「ダム工学 Vol.18 No.4 2008」からの転載です。
(2009年7月作成)
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