第11回 日本ダム協会ホームページ 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の全体評

第11回D-shotコンテストは、219点の作品応募がありました。これらの作品を対象に最優秀賞、優秀賞、入選作品の選考を、平成26年2月25日に日本ダム協会にて行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。


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最優秀賞
「Space fantasy」
長野県・小渋ダム
撮影者:清水 篤
<選評・西山 芳一>
  前回のコンテストまでに優秀賞を4度、入選を6度も受けられ、なんと第6回から連続入賞の氏が遂に最優秀賞の栄光を獲得されました。 今回は5点もの作品が受賞されていますね、おめでとうございます。選者一致、文句なしの最優秀賞でした。 今までの私の選評を少しでも参考にしていただけたのでしょうか? 毎回いろいろなことを言わせていただきましたが、今回ばかりはケチのつけようがございません。 脱帽です。次回からは別の作風にも挑戦してみてください。期待しております。





「ダム本体」部門

優秀賞
「Silk Curtain」
奈良県・坂本ダム
撮影者:声姫
<選評・萩原 雅紀>
  「ダム本体」部門はこのコンテストでもっとも応募数が多かったのですが、会議室の机の上に一斉に広げた作品をざっと見渡した中で、最初に目に留まり、視線を捉えて離さなかったのがこの作品でした。 決め手は何と言っても越流の水量だと思います。 ひとつひとつ太さも軌跡も異なる幾筋もの水流が美しく、タイトルにもある柔らかいカーテンのような表情は、水量がこれ以上でもこれ以下でも現れなかったのではないでしょうか。 また、水流の隙間からアーチしているキャットウォークが見えるのは写真に立体感を出すポイントになっていると思います。 あと個人的に嬉しかったのは、堤体下部にじっと佇む放流バルブが水流の間から見えていること。 さまざまな条件が奇跡的に合わさった瞬間を見事に捉えていて、同じダム好きとして羨ましいと思いました。


入選
「冬の大三角形」
山形県・長井ダム
撮影者:kazu_ma
<選評・萩原 雅紀>
  あまり天気が良くないのに空気はきりっと澄んでいて、いかにも氷点下な感じ。 見ただけで真冬の東北の厳しさを感じられる作品です。 今回は、このようにダム堤体の全景を下流側の正面から撮った、という作品がほとんどありませんでした。 そんな中で、雪深い季節にダムが見えるこの場所まで出かけ、手がかじかみながら三脚を立てて、構図を決め、水平を調節し、絞りや露出を考えながらシャッターを押す、それだけでもう十分にリスペクトです。 そのうえ放流もしているし、遠くの山や鉄塔までクリアに見える。 ひょっとしたら視界が晴れるまでいくらか待ったりしたのかも知れない、そう思うと寒さで背中がゾクゾクしてきます。 堤体の雪化粧もちょうど良くて、とても素敵な写真だと思います。


入選入選
「帯」
香川県・田万ダム
「美瀑」
栃木県・川治ダム
撮影者:Dam master 撮影者:ぽこ
<選評・萩原 雅紀>
  水の流れに沿って上から視線を下ろして行くと、湖の水位のところから弧を描きながら水が落ちはじめ、徐々に空気が混ざって白濁し、 途中からロケットの噴射のように横に広がって、最後に減勢池に落ち込む、という放流における一連の水の動きが時系列で分かって面白いと思いました。 不思議なのは、これだけ大胆な構図、そして放流というダイナミックな光景なのに妙に静寂を感じるのです。放流された水に露出を合わせたかなり暗い色合いと、 落水しているのに驚くほど小さな減勢池の波が逆相的に音の要素を打ち消しているような気がしました。
  ひとつだけ気になったのは、せっかくこの構図で撮るなら、写真の中心線と放流の中心線は揃えた方が気持ちいいんじゃないかな、と思うのですが、どうですか。
<選評・萩原 雅紀>
  こういう写真、僕も撮りたい!と思った作品。空中で止まっているように見える水滴と、流れ落ちている水流が1枚の写真の中に収まっているのが不思議な感覚です。 もし、放流されて自由落下していく水が重力に引かれて加速しているさまを切り取る、というコンセプトだったとしたら、その発想はなかった、と脱帽するしかありません。
  また、堤体の一部を切り取って、印象的な色の光でアクセントをつけることで、何度も行ったことのあるダムでも「見たことある気がするけど、どこだっけ」と考えさせられて面白いな、と思いました。


