第15回 日本ダム協会ホームページ 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の全体評

第15回D-shotコンテストは、356点の作品応募がありました。平成30年2月20日、日本ダム協会にてこれらの作品の中から応募規定を満たしたものを対象に、入賞作品の選考を行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。
なお、今回は残念ながら「最優秀賞」該当作品はございませんでした。


写真展開催
入賞作品18点を、宮ヶ瀬ダム「水とエネルギー館」にて展示中です。
また、優秀賞受賞作品は7月10日よりダム博物館写真館でも展示します。



写真をクリックすると大きな写真を見ることが出来ます



「ダム本体」部門

優秀賞
「ice cube」
長野県・奈川渡ダム
撮影者:どらいばあ
<選評・西山 芳一>
アーチダムの堤頂から真下を見下ろした作品です。あまり目が眩まないのは下流部の造形美のほうが勝っているせいでしょうか。 この時代のアーチダムの下流部は両岸の山を強固にするための細工が表面に出てしまっているので、どれも興味があります。 このダムで特に目立つのは異常なまでのアンカーボルトの数。 山をいじめているようにも見えますが、こうまでしないとアーチダムは出来ないのかと思わせるダムです。 目の付け所が良かったですね。


入選入選
「Night View」
岐阜県・大井ダム
「黒マッチョ」
新潟県・内の倉ダム
撮影者:声姫 撮影者:まるがりさん
<選評・萩原 雅紀>
ここ最近、僕も大井ダムをさまざま状況で何度か撮影したのですが、この写真にはやられました。 深い夕焼けの空、照明に照らし出される木々の緑、光を反射して輝く水面、強いコントラストで硬さを感じさせる岩、その中で細部までディテールが記録された堤体。 個人的には今回もっとも印象に残りました。
<選評・西山 芳一>
ダム写真の基本ですが興味深い作品です。堤体の中間の高さからのアングルにより、減勢工まで画面に入れなかったことで豪雨の後でも落ち着いた静かな画になりました。 黒い中にも横筋の入った堤体と放流による真白い水流のコントラストが画面を引き締め、赤いゲートと山の緑も色のコントラストとして画面をうまく演出しています。 そしてゲートからの激しい水流の間を何もなかったかのように普段通りに流れ落ちる水の様子が動きのコントラストとして、これまた面白く表現されています。


入選
「月見桜」
青森県・津軽ダム
撮影者:iiysk
<選評・萩原 雅紀>
単に色鮮やかなライトアップを記録しただけでなく、あの形の月があの場所から覗く、そのタイミングを射止めた時点で勝利でしょう。 計算されたのか偶然なのか、どちらにせよ同じ写真を撮ろうとしてもまず難しいと思える作品は、羨ましいとか悔しい、という感情も湧かず単純に感動しますね。




「ダム湖」部門

優秀賞
「静穏」
山形県・横川ダム
撮影者:勝山 輝夫
<選評・窪田 陽一>
今回のテーマ部門「音」にも応募できそうな、水深の浅い堆砂に生えた木立の新緑と湖水の淡青色が精妙なハーモニーを静かに奏でている作品です。 一見、ダム湖とは思えない自然の植生のようですが、天然の沼沢ではあまり見られない景色です。美しい色調の秀逸な風景写真ですが、どこのダム湖なのか、判然としない点が惜しまれます。


入選入選
「煌めく調整池」
神奈川県・沼本ダム
「陽を浴びて」
高知県・早明浦ダム
撮影者:子持ち・アッカーマン 撮影者:清水 篤
<選評・窪田 陽一>
一見すると雑然とした構図に見えかかりそうですが、近景の枯枝から、ダムの先にある水面まで、様々な奥行きが凝縮されている佳作です。 ハイコントラストの逆光が距離感を均一化し、煌めく水面を際立たせています。周囲の山影をもう少し取り込んだ方が良かったでしょう。
<選評・窪田 陽一>
夜も明けやらぬ山中の一隅に、磐戸を開いたかのような光明が差し込んだ瞬間を見逃さなかった撮影者の眼差しがとらえた、一期一会の光景です。 もう少し周囲を切り詰めて、湖面に映る倒立景を引き寄せた構図にしたほうが見応えがあるでしょう。




