平成30年11月30日16時35分に黒部ダム駅を出発するトロリーバスをもって、54年間にわたる関電トロリーバスによる輸送は幕を閉じました。来年春からは電気バスに変更されます。ラストランとなる日は、金曜日にあたり休みにくい日程になってしまいましたが、仕事を何とかやり繰りして当日の早朝、東京を出発して扇沢に向かいました。
整理券付きの乗車券(上)、一般の乗車券(下)
最終トロリーバスの乗車整理券は総数300枚です。日本ダム協会ダムマイスターとして報道枠での取材も検討しました。この場合、最終トロリーバスの出発シーンを黒部ダム駅構内から撮影可能なものの、帰路は関西電力がチャーターした報道者用のバス(通行証を付けた一般のバス)に乗せられて扇沢に戻ることとなりトロリーバスには乗車できません。当日の整理券の配布数は50枚(扇沢駅長室配布数)です。一か八かの賭けとなってしまいましたが、幸い当日配布の整理券をいただくことができました。
横断幕をつけたトロリーバス
扇沢駅のヤードには、トロリーバスが横断幕をつけて展示されていました。架線のない場所に電車(トロリーバス)が置かれているという不思議。ギヤをニュートラル状態にして人力で押して行ったのかと思いました。職員の方に確認したところ、トロリーバス(現行300型)は蓄電池を2基装備しており架線から電気を得なくても多少の距離は低速自走できるということでした。
セレモニー会場、パイプ椅子は来賓席
しだいに、駅構内が混雑してきました。狭い空間に300人以上の人間が集まりましたがスタッフの皆様の手際よい案内でスムーズに事が進んでいると感じました。
15時30分頃の黒部ダム駅構内の様子
最後尾を示す標識
整理券を持っていない人の最終乗車となるトロリーバス(16時05分発)が出発するのを待って「さよならトロバス引退セレモニー」が始まりました。
初めに、主催者として黒四管理事務所長の挨拶があり、続いて来賓を代表して地元自治体である長野県大町市長と富山県立山町長からの祝辞がありました。
祝辞を述べられる立山町長
立山町長のお話の一部です。
立山町長が今上天皇とお会いしたとき、陛下は「立山町長」という名札をご覧になり一瞬、戸惑われた(どこの町?)ということでした。そして、間髪を置かず、皇后美智子様が「若いころ行った黒部ダムのある所ですよね」とお話しされたそうです。陛下はすぐに現実に戻られて「黒部ダムでしたね。ご苦労様でした」というお言葉を発せられたそうです。黒部ダムは皇室にも親しまれているダムということです。今後は、大町市以上に黒部ダムを活用して更なる知名度アップを図りたいということです。
当日の黒部ダム
その後、来賓の紹介が行われました。紹介された皆様は、全員「おめでとうございます」という挨拶をされました。
来賓紹介
54年間無事故で運行してきましたので「おめでとうございます」で間違いありません。また、従来の蓄電池では、わずかな距離しか自走できなかったバスが、長距離を走行できるように技術革新されましたので、本当に「おめでとうございます」で問題はありません。
くす玉開花
式典は粛々と進み、来賓代表によってくす玉開花が行われました。
花束贈呈、最終車両乗務担当。
この日、最終運行のトロリーバスは6両編成(扇沢駅方面先頭車両から307-308-303-309-314-315)でした。最終車両の315号は来賓専用で、前方5両が一般用です。トロリーバス1両の定員は立席を含め72人ですから、整理券総配布数300に対して一般用車両(72×5両=360人)はゆとりがあると言えます。大役を果たされる6人の運転士を代表して最終車両(この日は315号車)を担当する運転士に花束が贈呈されました。
運行票(タブレット)、扇沢駅発のトロリーバスとの交換がない「運行票C」
運行票を受取る運転士、先頭車両乗務担当
そして、先頭車両(この日は307号車)を担当する運転士に運行票C(タブレット)が渡されました。ラストランという言葉の響きから、とても悲しい気持ちになりますが、上述の通り、おめでたいことなのです。セレモニーは終了しました。6人の運転士は最後の乗務につきます。
ラストランに乗務する6人の運転士
最終乗務に向かう運転士
一般の乗客は、来賓の皆様の拍手の渦の中を、通路を通ってホームに進みます。結婚式の披露宴で花道を歩くイメージです。こうして、改札を通過した乗客は、めいめい希望する車両に混乱することなく乗車しました。
改札に向かう一般乗客
ラストランは、大勢の職員に見送られて無事に黒部ダム駅を出発し、滞ることなく扇沢駅に到着しました。
扇沢駅に到着した最終トロリーバス
名残惜しい扇沢駅の様子
54年間無事故で運行してきたというのは、本当に素晴らしいことです。この記録は、新しい電気バスの時代となっても、日々更新されて行くことになるでしょう。本当に、おめでとうございます。
新たに就役する新型バス
新型バス、後方より