「ダム湖」部門

入選入選
「朝日の恵み」
滋賀県・永源寺ダム
「夕暮れの比奈知ダム」
三重県・比奈知ダム
撮影者:田中 創 撮影者:ねっす〜
<選評・西山 芳一>
  何気ない風景の中で繰り広げられる朝日と雲との織り成すドラマを絶妙なタイミングで切り取った作品です。 風景などの空間を画面に切り取るのが写真です。しかし、こんな刹那(時間)を切り取るという写真もひとつの写真のあり方です。 狙ったり、待ったりしてもなかなか撮れない光景。一瞬の出会いを大切にしましょう。
<選評・西山 芳一>
  敢えて「朝日・・・」の作品と対にした訳ではありませんが、正反対の作品が選ばれました。 夕日を狙って、西向きのダムを選んでロケハンをし、日没を待つという計算されつくした故に落ち着きのある写真です。 おそらく雲に入ってしまったのでしょうが、もう少し太陽が落ちているともっと素晴らしい夕暮れですね。何度も挑戦してみてください。



「工事中のダム」部門

優秀賞
「リビルド」
鹿児島県・鶴田ダム
撮影者:ベジェ
<選評・森 日出夫>
  鶴田ダム再開発工事の迫力ある全容が、夜間照明の中で躍動感たっぷりに切り取られた作品です。 堤体下流面の穴あけ、減勢工導流壁の構築工事に、大勢の人が忙しく働く姿が想像でき、ダム好きにはワクワクさせられます。 鶴田ダムでは、写真の右岸側の工事が終了した後、放流を切り替え左岸側の工事が進められます。 今現在、この鶴田ダムの他、鹿野川ダム、天ケ瀬ダム等、大規模なダムの再開発工事が全国で行われています。 新規ダム建設とは工法も大きく違っているため、従来にない構図も考えられ、「工事中のダム」部門の新たな被写体になることが期待できます。


入選入選
「点検中」
新潟県・黒又ダム
「夜間工事」
奈良県・大門ダム
撮影者:ふかちゃん 撮影者:安部 塁
<選評・森 日出夫>
  かなり老朽化したダム堤体の劣化診断をしているのでしょう。 堤体上に親綱を張り、安全帯を使って作業しているのですが、ダム天端は狭くて、普通の人ならば足がすくむ場面です。 そこはプロフェッショナル、顔色一つ変えずに作業に没頭しています。 雄大な自然の中、孤独に、真摯に働く姿に共感が持て、凛とした緊張感がある作品に仕上がっています。 「工事中のダム」部門で人に着目した作品はあまり多くありませんので、もっと増えてもいいのかなと思います。
<選評・森 日出夫>
  静かな山間に、巨大な鉄骨構造の物体が夜間照明に浮き出て、幻想的な雰囲気が漂う作品です。 澄み切った星空もこの作品に良くマッチしています。撮影者はシャッターを切る前、しばらくの風景を堪能したのだと想像できます。 大門ダムでは、打設設備に大型のクローラクレーンを使用したので、その移動走行路に鋼製トレッスルが必要になりました。 やはり大きな鋼製仮設構造部がある被写体は、鋼材の色の問題もありますが、夜間が似合います。




「ダムに親しむ」部門

優秀賞
「夏のダム見学」
長野県・小渋ダム
撮影者:清水 篤
<選評・中川 ちひろ>
  美しい構図ですね。コンクリートの塊が写真の多くを占めるのに、なぜか重い印象を受けないのは、全体が曲線で構成されているからだと思います。曲線の中にも、階段の直線がまるでスパイスのように効いていて、ほど良く全体を締めています。「ダムに親しむ」というテーマからはそれますが、思い切ってモノクロにしたら、形がより強調された写真になり、迫力ある一枚になると思います。


入選入選
「聖地巡礼」
富山県・黒部ダム
「校外学習 ダムも自然も」
新潟県・奥只見ダム
撮影者:清水 篤 撮影者:じむにん
<選評・中川 ちひろ>
 切り取り方がとてもユニークです。人物が主題になっているのもよく伝わり、部門のテーマにも合っていますね。写真のポイントのひとつとして、「影」の存在があると思いますが、 この場合は、階段の下に影がないとより平面的で不思議な写真になったような気がします。次回は、太陽が真上にある時間帯で、ぜひ撮ってみてください。きっと、より主題が明確な写真になると思います。
<選評・中川 ちひろ>
  ダムへの校外学習、楽しそうですね。子どもたちはダムに対してどんな感想を持ったのでしょう。ダムの大きさと蟻の行列のように並んで歩く子どもたちとの対比がとても楽しく、素直に撮影した感じが伝わります。とても気持ちの良い写真ですね。手前にある緑と、奥に見えるダム湖の水色の配色も、効果的だと思います。よく見ると、ひとり寄り道をしている子がいます。撮影したときに気づいたかわかりませんが、撮った後の発見も、写真ならではの面白さですね。




