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◇ 6. 海岸侵食の実態

 国土開発調査会編・発行「河川便覧2006」には、日本の海岸線総延長は35 126qと記されている。戦後高度経済成長以降、白砂青砂の海浜が急速に失われ、砂浜がコンクリートに覆われた海岸が増え、砂浜が消え海岸侵食が進んだ。その実態を捉えた宇多高明著「日本の海岸侵食」(山海堂・平成9年)、同著「海岸侵食の実態と解決策」(山海堂・平成16年)がある。この書によれば、海岸侵食とは、波の作用によって陸地が削り取られ消失することである。海岸侵食の原因については、地盤沈下や地殻変動に伴う陸地の沈降を除くと、海岸での土砂バランスが崩れることに起因して生じる。海浜では、波の作用の強弱による季節的変動が起きているが、長期的視点で海浜の安定性を左右しているのは沿岸方向の砂移動、即ち沿岸漂砂である。このためある海岸で移動している沿岸漂砂量に比べ、河川や海食崖からの供給土砂量が減少すれば、そこでは必ず侵食がおこる。
 また、浚渫等により海岸から人為的に土砂を取り除けば、その周辺では侵食がおこる。


「日本の海岸侵食」

「海岸侵食の実態と解決策」
 その海岸侵食の原因として次の7つを挙げている。
@卓越沿岸漂砂の阻止に起因する海岸侵食
A波の遮蔽域形成に伴って周辺海岸で起こる海岸侵食
B河川供給土砂量の減少によって伴う海岸侵食
C海砂採取に伴う海岸侵食
D侵食対策のための離岸堤建設に起因する周辺海岸の侵食
E保安林の過剰なる前進に伴う海浜地の喪失
F護岸の過剰な前出しに起因する砂浜の喪失

 ここではBに係わる河川供給土砂量の減少によって伴う海岸侵食とその対策について追ってみたい。
 わが国の多くの河川は土砂生産の盛んな山地より流出しているため、多量の土砂を海岸に運搬して平地を形成してきた。この場合、河口付近では図に示すように土砂堆積により汀線が前進する。一方、多くの海岸では波の作用により土砂が河口から遠ざかる方向に運ばれる。このため河口付近での汀線の前進により入射波向と汀線への法線とのなす角が大きくなると、波による土砂移動量が増加し、汀線の前進が止まって土砂収支の均衡状態に達する。逆に河川流出土砂量が減少すると、河口均衡線は後退する。河川からの土砂流入が完全に止まった場合には、図のように海に突出した河口デルタはそのまま形状を保つことができず、河口部汀線が波の入射方向とほぼ直角になるまで後退し、海岸侵食が進むという。

 この書では海岸侵食の実態として、河川での砂利採取やダムによる土砂の流下阻止によって河口からの流出砂礫量が急減したことに起因して侵食が進んだ、安倍川河口の北に広がる静岡清水海岸と、大井川河口に位置する駿河海岸を実例としてとりあげている。

 さらに宇多氏は、海岸侵食の方策は、基本的には供給される砂礫量を人工的に増加させることであり、現況ではダムについても土砂バイパスを実用レベルまで上げる必要性を説いている。

 安倍川では砂利採取の禁止後、雨で河川からの大量の砂礫が供給された結果、海浜が再び回復しつつあるという。海岸侵食を防ぐひとつの方法としては技術的には養浜工法がある。養浜では、人工的に土砂を運搬するという方法で、漁港や港湾の浚渫土砂を水切りした後、トラック輸送などで行う。浚渫土砂には細粒分が多く含まれているため、海浜に投入する場合濁りが生ずる。今後、浚渫と養浜にかかる経費を安くする方法として、浚渫土砂をバージに運び、そのまま沖合部の波による地形変化の限界水深より浅い海域に投入し、波の作用による粗粒土砂の汀線への回帰が可能な手法について検討してみてはどうかと提案する。


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