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◇アサイナサブローの分身たち

 サブローの事業を受け継ぐとはどういうことなのか。北川さんの話は続きます。
 その後、私はこの「七つ森」の話をもう少し踏み込んで考えました。アッと気づきました。
 ウスノロと呼ばれた主人公が、最後には洪水を防ぐ品井沼という大遊水池をつくったということです。クニづくりとともにヒトづくりの話です。そこに、大切なメッセージがあります。サブローは長くこの地方に受け継がれてきた民話の世界から、現代人へ大きな警鐘を鳴らしていることに気がつきました。

 やくたたずと呼ばれたアサイナが、稲作を始めるときに、体が火のように燃えて、先頭に立って働きはじめました。農耕という使命感を持ったときに彼は、村一番の働き者に変身しました。これが、一つめの変身。
 次が、実りの秋に3日3晩の大雨で、洪水に見舞われ、田圃を流されてしまったときに、遊水池を掘る決心をしました。これは治水です。治水という使命感を持ったときに、巨人となってその事業をなし遂げました。これが、二つめの変身です。
 さらに、もう一歩踏み込んで考えますと、最後に小さな山の塊になって飛び散った、それを我々は受け止めて、分身としていまダムをつくった。そうすると数千年前のサブローが飛び散って、数千年後の新しい土木技術をもって、全国の技術者が集まって、そこにダムをつくりにきた、これは時代を超えたサブローのクニづくりへの情熱だと感じました。

 ここ吉田川というのは、知る人ぞ知る暴れ川です。元禄のころから昭和にかけての約260年間、その間に約180回の洪水の記録が残されています。まさに洪水との闘いの歴史です。新田開発、低平地の干拓と洪水との戦いです。
  その後も、農耕を発展させるために、様々な工夫をしてきました。農耕と水のかかわりは、サブローのテーマです。まさに、いま我々がそこに宮床ダムをつくりました。

 サブローは、品井沼を非常に広く浅く掘りました。薄く掘った土でこんもりと名勝七ツ森を造形した。七ツ森は、黒川郡の人達のシンボルです。江戸時代に、伊達藩が新田開発をすすめますが、低平地を埋め立てることによって開発しやすくしたということです。将来の土木技術を見越して、新田を開発できるようにもっていった。我妻六兵衛さんが伊達藩の命を受けて品井沼干拓を始めます、まさに彼もサブローの分身です。

 そのときの干拓方法ですが、吉田川というのは仙台の北のほうから東のほうに向かって流れています。南側は松島の丘という、低い山が連なっています。東流して石巻湾に注ぎますが、北側から大きな鳴瀬川が鹿島台町あたりで合流します。大水が出ると鳴瀬川の水位がぐっと上がります。合流する吉田川は、出られないのです。常にここは、水がダワダワとあふれるのです。品井沼というのはそういうところなのです。

元禄潜穴

 新田開発をすすめるためには、どうしても南側の松島の丘を抜いて、松島のほうに品井沼の水を抜かなければならないのです。これは、大工事です。それがいまも残っている「元禄潜穴」です。2連のトンネルで、3kmぐらいあります。

明治の潜穴

 江戸時代に、あるところまで品井沼の干拓が進みました。明治になって、品井沼干拓に取り組まれた、わらじ村長、鎌田三之助。この方は宮城県の小学校の教科書に出てきます。北上川改修の川村孫兵衛の次です。昔の鹿島台村の村長さんです。この方は品井沼干拓を仕上げた人です。当時、いろいろ地元の方の批判はあったのですが、その苦難を乗り越えて、明治の潜穴を完成させるという偉業をなしとげました。
 アサイナサブローが七つ森、吉田川、品井沼を作ったのが1期工事、我妻さんとか鎌田さんの干拓工事が2期工事、彼らもアサイナサブローの分身ではないかと思っています。3期工事は上流ダム群をつくる工事です。現代のアサイナサブローです。そういう流れの中で宮床ダムはを建設したと、そう思っています。
 碑文にある「サブローの事業を受け継ぐ」とは、このようなことを言っているのです。


宮床ダム
 史実だとか、史実ではないとかいう議論があります。民話というのはどんな民話もそうですが、メッセージだと思います。後世に伝えたいメッセージです。だから、それが伝わってきているのです。我々だって、みなさん一生懸命に生きているのですから、民話を作るべきだと思います。昔のものをそのまま伝えるのも良いのですが、できれば、それぞれのメッセージや想いを新たに加えて、そこに生きている証として民話が生まれればすばらしいと思います。

 宮床ダムの天端高欄には、民話「七つ森」の陶板がはめ込まれています。消えゆく民話を未来に伝えようという試みです。
 北川さんに、「七つ森」を語らせたら尽きるところがない。
 これであの碑文の意味もよく理解できた。そして、あの碑文の裏には、現代の民話が潜んでいるということかもしれない。


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