「工事中のダム」部門

優秀賞
「箱庭のミニカー達」
群馬県・八ッ場ダム
撮影者:子持ち・アッカーマン
<選評・森 日出夫>
今、工事最盛期を迎えている八ツ場ダムの施工状況です。堤体低標高部で、放流管や監査廊等の堤内構造物によりコンクリート打設エリアが分断されています。その分断されている施工エリアを同時進行で打設しているので、このような大小取り混ぜた機械がたくさん稼動しているということです。ダム堤体打設は数年掛けて行われますが、その中でもある時期のみ出てくる光景です。 機械も人も、今にも一斉に動き出しそうな臨場感溢れる作品となっています。


入選入選
「ダムの下の小宇宙」
京都府・天ヶ瀬ダム
「黙々淡々」
群馬県・八ッ場ダム
撮影者:炭素 撮影者:yfx
<選評・森 日出夫>
大規模なダム再開発工事が行われている天ヶ瀬ダムの現場です。洪水処理能力を増大させるため、ダム堤体を迂回するトンネル式放流設備を設置する工事です。 放流量を調節するゲートが設置される、内径が24m、深さが50mある立抗を、上から覗くような形で撮られた1枚です。 一般向けの現場見学会があったのでしょうか、下方に大勢の人が小さく見えて、この穴の大きさが想像できます。 非日常的な空間がスケール感をもって捉えられています。
<選評・森 日出夫>
ダム現場の作業員さんの動きを見て、感動をもって撮られた作品です。 大規模な構造物も「人間一人ひとりの手間が無くしては造りえない」という撮手の気持ちがよく伝わってきます。 作者は、工事中のダイナミックな写真を撮ろうと思って来たのかもしれません。 でも現場を見ているうちに、無駄話もせずに黙々と働いている作業員さんに気持ちが動かされてきたのだと思います。 モノクロ気味の背景にセンスを感じます。


入選
「撤収!」
岐阜県・下小鳥ダム
撮影者:yfx
<選評・森 日出夫>
工事用道路が整備されていない山奥のダムでは、資材運搬をヘリコプターで行わざるを得ない現場があります。 洪水吐きの改修工事が終了して、今まさに、ヘリコプターで資材を撤収させようとしている瞬間を捉えた1枚です。 見るからに急峻な山間で、人を寄せ付けない雰囲気の稼動年数がたったダムから、忽然とヘリコプターが現れる、 まるで映画のワンシーンを切り取ったようなカッコイイ作品です。




「ダムに親しむ」部門

優秀賞
「天に向かって」
秋田県・森吉山ダム
撮影者:kazu_ma
<選評・中川 ちひろ>
青空に向かって皆が一所懸命登る姿をカメラに収めたいと思ったのでしょう。足をいっぱいに広げて登る右端の子どもたちが微笑ましいです。良い写真ですが、もう少し下からあおって岩に近づいて撮ると、岩のゴツゴツが強調され、ダイナミックな写真になるかも知れません。でもあまり撮り手の意図が出すぎるとつまらない写真になる危険性もあるので、バランスが難しいですよね。いろいろ試してみると、楽しいですよ。


入選入選
「Gallery」
千葉県・亀山ダム
「街の壁」
埼玉県・浦山ダム
撮影者:どらいばあ 撮影者:ハル
<選評・中川 ちひろ>
人がみっちり並んでいますね。人間が木々とコンクリートのサンドイッチになり、三層の写真に見えます。大きなものと小さなものの集合体の対比も面白いです。よく物のサイズ感を伝えるために、マッチ箱を置き比較しますが、これは人間がマッチ箱の役割を果たしていて、自然とダムという巨大なものの迫力を、さり気なく伝えています。この「さり気なく」が気持ち良い一枚ですね。
<選評・中川 ちひろ>
とってもかっこいいですね。新鮮な写真を見させていただいた気分です。街には赤、黄、緑など、花火のように色とりどりの光が瞬き、上空には赤く燃え上がる京都の大文字焼きの送り火のようなダム。決して真ん中に大きく写っているわけではないのに、この写真の主役はダムであることがはっきりと伝わります。昼ではなく夜撮ったことで、ダムの周りが真っ黒になり余計な情報が消え主役が引き立てられています。ライトアップされたダムがまるで天空に浮かび上がっているかのようですね。