その他

優秀賞
「激流の造形」
岐阜県・大井ダム
撮影者:清水 篤
<選評・窪田 陽一>
  「その他」部門で受賞した作品二点は、今回の最優秀賞、そして「ダムに親しむ」部門の優秀賞と入選も獲得された、 いずれも同じ撮影者による作品となりました。合計で5点もの力作を生み出した熱意と技量の高さは、抜きん出たものを感じます。 どの作品もモノクローム調のトーンをしっかりと見据えた、光への冷静な眼差しで、撮影対象に引き込まれずに、むしろ突き放したかのような、 ある意味では禁欲的な枠組みを自らの作品に求めようとしているかのようにも見えます。 ダムの下流の水面に視線を向けているという点は両作品に共通していますが、映像にとらえられたそれぞれの水の様相は極めて対照的です。 意識的に組写真として撮影されたかどうかは分かりませんが、「動」と「静」という、わかりやすくはあるものの、 思い描いた通りの映像を実際に撮影できるとは限らない難題に挑んだ眼差しを、高く評価したいと思います。 乱流が渦巻く轟音が聞こえてきそうな長時間露光も、下手をすれば綿菓子のように水が写ってしまうかもしれません。 そうならずに踏みとどまることができた思い切りの良さが、この作品から伝わってくるように感じます。


優秀賞
「白昼夢」
長野県・泰阜ダム
撮影者:清水 篤
<選評・窪田 陽一>
  一方、この作品では、さざ波一つ立っていない、鏡のように平滑な水面に出会い、その中に舟のように浮かんで見えるコンクリートの塊が、 「これは何だろう?」と思わせる形で現れ、抗し難く視線を引き寄せ、その背景に倒立して水面に映るダムの堤体の姿へと眼差しを誘う、 という構図の中に生起する風景をとらえることに見事に成功しています。 「これは何だろう?」と怪訝な眼差しを向ける状況を、古代の哲人はタウマゼインと呼びました。 持ち前の知識では解読不能な、それでいて無視することができずにあれこれ思索を巡らせるように導かれてしまい、 これまで出逢ったことがない眼前の眺めに心を奪われる、ということです。自然生態系の危機を描いた作家として著名なレイチェル・カーソンは、 甥と一緒に過ごした日々の中で「センス・オブ・ワンダー」つまり「素直に驚くという感覚」こそ人間の成長に不可欠なのだ、と気づきました。 沈黙するダムの一隅に潜んでいた眺めに宿る能弁な風景の技巧を見出した撮影者の確かな眼力を讃えたいと思います。




全体評


審査委員プロフィール
西山 芳一 (土木写真家)

  日本ダム協会ホームページ写真コンテストも今年で11回目を迎え、振り返ると作品の質の成長の早さに驚かされます。 応募の常連はより切磋琢磨し、新人は選評などを踏まえたうえで応募してくるのでしょう。 応募数はさほど増えていないのに良い作品の割合が増えてきているので審査のやり甲斐があります。 一方、あまりにアート志向に傾き、切り取ったディティールと光だけで勝負し、ダムと判別がつかずに本末転倒になってしまった作品もチラホラうかがえます。 全般に「狙いすぎ」の傾向が見られます。みなさんにも言えることですが、ここで一度、初心や原点に戻り、マクロの眼や心でダムを見直し、撮り直してみましょう。 また新しい視点が見つかるかもしれません。 次回はそんな新しい視点や観点で撮影した審査員のド肝を抜くような作品をお待ちしています。
窪田 陽一 (埼玉大学大学院理工学研究科教授)

