すでに多くの方がご存知の通り、関電トンネルトロリーバスは、今シーズンを限りに引退します。来年度からは、電気バスによる自動車輸送に切り替えられて新たにスタートします。2018年は「トロバスラストイヤー」と銘打って、関西電力(運行事業者)は様々なキャンペーンを展開してきました。
2019年より導入される新型バス。(撮影:ピンクのうさぎ)
2018年で運行を終了するトロリーバス。
このトロリーバスについては、個人的に、かねてから不思議(疑問)に思っていた点がありました。ただ、ネットで調べてみても詳細な記述がありません。そこで、廃止となる前に現地で職員の方にお話しを聞いてみることにしました。
関電トロリーバスの車両前面上部のランプ。
私が疑問に思っていたことは、
@車両の上部にあるランプは何のためにあるか。
A関電トロリーバスに電気を供給している会社はどこなのか。
ということです。
Aについては「関電トロバスなのだから、関西電力に決まっているじゃないか。」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、大町市側長野県内にある扇沢駅は中部電力、反対側黒部ダム駅がある富山県は北陸電力のエリアです。すぐ目の前には黒部ダムが構えていますが、実際に黒部川第四発電所が運転している場所は、ダムサイトから10kmほど離れています。
黒部川第四発電所についての説明板(黒部ダム右岸部に設置)。
1.トロリーバスのランプ
トロリーバス以外の鉄道の車両でも、先頭車両上部にランプがついているものがあります。一般には、「通過標識灯」などと呼ばれ、特急・急行など途中駅を通過する優等列車に点灯させることがあるようです。しかし、扇沢駅と黒部ダム駅間のみを結ぶトロリーバスに、急行や普通の種別があるのでしょうか。
扇沢駅を出発したトロリーバス。
現在、関西電力では、総数15台(両)のトロリーバスを所有しているそうです。トロリーバスは、ほぼ30分毎のダイヤで、扇沢駅・黒部ダム駅間を15分程度で結んでいます。利用客の少ないときは1両のみで運行し、多客時は、最大8両編成で運行するそうです。ただし、「◯両編成」といっても、実際に物理的な連結器で車両をつないで走行する訳ではありません。先行車との安全な間隔をとって、所定の時刻に順次、トロリーバスが発車して行くシステムです。
黒部ダム駅に到着したトロリーバス(3両編成)。
橙色2灯は、トロリーバス1両で運行する場合はその車両、また2両編成以上で運行する場合には、編成最後尾の車両に点灯させるそうです。そして、緑色1灯は、それ以外の車両を意味するものだそうです。それゆえ、複数車両編成で運行する場合、先頭や中間に位置するトロリーバスはすべて緑色1灯となります。
最後尾のトロリーバス。
関電トンネルは、ほぼ全線が単線です。離合可能な複線がある部分はわずかです。複数車両で運行する場合にはスムーズな行き違いが必要です。
トンネル内を走行するトロリーバス。
運転士は、前方から緑色1灯のトロリーバスが来た時には複線部分で徐行して交換しているのかもしれません。また、前方から橙色2灯の車両が来た時には、赤信号とみなして停止したうえで、タブレットの受け渡しを行ってから進行するのかもしれません。(私自身、鉄道に関しては全くの素人です。この部分の記述は、あくまでも憶測です。)
トンネル内の交換地点。
2.トロリーバスの動力
それでは、関電トロリーバスの動力となる電気を供給している会社は、いったいどうなっているのでしょうか。上述の通り、本来、長野県は中部電力の管轄で、富山県は北陸電力の管轄のはずです。ちなみに、関電トンネル内に長野県と富山県の県境が存在しています。県境には黄色の標識が設置されていて、トロリーバスが両県境を通過する際に自動放送でアナウンスされます。
黒部ダムの天端。
そして電力を供給している会社の正解は、中部電力でした。中部電力は関電トンネルを含め黒部ダム一帯の諸施設に電力を供給しているということです。左岸側の黒部湖駅・黒部平駅間を結ぶ黒部ケーブルカーも中部電力の電力で運行されています。
黒部ケーブルカー黒部湖駅。
堤高日本一を誇る関西電力黒部ダムの管理も、中部電力からの電源供給がなければやがてストップしてしまいます。万が一にも、中部電力でブラックアウトが起きた場合、関西電力管内にも大きな影響を及ぼすことになります。社運を賭けて建設された黒部ダムの生命線が中部電力に握られていることに驚きを隠せません。中部電力の秘めた力を感じます。
利水放流中の黒部ダム、通常の観光放水とは異なりバルブ1門のみ。
一方、自ら発電した電力は自分では一切消費せず、すべて関西方面に送電している黒部ダムも素敵過ぎます。ナニワ大阪から見ず知らずの北アルプスまで出稼ぎに行き、収入はすべて大阪の妻子に送金して、自分はアパートを借りてカップ麺を食べて頑張っている。関電黒部ダムは「男の中の男」だと思いました。
黒部ダム上流面。
一度でも停電を経験したことがある人は、電気の有難さを実感しているはずです。電力の安定供給に従事されている方々に感謝しながら電気は大切に使いましょう。また、現代に生きる我々は、電力確保のために殉じた尊い犠牲に対して慰霊の気持ちを持ち続けなければなりません。