「テーマ」部門 『音』

優秀賞
「雫」
岡山県・苫田ダム
撮影者:小南 宣広
<選評・宮島 咲>
何もかもが止まった静をイメージした写真を撮りたかったとのことですが、天井から滴り落ちた滴が功を奏しましたね。 「テーマ部門」に投稿いただいた作品は、大きな音を想像させるものが多い中、静寂を破るかすかな音をテーマとした作品に感動しました。 コンクリートの空間で幾重にも残響する「ピション」という音が聞こえてきそうです。 ただ、欲を言えば、反射光を利用するなりして、水紋をもう少し目立たせた方が良かったかもしれません。


入選入選
「台風一過」
三重県・青蓮寺ダム
「轟音」
広島県・温井ダム
撮影者:上杉 裕昭 撮影者:榊 正博
<選評・宮島 咲>
非常に迫力がある写真ですね。 高圧キャタピラゲートから減勢池へ向かって水が叩きつけられる音と、副ダムを乗り越えて河川に勢いよく流れ出る音が聞こえてきそうな作品です。 その音は、「ゴーッ」という感じだったのでしょうか。 荒れ狂う濁流に水の恐怖すら感じます。 堤体の一部を切り取った写真だからこそ、この迫力が伝わるのだと思います。 なお、本気で放流中のダムには危険がつきものです。 くれぐれもご安全に。
<選評・宮島 咲>
温井ダムのホロージェットバルブからの放流ですね。「シューツ」という音が聞こえてきそうです。 バルブの横に立つ治水太郎さん(人形)がいることによって、水流の口径の大きさが際立っています。 また、ここから放流された水は、かなりの高さから減勢池に着水します。その音はどんな感じだったのでしょうか。 もし、引いたアングルの作品だったなら、着水の音も聞こえてきそうですね。 しかし、ホロージェットの音のみをピックアップした点が素晴らしいと思いました。


入選
「パチっ☆」
愛知県・新豊根ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・宮島 咲>
新豊根ダムの抜水の時の写真ですね。 抜水とは、主ゲートと予備ゲートの間に貯まった水を抜くことです。 新豊根ダムでは、この作業に合わせファンファーレを奏でる試みがされました。 キャットウォークにいる人々はファンファーレの演奏者です。 音楽とダムを組み合わせた試みは、今回のテーマ部門に相応しいイベントだったと思います。 また、堤体の大きさと人の小ささが良く表現されており迫力を感じます。 ただ、多少ピントが甘く感じました。




全体評


審査委員プロフィール
西山 芳一 (土木写真家)

今回のコンテストは可もなく不可もなく、ちょっと高めのドングリの背比べといった印象になってしまい、残念ながら最優秀賞並びに特別賞はお預けにさせて頂きました。 しかし、年々、目の付け所や技術が上達しているのは事実です。
 写真は人生を刻む式典など個人的なものも大事ですが、人に見せるという一つの表現手段として発展してきました。 私の場合、まず被写体を選び、場を選び、時を選び、そして数多く撮影した中から最高のものを選び抜いたうえで、媒体を用いて表現するのが写真だと思っています。 写真コンテストも一つの表現媒体です。どうか皆さんも十分に作品を選び抜いたうえで応募しましょう。似通った写真の応募は数を打っても当たりません。
 昨今、ダム自体は増えていませんが、ダムの撮影環境は年々向上していると思われます。 今まで審査員として数千枚以上のダム写真を見せていただきましたが、まだまだ良い写真が撮れる余地は限りなくあると思います。 撮影は数を打てば打つほど上達し、良い作品も生まれるはずです。 そして一層の応募、よろしくお願いします。
窪田 陽一 (埼玉大学名誉教授)

他の審査委員も書かれている通り、残念ながら今回は「これは!?」と目を引く作品が少なかったように思います。 最優秀賞の受賞作品も選出されませんでした。応募作品の総数は決して少なくはなかったにもかかわらず、なぜそうだったのでしょうか。
他方では、一人で複数の作品を応募された方々が例年よりも多くおられました。 それらの作品は、独自の写真表現を追及する眼差しを感じさせるものから、多様な画像を撮影したままに応募したものまで、各人各様でした。
毎年同じ傾向ではありますが、その中から光を放つ佳作、秀作を見いだすことができれば審査の醍醐味を感じると言えるでしょう。
そう期待して審査に臨みましたが、過去の入賞作品を想起させるため選外に漏れた作品も少なくありませんでした。 かつて見たことがあるような作品は、作画がいかに優れていても新鮮さに欠けてしまいます。
年々難しくはなると思いますが、貴方自身の眼差しで「新たなダムの風景」との出会いをとらえた会心の作品を改めて期待します。
宮島 咲 (ダムマニア&ダムライター)

