《このごろ》
熱血ダム技術者・三船敏郎の「激流」

→ 「このごろ」一覧   → 「このごろ」目次
 
 映画の舞台は、北上川総合開発事業の田瀬ダム建設現場。熱血ダム技術者 三船敏郎(当時32才)が、戦後日本の復興期に使命感に燃えてダム建設に立ち向かう。次々と起こる様々な問題に真正面からぶつかり、まさに「激流」にもまれながら大きな人間として育ってゆく。現場の負傷者救出、水没者などへの思いやり、不逞の輩退治などに、遠距離恋愛の悲哀や新たな恋人との出会いを交えながら大活躍、三船の面目躍如といったところである。

 ファーストシーン、完成したダムで楽しそうにボートを漕いでいる恋人達にナレーションがかぶる。このダムでの水没者のこと、亡くなった人々のことなど、この二人に分かることはないと。ダムをはじめとする社会資本整備の宿命的とも言えるテーマが淡々と語られる。それから過去に遡りダム建設の場面に。用地買収の困難さ、農民の土地に対する執着、水没する人々や愛すべきダムに働く人たちの悲哀、金に群がる輩などダム現場に展開される赤裸々な人間模様を丁寧に浮き彫りにしている。

 劇映画ではあるが、ロケーションは全て実際の現場で行われた。現場事務所の活気ある雰囲気、宿舎や食堂での生活風景、仮設備やコンクリート打設現場の様子など隔世の感があるが、昭和20年代当時の空気が感じられ、一面貴重な記録映画でもある。

 谷口監督は、三船を映画「銀嶺の果て」(監督:谷口千吉氏、脚本編集:黒澤明氏)で役者として27才でデビューさせている。三船のまっすぐな性格、直球勝負で挑む姿をすがすがしく描いた名品である。

(参考)
東宝 1952年作品
監督 谷口 千吉(八千草 薫の旦那さま)
音楽 伊福部 昭(「ゴジラ」作曲)
主演 三船 敏郎 
   久慈 あさみ 島崎 雪子 若山 セツ子 多々良 純

あらすじ
 ダム建設現場に赴任した若い土木技術者(三船敏郎)は、東京から追ってきた恋人(島崎雪子)とも別れ、ダム建設に情熱を燃やす。活気ある建設現場では様々な人間模様。建設が進み、完成も間近い頃、ダム建設で一儲けをたくらむ輩が、ダム工事の引き延ばしを図ろうとダムの監査廊にダイナマイトを仕掛けた。導火線に火がつけられ、ダイナマイトに向かって燃えてゆく。爆破を阻止しようと技術者らは危険もかえりみず駆けつけ、危機一髪・・・

[関連ダム] 田瀬ダム
(2007.9.12、北川正男)
ご意見、ご感想などがございましたら、 までお願いします。