[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]


■大きな開発の枠組みの中で捉える

 日本経済新聞社の特派員として北京に6年間滞在、現在、拓殖大学教授である藤村幸義著『中国の世紀−鍵にぎる三峡ダムと西部大開発』(中央経済社・平成13年)は、第1章 ルポ三峡下り(豊都など完全水没、魅力増すか小三峡、随所に地滑りの足跡)、第2章 着工から7年(工事に一部欠陥も、資金不足が表面化、政治問題化の恐れ)、第3章 高まる戦略性(洪水防止を全面に、上海と重慶を結ぶ、西部開発の推進役)、第4章 環境への影響(多すぎる懸念材料、狂う生態系、気候、ゴミ、土砂が堆積、地震が地滑り誘発、水中に沈む文化財)、第5章 百万人の移転(住民は満足するか、移転工場の競争力)、第6章 建設の正否は(電力過剰の時代に、代替案あるのか)、第7章 協力のあり方(発電機入札に敗退、長江に円借が集中、環境技術への期待)の内容からなる。


 三峡ダム建設について、アスワン・ハイ・ダムとの比較、三峡ダム建設の資金調達、三峡ダム完成後の水位変動、三峡地区の地滑り危険箇所、水没地区の移転人口、開発可能水力の地域分布などの図表を駆使し、政治、経済、社会、文化、環境の観点から、その開発のメリット論とデメリット論を解きあかす。
 さらに、「三峡地区は、三峡ダムの開発という長江だけの問題にとどめてはならないとして、西部大開発という大きな戦略の中で位置づけせねばならない。この西部大開発の中心的役割を果たすのが重慶市である」と指摘する。西部大開発のプロジェクトとして、西安−南陽−南京を結ぶ鉄道、重慶市−懐化を結ぶ鉄道、西安咸陽国際空港の建設、中軽視高架軽軌道交通、チャイダム盆地−西寧−蘭州間の天然ガスパイプライン、四川紫坪舗と寧夏黄河沙坡頭の水利センタ−などの建設を挙げている。「北方の人口は全国の37%、土地で45%を占めながら水資源総量はわずかに12%でしかない、このアンバラ解消するために、長江の水を北方へ導水する南水北調(中央線、東線、西線)のプロジェクトが進められている。このプロジェクトが重要な役割を果たす」と主張する。「三峡ダムの開発は環境の改善を図ることに、その正否にかかっている」とも指摘する。

 長江に流れ込む工場排水や生活汚水は年間 200億トン(全国排出量30%)に達する。垂れ流しの製紙、皮革、捺染、醸造、セメント、石灰など 3,200社もある。また、生活汚水、ゴミが大量に流れ込む。酸性雨の被害も拡大してきた。公害の現状について、読売新聞中国環境問題取材班著『中国環境報告−苦悩する大地は甦るか』(日中出版・平成11年)は、黄河の断流、砂漠化、酸性雨、水銀汚染、ヒ素汚染、ゴミ問題などを鋭く捉えている。これらの公害を克服することが、中国経済の重要な課題となってきた。

   ◇

 21世紀中国の指導者胡錦涛国家首席は、清華大学水利学部の出身である。中国における河川行政に携わるリ−ダ−でもある。三峡ダムにおける住民移転問題、文化財問題、環境問題も含めてこれらの問題解決に対し、胡錦涛国家首席に大いに期待したいものだ。三峡ダムは2009年の完成に向け、着々と工事が進められている。これからもその建設と竣工後の水管理に注視していきたい。


 上記のように、巨大な三峡ダムを考える書を紹介してきた。終わりに、長江について、小出博著『長江−自然と総合開発』(築地書館・昭和62年)、長江水利委員会編『長江三峡大観』(中国水利水電出版社・平成3年)、長江流域規画弁公室編(鏑木孝治訳)『長江水利史』(古今書院・平成4年)、宮村忠編『中国の河川 長江をめぐって』(日本河川開発調査会・昭和56年)、飯塚勝重著『長江物語』(大修館書店・平成11年)、内山幸久編著『長江流域』(大明堂・平成13年)、松本 夫・松原正毅編著『遙かなる揚子江源流』(日本放送出版協会・昭和62年)、渡辺雄吉著『揚子江下り(写真集)』(グラフ社・昭和55年)の書籍を掲げる。

[前ページ] [目次に戻る]
[テーマページ目次] [ダム便覧] [Home]