6月23日付の本サイトのトップ写真に「出勤」という題で、高瀬ダムの貯水池に堆積した土砂搬出のため現場に向かうダンプトラックがダムの法面の専用道路を登っていく写真を見て、高瀬ダムの堆砂対策事業について考えた。
高瀬ダムは長野県大町市の信濃川水系高瀬川に建設されたロックフィルダムで、東京電力の発電用ダムである。揚水式発電所である新高瀬川発電所の上池(うわいけ:上部調整池)としての機能を有し、下池(したいけ:下部調整池)の七倉ダムとの間で最大128万KWの発電をおこなっている。
(大町ダムのパンフレットより) 現在、問題になっている高瀬ダムの計画規模を上回る堆砂は、ダム左岸から貯水池に直接流入する濁沢と不動沢という2つの沢で発生した大規模な崩壊地からの土砂流出が原因である。この2つの大規模崩壊地からの土砂流出によって貯水池内へ流入する土砂は、計画の1.7倍のスピードで進行しているといわれている。土砂は主にダムの有効貯水容量内に堆積しており、有効貯水容量が減少することで、新高瀬川発電所の発電実施時間の減少という問題も発生しているようである。(流れ込み式の発電所では、流入する河川水の取水が可能であれば堆砂が進行しても大きな問題になることは少ない)。
(平成27年度予算概算要求に係るダム事業の新規事の採択時評価 資料2 より 国土交通省)
高瀬ダムでは貯水容量を確保するため、平成14年から堆積土砂の掘削撤去を実施している。堆積土砂は貯水池の水位以上の部分にも大量に堆積しているため、掘削した土砂の貯水池内での水切りが可能である。ダンプトラックに積載する場合もドライ状態で積み込め、運搬時に荷台から水がたれる心配はない。ダンプトラックに積載した土砂は大町ダムより下流の地域に運搬し、道路の路盤材や盛土材・埋め戻し材としてリサイクルしている。しかし、搬出した土砂を利用できる工事や施設は限られており、土砂の一部は高瀬川沿いの東電所有地に仮置きしているが、その土砂の処分に苦労しているという情報もある。
国土交通省では、平成27年度に「大町ダム等再編事業」の実施計画調査に着手した。 この事業は既設ダムを活用した治水事業であり、具体的には既設の高瀬ダム・七倉ダムの発電容量の一部と大町ダムの水道容量の一部を活用して新たな洪水調節容量を確保し、高瀬川・犀川はもとより千曲川本川にも洪水調節効果が発揮できるよう既設3ダムの運用を実施するものだ。 併せて高瀬ダム・七倉ダムへ治水機能を付加することにより、長期的・安定的に治水機能や利水機能を確保するため発電事業者と共同で流入土砂対を実施することとしている。
(資料2 平成27年度予算概算要求に係るダム事業の新規事業採択時評価 資料2 より 国土交通省)
現在、東電が実施している堆積土砂をダンプトラックで排出して有効貯水容量を確保する工事は、大町ダム等再編事業が竣工しベルトコンベアによる土砂運搬が実施されるまで継続して続ける必要がある。 また国土交通省が実施計画調査をおこなっている「大町ダム等再編事業」が竣工したとしても、ベルトコンベアによる堆積土砂の運搬は濁沢と不動沢の大規模崩壊地から土砂の流出が止まる(大崩壊地の土砂が無くなる)まで続けることになる。こういった堆積土砂を大町ダムの下流域に搬出する作業は、ダンプトラック・ベルトコンベアのどちらで運搬した場合でも、経費は莫大なものにならざるを得ない。
有効貯水容量を確保するためには、貯水池から堆砂土砂の排出を継続しなければならないが、併せて実施すべきことは大規模崩壊地に山腹工事や土留め工事等を実施して、土砂の流出を制御することと崩壊地を緑化することだと思う。そのためには、治山工事を東電や国交省が実施する必要がある。治山工事は成果の発現に時間がかかると思うが関係機関との協議を急ぎ、流出土砂を止めるための工事に早期に着手すべきだと思う。 また大町ダムの下流地域に搬出している土砂の処理も悩ましい問題である。松本・大町地域で大量の土砂を必要とする工事は少なく、一般の土木工事でも発生した土砂の処分に苦労しているという現実がある。リサイクルをおこなうだけでなく、発生した大量の土砂を処分するという方針で新しい発想をもって処理方法を考えることが必要であると思う。 高瀬川や犀川の河道に搬出した土砂を敷均し、洪水時のフラッシュ効果によって下流に土砂供給することも検討されていると思うが、下流に流す土砂の量によっては河川の生態系に大きな影響を与える懸念もある。また土砂が河道内に堆積することによって河床が上昇し、治水に重大な影響がでる箇所も発生する可能性もある。そういったことも十分検討してから大量の土砂のフラッシュを実施すべきである。掘削した土砂を運搬して利用できるまで仮置きしておく場合、利用の目途がたたず長期に放置されることで、仮置き場が半永久的な土捨場になってしまう恐れもあると思う。
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