応募総数は昨年とほぼ変わらなかったようです。 ただ、非常に多くの作品をおひとりでご応募された方々が今回は多かったような気がします。 全く作風が異なっていれば良いのですが、同じような作品を複数枚ご応募してしまっている点が大変残念でした。
同じ時間に同じかたが撮ったと悟ってしまえる作品ですと、それらの作品に作者の魂を感じることができなくなってしまいます。 ここはぜひとも、複数の写真の中から、これぞと思う作品を選び抜きご応募下さい。 ちなみに私の場合、たいてい最初に撮った写真が最良であることが多いです。
また、今回は最優秀賞の該当作品はありませんでした。 入選された作品はどれも素晴らしかったのですが、さらに一歩抜き出るものが無かったという印象です。
最後に、テーマ部門についてです。 今回のテーマである「音」ですが、どうやら難しかったみたいですね。 応募していただいた多くの作品が放流を伴うものでした。 並べられた全体の作品を遠くから眺めると、「ゴーッ!」という放流音に包まれた感じがしました。 虫の音、木々の葉がこすれる音など、もしかするとダムにはもっと色々な音があったのかもしれません。
萩原 雅紀 (ダムライター/ダム写真家)

以前にも書いたかも知れませんが、ダムは基本的に立ち入りができる部分が限られており、またダム好き的な「いいアングル」が撮れる場所もほぼ決まっているので、なかなか個性的な作品を生み出すのは難しいのかも知れません。だけど、時間だったり天気だったり、太陽や月や鳥やほかの人など、その他の要素をどう取り込むかによって、見慣れたダムでもあっと驚く写真はまだまだあるなあと改めて感じました。やっぱりお気に入りのダムには何度も通って、その時にしか見られない光景を根気よく記録することが大切なのだ、と、疲れたとか寒いとか言って出不精になっている自分に言い聞かせました。
中川 ちひろ (編集者)

今回「音」というテーマに寄せられる作品をとても楽しみにしていたのですが、表現が直接的なものに偏っていると感じました。「音」と言っても音が聴こえる、聴こえない、聴こえそう、いろいろありますよね。もっと想像力を働かせると、きっと世界が違って見えると思います。カメラって、気づかなかった世界に気づかせてくれる魔法の道具ですから。
もうひとつ、写真一枚に込める「主題」を考えてみてはいかがでしょうか。撮るときでも良いですし、選ぶときでも良いです。本当はカメラを向けた瞬間に決められると良いのですが、それには訓練が必要なので、直感で意識せずに撮った写真を後から眺めて、選ぶときに考えることにしましょう。じつは撮るのと同じくらい、選ぶことは大切です。選ぶ行為は写真をよく見るということ。主題が明確な写真は、言葉を必要としません。「ダム」という括りのなかで撮っているので、大きな主題はすでにありますが、さらにそのなかでサブタイトルをつけるイメージで選んでみてください。ダムの何を伝えたくて、またそのときの自分がどう感じてどう撮ったか。写真には必ず撮り手が写り込みますから、撮ったときの自分の感情を思い出し、それがよく表れたカットを選んではいかがでしょうか。
森 日出夫 (ダムネット運営委員会委員長)

今回も個性的な作品が多く、選考を楽しませて頂きました。 テーマに沿って応募するみなさんが感性を研ぎ澄ませ、知恵を絞っていることがよくわかる作品が多くなってきています。写真の技術は当然のことながら、 「ダム本体」部門では、機能美、雄大さ、力強さが引き立つもの、「ダム湖」部門では、チョット、ダムの存在から離れた芸術性が高いもの、 「工事中のダム」部門では、施工のダイナミックさ、また逆に繊細さが全面に出たものが選考のポイントとなっています。ダム技術者代表の私は、 やはり施工中のダムが気になるところではありますが、新規ダム建設が少なくなる中で、ダム本体や取水・洪水処理設備の改造、 また貯水量維持のための浚渫工事等が今後増えてきます。 今回の入選作品にもありますが、このあたりの工事中の作品も目先が変わって面白いと思いますので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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