《このごろ》
蛇口の向こう側

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【蛇口をひねれば水が出る】

 水道の蛇口をひねれば、いつでもきれいな水が出る。現代人にとって、当然のことだ。しかし、こんなことは、歴史的に見ても、地球規模で見ても、ごく限られた地域・時代の現象だ。それを可能としたのは、その裏にある見えにくいがしっかりとした水道のシステムであり、蛇口から出る水をたどっていけば、結局はダムに至る。その構築と維持管理にたくさんの人々が努力してきたし、また今も努力し続けているいることは、ともすれば忘れ去られてしまう。

 多くの人が、このことを指摘してるが、たとえば、高橋裕先生(国際連合大学上席学術顧問・東大名誉教授)はインタビューの中で次のように語っている。

高橋: 全国どこの県でもダムはあるはずですから、浄水場の見学に行く前か後にダムを見て欲しい。浄水場の水はどこから来るのかを知って欲しいですね。県内ならば日帰りで行けるでしょう。そういう各県の教育委員会にダム見学をカリキュラムに盛り込むように働き掛ける運動をダム協会でやったらどうですか。

中野(聞き手): そうですね。できれば、蛇口の向こうにダムが見えるようになると良いですね。

高橋: 東京都の上水道の水源は、昭和40年以前は多摩川が六割くらいだったんですが、今は絶対量が増えているから、多摩川だけでは持たなくなって、昭和40年代以降に造られた利根川のダム群の水が、現在、東京都民が飲んでいる水の八割を占めているんです。そういう事が都民の常識になっていても良いのですがね。ほとんどの都民は、知らないのではないでしょうか。

【この絵が分かりやすい】

 先日(2010年7月30日)、東京・北の丸公園の科学技術館で開催されていた「第34回水の週間 ウォーターフェア’10 − 水の展示会」を見る機会があった。あちこち回って、それなりに勉強になったが、東京都水道局の展示で、一枚のポスターが目を引いた。まさに「蛇口の向こう側」をわかりやすく絵にしている。

 ゴールは蛇口。その向こうを水の流れとは逆にたどっていけば、結局ダムに至る。本当のスタートは雲かもしれないが、ダムと考えてもいいだろう。その間を、取水堰、浄水場、配水管などの諸々の施設がつないでいる。どこが切れても、どこに不都合があっても、おいしい水は蛇口から出ない。絵で見て、概念が分かったら、次は現場見学を。そうすればもっと実際の姿が分かるだろう。


(2010.8.9、Jny)
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