《このごろ》
土木技術者の功績を伝えたい

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 読売新聞の「論点」で、全国建設研修センターの緒方さんが、土木技術者の功績を伝えるためにもっと情報発信すべしという意見を書かれているので紹介したい。
 八田與一の命日5月8日、台湾の烏山頭ダムの傍らの八田與一技師の墓前で没後72年祭が執り行われたという話題を例に、土木が社会の役に立っているということを技術者の功績の一つとして、きちんと情報発信していくことが大切であるという意見を述べている。
(掲載:読売新聞 2014年5/9付 朝刊 「論点」)

 以前、ダムインタビューで緒方さんから、台湾の人たちがダム建設から80年を経て、今もなお小中学校の教科書に載せ、八田技師の功績を称えて後世の人に伝え続けているということは、もしもこのダムが無ければ今の台湾農業の発展はおろか地域社会の人々の生活が成り立たなかったということを、地元の人々が身に染みて判っているということお聞きした。
 飲水思源(いんすいしげん)とは「私たちは水を飲む時、井戸を掘ってくれた人への感謝を末代まで忘れません」という言葉で、八田技師の事業は、今でも地域の人たちに感謝されている。彼は、ダムと用水路の建設という土木技術の成果によって、台湾の社会インフラを造り上げただけでなく、未来へと通じる人々の絆を築いていったのだ。


烏山頭ダムにある八田與一の銅像と八田夫妻の墓石

 ダム事業はとかく批判を浴びがちである。ダムが出来ると川を殺す、自然を破壊する、かえって洪水の危険を招く等々、ありとあらゆる理由をつけて反対されることが多い。計画されてから実現に至るまでに相当な時間がかかること。そして、何よりも人工的な構造物が巨大であることが批判の対象になりやすいのであろう。
 言い換えれば、地元の人々にとっては、それだけ影響力が大きいということだ。実際にダムが出来ると地域の生活は大きく変わる。発電、灌漑、農業・工業用水、上水道等、ダムの設置目的はいろいろあるが、流域には大きな変化がある。なぜなら、それだけ人々の暮らしと川は密接に関係しているからである。しかも、その関係はかなり過酷である。というのは、日本の河川は、山間地に降った雨がおよそ二泊三日のうちに海に流れ出してしまうというくらいに急だからだ。その結果、少し雨が多ければ洪水になるし、逆に雨が少なければ、干ばつが起きる確率が高くなるということで、稲作を暮らしの中心に据えてきた我が国の社会は、絶えず川に影響されてきたと言っても過言ではないだろう。
 そうであるならば、なおさらダムがなかった場合と、出来た後からの暮らしを比較して、良かった点はちゃんと評価されるべきである。その辺りは、緒方さんが指摘されていることとまったく同じだ。土木は人の暮らしを良くするためにある。
 ダムインタビューでも厳しい自然の力を前に技術で圧倒しようといった人間のおごりではなく、自然とうまく共生していこうという気持ちを大切にしてきた先人たちの知恵と努力の数々を取り上げて、土木の魅力を伝えていけたらと思った。

(参考)
土木学会100周年記念事業では日本の土木技術者の功績を訪ねるツアーを募集している。
〜台湾の飲水思源を訪ねる旅〜

[関連ダム] Wushantou[烏山頭ダム]
(2014.5.12、中野朱美)
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