ダム便覧のトップ写真には「試験放流」や「点検放流」の写真が寄せられることがよくあり、現地に行くことができなかった者にもその様子を伝えてくれます。ダムの放流には、他にも河川維持放流・予備放流・観光放流・フラッシュ放流など目的に応じて様々な言葉があります。また、マニアの造語とされる「クレスト放流」という表現もあります。さらに滅多に耳にしないものですが「応援放流」という類型の放流もあるようです。
この「応援放流」というのは、ある目的で下流のダムを応援するために行う放流を意味しています。あくまでも「応援」ですので、既得水利権を侵害しない範囲で行われるようです。 石井ダム(兵庫県)の試験湛水は想定以上に長期間にわたってしまいました。このため平常時最高水位より標高が高いところにあった樹木までをも枯死させてしまいました。原因は長期の冠水による酸欠です。
石井ダム(撮影:だい) この反省を踏まえ、「試験湛水はできる限り短期間で完了する。」という考えが生まれました。『きわめて短期間の冠水であれば樹木が完全に絶滅することはない。』という検証結果が得られたからです。この実験は生野ダム(兵庫県)において、様々な樹木をダム湖に沈めて行われたということです。
兵庫県宝塚市に建設が予定されている武庫川ダムは、現在のところ本体着工があやぶまれています。しかし堤体が完成した暁には上流にある千苅ダム・青野ダム・丸山ダムの諸先輩ダムが合従連衡して「応援放流」を行ってくれるようです。
丸山ダム 武庫川流域委員会によれば、この応援放流によって、最短30日程度で武庫川ダムの試験湛水を終了させられる可能性を試算しています。
武庫川流域委員会資料より ダム建設は自然破壊が目的ではありません。出来得るかぎり植生を維持し、必要以上に損壊した場合には可能な限り復元して来ました。改めて記るすまでもないことですが、これまでのダム行政もこの方針であったはずです。 石井ダムの事例は失敗でした。しかし、兵庫県が、これを隠すことなく教訓として活かす姿勢は認めなければなりません。失敗は成功の源です。失敗が新しい発想を生むのです。
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