平成27年3月29日(日)、大阪府立狭山池博物館主催による「安威川ダム建設現場現地見学会」が行われました。安威川ダムは、大阪北摂を流れる一級河川淀川水系安威川(大阪府茨木市)に建設が進められている中央コア型のロックフィルダムです。当日は朝方から小粒の雨が降り始め本格的な降雨となる様相でしたが、見学会が始まる午後には雨が上がりました。
1.資料館・展望台
はじめに、資料館においてDVDの上映が行われました。安威川ダムは昭和42年の北摂豪雨災害を契機に計画されました。
安威川ダム資料館
資料館内の様子 この地域では、その後も度々豪雨に襲われています。安威川ダムは、政局に翻弄された経緯がありますが、検証の結果、安威川の治水として「河川改修とダム」を選択することが事業費面から最適(最少経費)であると判断され現在に至っています。また、ダムとして初めて「環境改善容量」が設定され、完成後はフラッシュ放流を行うなど自然と調和した安威川を実現するためのダムとなる計画です。
上映中のDVD 安威川の下流部(淀川右岸)には名神自動車道・東海道新幹線・東海道本線・阪急京都線などの重要な交通インフラがあります。仮に、安威川流域に大洪水があってこれらの交通網に支障があった場合、京都と大阪間の交通は淀川左岸を通る第二京阪自動車道と京阪電鉄本線に頼るしかありません。京阪間の交通の要衝が断絶されることは、直ちに全国民の莫大な損失を意味します。
その後、展望台に案内されました。ダムサイトを一望できる場所で、ロックフィルダムの構造や堤体の盛立て方法などについて説明を受けました。このダムの洪水吐は、向い側の山(左岸側)の後方に設置されます。
黄色のマーカーの延長上がダム軸 展望台からのダム軸方向 はるか遠方には、サーチャージ水位を示す赤白看板、ダム軸の位置、天端標高の位置を示す標識などが見えます。常時満水位を示す青白看板は、転流工の呑口付近に設置されていました。ときおり降る雨のため視界不良でしたが何も不満はありません。これから、下に降りて行くことができるのですから…。
2.仮排水路トンネル(転流工)
仮排水路吐口付近、左は転流前の安威川 転流工は、ほぼ完成しており今年の8月からの転流開始を目標に上流呑口側の工事が行われていました。このトンネルはNATM工法で掘削されたもので、コンクリートで覆工されています。直径は7mほどの大きさがあり、20年確率の洪水にも耐えられるように設計されています。このコンクリートは特に金属でライニングされてはおりません。ダム完成までには、土石流でコンクリートが摩耗する可能性がありますが、それは想定の範囲内であるとのことでした。あくまでも『仮の排水路』ということです。完成後は直径2mの水管が設置され、ここから河川維持放流が行われる予定になっています。仮の設備ではありますが、トンネルとしては恒久的に利用されることになります。
仮排水路吐口付近
仮排水路内部
3.ダムサイト付近
徒歩で、ダムサイト付近に移動します。この道はかつての府道46号線(茨木亀岡線)でした。
旧府道を歩く見学者 左岸側には多数の調査横坑がはっきり見えます。この調査横坑は、長いものでは奥行60mにも及ぶそうです。
地質調査が行われた横坑跡 安威川の転流開始後、基礎岩盤まで掘削工事が行われます。見学者が歩いている地面から約10m程度下まで掘り下げられることになります。
建設重機の説明 この場所で、建設重機やダム諸元について説明を受けます。さらに、上流に向かって進みます。見学者たちは、ダムサイトを上流側から一望できる場所に到着しました。今後、掘削が進められると、なだらかなV字型の谷となります。
前方は付替府46号線の橋梁 この付近は、かつて「生保(しょうぼ)」という集落があり25世帯の方々が最近まで生活していました。当時の石垣が残存しています。近いうちに、この平坦な土地にコンクリートプラントが建設される予定です。
コンクリートプラント建設予定地 また、少し上流寄りの平地は、トランジション材の仮置き場として利用されるそうです。
トランジション材仮置き場予定地 バス停の遺構が残っていました。この場所には園芸用プランターが置いてあります。現在ここでは植物の種子の発芽試験が行われています。ダム完成後は、在来種による植生の回復を目指すことになります。
路線バスの停車場遺構
地元の植物種子の発芽試験プランター 参加していた子どもさんから質問がありました。「マンホールとか下水道はどうなるのですか?」あまりにも生活臭が強く残っていたことから、このような質問が出たのでしょう。もちろん、担当者は優しく「すべて掘り返して撤去しますよ。」と回答してくださいました。子どもの着眼点は本当にすごいと思いました。
4.おわりに
この見学会は、小中学生の春休みの親子見学会になるように企画されたようです。実際は、親子連れの方は3組で、フタを開けると大人の見学会になってしまったようです。 潜在的には、『ダムの工事現場を見てみたい。』『重機を見てみたい。』という子どもたちも多いはずです。その中には、本当は参加したかったけれども親の理解がなかったという子どもさんも少なくはなかったと思います。もちろん、ダムの工事現場という少なからず危険を伴う場所ですから、小中学生は保護者同伴で参加すべきです。そのためには、先ず、大人がしっかりとダムついての正しい知識を持たなければならないと感じました。
安威川ダム建設の説明板
堤体の影も形もない段階でのダム見学会には今回初めて参加させていただきました。もう二度と見ることができない貴重なシーンの連続でとても素晴らしい見学会となりました。 この見学会を企画してくださいました大阪府立狭山池博物館ご担当者様、当日ご案内いただきました大阪府安威川ダム建設事務所も皆様にこの場をお借りしましてあらためて御礼を申し上げます。
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