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■長江と中国のダム事情

 現在(2004年4月)、最も世界的に注目されているダムの建設は、中国における三峡ダムである。長江の河口上海から 1,800km上流の湖北省宜昌県三斗坪の地点に建設されている。瞿塘峡、巫峡、西陵峡の三つの峡谷を三峡と称する。

 長江は、アマゾン川、ナイル川につぐ世界第3位の河川で、青海西南、タングラ山脈の主峰であるグラグンドに源を発し、青海チベット、雲南、四川、重慶、湖北、湖南、江西、安徽、江蘇、上海を貫流し、東海へ注ぐ全長 6,300km、流域面積 180万 7,100km2の大河である。岷江、嘉陵江、烏江、湘江、元江の支流が流入する。江蘇省の鎮江まで上流で長さ4529km、三峡がある宜昌から江西省の湖口までが中流で長さ 927km、一帯に洞庭湖、番陽湖など数千の湖沼群が散在する。湖口以下が下流で長さ 844kmである。

 長江の水量は全国総水量の約38%を占め、黄河の20倍に達する。増水期は1万トン級の船舶が武漢まで遡航可能である。1990年代に入り、長江を主とする南都の水を大運河などの水路を通じて北部へ送り、華北地帯の深刻な水不足を解消する「南水北調」工事が進められ、2008年開催、北京オリンピックの水需要増大に備えている。

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 長江の洪水は、1153年(洪水量92,800m3/s)、1860年( 110,000m3/s、最大規模洞庭湖周辺に水害)、1870年( 110,000m3/s、荊岸北岸堤防決壊)、1931年(70,000m3/s、死者14万 5,000人)、1935年(59,300m3/s、中流域死者14万 2,000人)、1954年(92,000・/s、洞庭湖地区死者3万人)、1981年(85,700m3/s、 上流域死者 888人)、1983年(31,000m3/s、死者 870人)、1991年(大湖に被害死者 127人)、1998年(長江中流域死者 1,32O人)と起こった。

 これらの発生から考えると、長江の洪水は中流域で深刻である。建国後(1949年)、湖北省枝域から上海まで全長 3,100kmの堤防を全面改修し、3万余kmの支流堤、海岸堤防を建設、修理し、湖岸地帯に 7,000余の遊水池を設けた。

 さらに、1952年に荊江南岸 920km2の遊水池を設け、湖沼地帯一連の遊水、貯水、干拓工事とあわせて面積1万km2、 500億m3の貯水を可能とした。1988年葛州覇ダムを完成し、全流域では37,000余のダムが建設されている。2000年、日本の無償援助による荊江大堤防の補強工事が完成した。しかしながら、このような大河から洪水を防ぐことはなかなか困難なことである。

 長江の水運は、河口から四川省宜賓まで 2,813kmが長江幹流と呼ばれ、船舶はこの全線を通年運航している。南京港まで1万トン級の外洋汽船が運航できる。長江幹線には大小 200以上の港があり、南京、武漢、鎮江、南通が水運の拠点となっている。

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 中国の内陸水面は 1,747万haであって、そのうち河川が30%、湖沼43%、池11%、ダムが13%を占める。「中華人民共和国水法」では、地表水と地下水を含む水資源は全人民所有(国有)に属し、農業集団経済組織が所有する貯水池、ダムの水は集団所有に属する、と規定されている。

 中国のダムの数は約86,000ケ所で、総容積量 4,500億m3に達する。そのうち、大型ダムは 355ケ所(0.4 %)、中型ダムは 2,400ケ所(2.8 %)、小型ダム83,245ケ所(96.8%)である。大型ダムとして、三門峡ダム(河南省、黄河本流、360 億m3)、竜羊狭ダム(青海省、黄河上流、226 億m3)、新安江ダム( 浙江省、新安江上流、 220億m3)、丹江口ダム(湖北省、漢江、丹江の合流下流 800m、210 億m3)、新豊江ダム(広東省、東江中流、140 億m3)などか建設され、灌漑、発電、都市用水、と多目的に利用され、ダム水面の多くは淡水魚の養殖池となっている。

 ダムによって、水流が緩慢となることから、土砂の堆積が起こりやすく、ダムの容積が減少し、漏水が起こったりする問題が生じている。黄河における三門峡ダムは、1960年完成したものの、土砂が大量に堆積し、上流の渭河の河口が泥土で塞がれるという危険が生じたため1965〜68年、1970〜74年にわたり改造工事が行われた。

 以上、長江及びダムについては、天児慧他編『岩波現代中国事典』(岩波書店・平成11年)を主に参考とした。

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