  東日本大震災から早くも3年の月日が経ちましたが、応募者の数が徐々に回復していると共に、作品の水準も高まりつつあるように今回は感じました。 写真造形としてかなり高いレベルにある作品も多く、ダムでなければ生まれ得ないような形の見え方を見事に捉えた、秀逸な作品も幾つかありました。 「組写真」という部門を設けても良いのではと思わせるような、同じダムの様々な様相を直向きに追求した作品群もあり、 審査員の眼力を問うような挑戦的な作品も増えているようです。 ただ、毎回どのような写真が受賞対象に選ばれているかを見届けたうえで、受賞作品と同じようなアングルやフレームで、 また季節や時刻も同じだったり変えてみたり、はたまた同じダムを違う角度で狙ったり、と手を変え品を変えて撮影した作品は、 かえって受賞への道のりは遠のくかもしれません。従来の受賞作品を超えることは、一昼一夜では為し得ないものです。 名画の模写が原作を上回る評価を得られるかという問いへの答と同様、 今までの作品には捉えられていない「何か」を新たに見出して映像にとらえていない限り、習作の域を出ることはありません。 風景との出会いは「一期一会」です。出会った風景が放つ新鮮な驚きを写真にとらえた作品を今後も期待しています。
宮島 咲 (ダムマニア&ダムライター)

  このフォトコンテストも11回という回数を重ねてゆくうち、少しずつ応募者の方々のレベルが高くなってきている事を実感します。 初期の頃は、その写真を狙って撮るという雰囲気は無く、撮って出しのイメージが強い写真が多かったように思います。 しかし、回数を重ねるうちに、それぞれの作品に、「どう撮るのか」、「何を見せたいのか」という作者の意図が見えるものが多くなってきました。 今回はなおさら多くなったように思えます。

  ただ美しいだけの写真ではなく、シャッターを切るタイミングを待ち、何を見せたいかという構図を考え、 どの様なセッティングで撮るかを、考えに考え抜いた作者の心理が伝わってきました。 例えば、ダム本体部門で優秀賞に輝いた「Silk Curtain」。 クレストゲートからの水流を遅いシャッタースピードでとらえ、コンクリートの固さと水の柔らかさを表した作品だと解釈しました。 逆に、同部門に入選した「美瀑」。 これは、流れ出る水のかけらひとつひとつが持つ、水のパワーを表現した作品だと解釈しています。 いずれの写真も、クレストゲートからの放流のタイミングを待たねば撮ることはできない作品です。

  次回の第12回では、さらなる想いのこもった写真を見てみたいと感じます。応募者の皆様、ぜひダムの美貌に心を注いでみてください。
萩原 雅紀 (ダムライター/ダム写真家)

  今回初めて審査に参加させていただきました。素直な感想としては、思ったよりレベルの差が大きいな、ということ。 最優秀賞の清水さんは今回に限っていえば1人だけ完全に頭ひとつ抜けていたと思います。 逆に、せっかく応募していただいたものの、狙いが分からなかったり、水平(垂直)が取れていなかったり、画質が粗すぎたりして、一見しただけで残念ながら選外、という作品も多くありました。ぜひシャッター押す前にひと呼吸して、その場面でのベストを切り取って審査員をおおいに悩ませてください。
  僕が選評を担当した「ダム本体」部門では、作品の多くが放流シーンや水流がメインで、堤体そのものの魅力に迫った作品が少なかったのは少し残念でした。 放流は別部門として分けた方がいいのではないかと考えてしまいました。
  上から目線で好き勝手書きましたが、いろいろな作品を見て火がついたので、次回からはまた応募する側に戻りたいな、と思いました。
中川 ちひろ (出版社・ピエブックス勤務)

  今回初めて参加させていただきましたが、良いなと感じたのは、誰かに見せるのではなく、素直に「かっこいいな、撮りたいな」と感じた瞬間にシャッターを切ったのだろうと想像できる写真です。 撮り手の気持ちが伝わる写真は、見ていて楽しい気持ちになりますね。ダムは巨大でゴツゴツしていて、男性的なイメージが強いですが、季節や切り取る時間帯、角度などによってやわらかな優しい顔も見せてくれるものだと気づかされました。それにしてもダムとは、なんとフォトジェニックなことでしょう!
森 日出夫 (ダムネット運営委員会委員長)

  今回の作品は、原点回帰、ダムの形そのもののダイナミックさ、美しさ、重厚さに重きを置いたものが増えたような気がします。 言うまでもないのですが、そこに、写真の芸術性が加わって、見る人を感動させるということです。 わたしはダム技術者代表でこの写真コンテストの選考委員として参加していると思っていますので、この傾向はたいへん喜ばしく思っています。 自分たち技術者が作った作品が褒められているような気になります。 今回の作品で特に印象に残ったのは、「ダムの形の捉え方にこんな角度もあるのか」と思わせてくれた最優秀賞「Space Fantasy」です。 次回もこのような驚きがある作品をお待ちしています。

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