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■水没者の大規模移転

 中国はダムの水没者数が世界で最も多い国で、1949〜99年の50年間に84,000ケ所のダムが造られ、現在、進行中のダムを含めて約 1,750万人が移転している。三峡ダムによる移転者は 113万人となっているが、さらに増加し、 150万人ともいわれている。

 鷲見一夫など著『三峡ダムと住民移転問題』(明窓出版・平成15年)は、著者自身、三峡ダムの現地を視察し、住民移転者に直接インタビュ−し、中国の日々の情報については、「人民日報」のニュ−スを網羅し、この住民移転を追求している。


 この書の「ダム建設と住民移転」のなかで、丹江口ダム 383,000人、三門峡ダム 319,000人、新安江ダム 306,000人が移転したとあり、これらの3ダムの例を引きながら、従前の生活を回復を得た者は3分の1、衣食を維持できた者は3分の1、そして、開発難民の状況にある者は3分の1である、と著している。例えば、新安江ダムの場合は、第1段階の実験期には、政府側は、移転者の意向を汲みあげ、住民移転はスム−スに実施されたが、第2段階では状況が一変、1958年の「大躍進」政策の下では、ダム建設が優先され、短期間のうちに住民移転は強制的に実施された、とある。

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 三峡ダムの移転基本方針は「当該移住者が居住する村、郷、市、県のうちに再定住させられるものとすると、当該地に再定住させられない場合は、当該人の省のうちに再定住させるものとする。当該省において再定住させられない場合は、外遷により再定住させられるものとする」と、ある。

 長江三峡工程建設移民条例では「開発型移住の方針に基づき、移住者の従前の生産と生活水準を達成ないし、凌駕する」と規定されており、そこでは「移転者の従前の生活水準の維持するとは確約されない」と、この書は批判する。

 開発型移住の方法は、補償費が移転者へ直接支払われるのでなく、住宅の整備、工場の建設、住民の職業訓練などが併せて行われる。例えば住宅の場合、移転先の地方自治体へ補償費が支払われ、自治体が新家屋を建設する。移転者にその新家屋が現物支給されることになっている。従って、移転者への補償費が全額直接支払われない。

 大高一の『三峡ダム見聞記』(「月刊ダム日本」 '00・12月号)によれば、既に、移転者は姉帰県の移民団地、移民農家団地で、生活再建を図っている人も多い。とにもかくにも、今後の三峡ダムの建設の正否は移転者の補償問題が大きな鍵を握っている、といえる。開発型移住、即ち、「生活再建基盤」と「雇用機会」の提供が急を要する。しかし、補償費が直接移転者に使われずに、地方政府内で他の事業に一部流用され、さらには補償担当者が収賄や着服する事件が「人民日報」に、繰り返し報道されていることは残念だ。

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