《このごろ》
ダムのある川、ダムのない川

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 1月上旬、所用のため北関東自動車道佐野田沼ICから県道66号線(主要地方道桐生田沼線)を通り桐生市方面に向かいました。途中、一級河川旗川(利根川支流)に架橋された羽室橋を通過します。この日、この橋の下には、水が流れていませんでした。


羽室橋

 県道を桐生市方面に進むとやがて山間部に入ります。栃木・群馬県境付近で左折して林道に入ると松田川ダム、そのまま直進すると梅田湖(桐生川ダム)を渡る梅田大橋に至るという位置関係です。


1.ダムのある川

 栃木県南西部や群馬県南東部にかけての両毛地区平野部には、大きなダムは建設されておりません。関東平野の北限であり、目前に迫った足尾山地の森林「緑のダム」が豊かな水資源をもたらしてくれるのかもしれません。松田川ダムと桐生川ダムはこのエリアでは数少ないダムの例です。


松田川ダム下流広場

 松田川ダムは、FNWを目的とするダムで栃木県足利市に建設されました。かつて高圧洗浄機メーカーの企画で堤体にエコアートと称してヤシオツツジ(栃木県の県花)が描かれました。


松田川ダムのエコアート(撮影:Dam master)

 このエコアートは、現在ではほとんど消失していますが、堤体直下はふれあい広場(親水公園)やキャンプ場として広く開放されており市民の憩いの場となっています、


親水公園

 桐生川ダムは、FNWPを目的とするダムで群馬県桐生市に建設されました。堤体直下は、発電所があるため立入が制限されています。松田川ダムに比べると開放度に少し物足りなさを感じます。


梅田大橋から桐生川ダム上流面

 梅田湖の貯水位は非洪水期としては少し低いと思われますが、これだけの貯水量があれば当面問題はないはずです。右岸には、他のダムでも見られるような案内板やパネルなどが設置されています。


桐生川ダムの説明板


2.ダムのない川

 栃木県佐野市、旗川上流にはダムは建設されておりません。この日の旗川は、明らかに枯渇しているようにみえます。松田川や桐生川、そしてこの旗川は、それぞれ下流で渡良瀬川に合流します。その後、渡良瀬川は埼玉県栗橋市付近で利根川に合流します。この日の羽室橋付近の旗川には、上述の通り水の流れは確認できませんでした。


羽室橋から上流方向

 地元の方の話を総合すると、このような光景は特に珍しいものではないそうです。私は『渇水』というものは日照りの続いた夏に起こる現象であると思っていました。ところが、太平洋側のこの地域では、西高東低の冬型の気圧配置がもたらす乾燥で川の水が枯れるようです。
 一方で、聞いたところでは過去にも農繁期に水田が干上がるような被害はなかったそうです。これは森林がもたらす恵みです。ダムを必要としない地域にダムを建設する必要がないことは当たり前のことです。地図で確認しても農業用の小規模な溜池のようなものも、ほとんど見当たりません。過去に大きな水争いを経験していない恵まれた地域であると思います。


羽室橋から下流方向

 なお、このような河川状態でも、旗川の源流から渡良瀬川合流地点まですべて枯渇している訳ではないそうです。この川の厚い砂利層の下には伏流水のように水が流れており、河床部が高く砂利層が薄いところでは川の流れが復活するそうです。
 目視する限りでは魚の死骸は見当たりません。鼻をつく腐敗臭も感じません。この旗川は魚が住めない死の川なのでしょうか。もちろん、この川も水量が多いときには、ウグイやフナなどの魚影を見ることができるそうです。ただし、水量が少なくなると魚やザリガニなどは野鳥のご馳走になってしまうそうです。自然の摂理と言ってしまえば、それまでのことですが…。


松田川

 松田川や桐生川も、かつては冬期に川底をあらわにしたことがあったと思います。現在は、ダムからの放流で年間を通じて一定の水が確保されるようになりました。魚が安心して住める川を実現しているのは、もちろんダムがある川の方なのです。

[関連ダム] 松田川ダム  桐生川ダム
(2014.1.24、安部塁)
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