ロックフィルダムの堤体下流面に芝生などが貼られアースフィルダムのような外観を呈しているダム(只見ダム、三保ダムなど)は、特に珍しいものではありません。千五沢ダム(福島県)もまた、その例の一つであると固く信じて来ました。
千五沢ダム(撮影:ばっきぃ) ところが千五沢ダムは、ロックフィルダムではありません。このブログの管理者が強調されている通り、正真正銘のアースダムでした。千五沢ダムがアースらしく見えないのは、ブログの内容にもある通り、巨大なクレストゲートが目立つからです。しかし残念なことに、この中部電力顔負けの真紅のラジアルゲートも、行く行くは撤去される運命にあるようです。
千五沢ダムのクレストゲート(撮影:ばっきぃ)
1.これまでの千五沢ダム
千五沢ダムは、昭和50年に農業用のアースダムとして竣工しました。このダムが計画された当初(昭和42年)、約3,960ヘクタールに及ぶ広大な農地がかんがいの対象とされていました。その後、平成6年になってその面積が約2,090と半減、このため、貯水容量に余裕が生じることになりました。 平成7年、千五沢ダムは、新たに建設が計画された今出ダムとともに「今出川総合開発事業」に編入されることになりました。こうして新規ダム(今出ダム)と既設の千五沢ダムの空き容量を活用することで、流域の人々の生命と財産を守る役割を任されたのです。
千五沢ダムと今出ダムの位置関係(木戸ダム展示パネル『福島県のダム事業』より) しかし、平成20年になって今出ダム建設の中止が決定となりました。千五沢ダムには空き容量が確保されているものの、元々農業用の利水ダムとして建設されたため、クレストゲートには洪水調節の機能がありませんでした(放流量不足)。こうして、特徴的な赤いクレストゲートを撤去し、自由越流式のダムとして再開発(社川圏域河川整備計画)されることになりました。
現在のクレストゲート運用状況 現在、千五沢ダムはクレストゲートを少し開けた状態で運用しています。これは、人為的な操作ミスで不測の事態を避けるためであるということです。
2.これからの千五沢ダム
千五沢ダムは、再開発によってクレストゲートは撤去されるものの、新たにラビリンス型の洪水吐が採用されることになりました。このラビリンスは放物線状に配置され、国内では他に例のないような特徴的なものになります。
千五沢ダムの再開発予想図(千五沢ダムパンフレットより) ラビリンスの上流部(貯水池側先端部)が鋭角でないのは、この部分に常用洪水吐が併設されるからです。
洪水調節のイメージ図(千五沢ダムパンフレットより) かつての管理所は廃止・解体され、その跡地が削られてラビリンスが新設されます。すでに、管理業務は新しい管理所で行われていました。
旧管理所(撮影:柳二郎)
新しい千五沢ダム管理事務所 再開発工事は、既得水利権に配慮して非かんがい期(10月〜3月)を中心に行われます。そのため、最終的には平成33年度の完成(かんがい期は休工)を予定しています。
3.石川町
千五沢ダムのある石川町には、母畑温泉という温泉街があります。今回、私は訪れてはいませんが、この温泉街には、『千と千尋の神隠し』のモデルとされた温泉旅館があるそうです。
あぶくま高原道路・石川母畑IC付近 「石川町」という何となく福島県らしくない名前ではありますが、かつて甲子園福島県代表常連校であった学法石川高校という学校の所在地です。ひと昔より農地が減少してしまったことは残念ですが、集約化された農地で効率的な生産をしていたただければと思います。福島県は、お米ばかりではなく、モモや梨などおいしい果樹の産地でもあります。店頭に並べてある地元産の農産物は、安全性が確認されているものばかりです。 また、千五沢ダムでは、新たにダムカードが作成されました。「再開発工事中」という文言の入った少し珍しいダムカードです。
千五沢ダムのダムカード ぜひ、この地を訪れておいしい秋を味わってください。再開発完成までには、まだ相当の時間があります。せっかくの機会ですから千五沢ダムのBeforeとAfterの両方を味わってください。
定礎石
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