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カトリーナが残したもの

 2005年8月29日、ハリケーン・カトリーナは、ルイジアナ州に再上陸、ニューオリンズを中心とした地域に未曾有の被害を与えた。ニューオリンズでは、高潮で堤防が決壊、市の約80%が浸水、浸水戸数は16万戸に上るとの情報がある。ジャズで有名な観光地・フレンチクオーターも一面水没した。死者は、現時点(10月はじめ)の情報では、1100人を超える。被災者の救援は順調ではなく、連邦政府、州・市当局の対応のまずさが重なった人災だとか、背景に貧困問題があるとかいった批判や、さらには、原油価格の高騰など世界経済に対する影響も引き起こした。

 このように、ハリケーン・カトリーナは大きく広範な傷跡を残した。ところで、このような大惨事を目の当たりにすると、日本で似たようなことは起こらないのだろうかと、懸念せざるを得ない。


気候は変わったのか

 カトリーナは、8月25日、フロリダ半島に上陸。このときの勢力はカテゴリー1に分類され、たいした勢力ではなかった。それが、最強レベルのカテゴリー5(風速70m〜、中心気圧920ミリバール以下)にまで発達し、ルイジアナ州に再上陸した。このような急速な勢力拡大は、メキシコ湾の海面水温の上昇が原因だとする指摘がある。地球温暖化との関係は明確ではないが、その可能性も否定し得ないだろう。

 日本でも、昨年は大型の台風が相次いで上陸したし、また今年も台風14号は宮崎県などで1000mmを超えるような記録的豪雨をもたらした。今夏には、四国などでの渇水も記憶に新しいところだ。

 科学的な説明はともかく、実感としてはこのところ全世界で気候変動を思わせる事態が進んでいるように思われる。気候が変わり、雨の降り方が変わり、自然災害の懸念が増大していると、そう思うのは心配のしすぎであろうか。


ゼロメートル地帯の恐怖

 ニューオリンズは、北のポンチャートレーン湖と南のミシシッピー川に挟まれた低地で、市面積の70%は海抜0m以下の土地だった。ここで、破堤して水が流れ込んだために、人口約50万人の市域が広範囲に浸水、一面水浸しの状況を呈した。この結果、人的物的被害が拡大した。堤防の応急対策やポンプによる排水によって徐々に水は引いたが、その間相当の時間を要し、被害が拡大した。この状況は、広範囲長期間の浸水、人的物的被害の拡大というゼロメートル地帯の怖さを物語っている。

 日本でも、約861平方キロの面積がゼロメートル地帯であり、そこに200万人の人口があるという。そしてそれは、東京、大阪、名古屋などの大都市に広く分布している。これら大都市で、ニューオリンズの情景が再現されるとしたら、耐えられない悲劇であろう。備えは万全といえるだろうか。


財政という制約

 ニューオリンズ地域では、カテゴリー3のハリケーンに対応するため堤防整備を実施してきていた。進捗率は地域によって違うが、70%とか90%とかいったレベルの数字のようである。完成予定は2015年であるが、予算不足のために進捗ははかばかしくなかった。全体事業費7.38億ドルに対し、2005年度予算配分額はわずか0.05億ドル(全体事業費の約0.7%)でしかなく、整備に当たっている陸軍工兵隊は財源不足のために事業が遅れているとの認識を示していたという。
 また、陸軍工兵隊には、カテゴリー3への対応では不十分との認識があったようで、カテゴリー5に対応するための研究も実施していた。

 社会資本を巡る予算を見ると、日本の方がより厳しいかもしれない。治水もダムも、このところ予算の減少が著しい。その背景には、国と地方を通じた財政悪化があるが、重大なリスクに対して財政上の制約をどこまで優先させるかは、十分な議論と説明が必要であろう。


観念より実態を

 「ダムはムダ」とか「脱ダム論」に見られるような観念論的議論は、もうそろそろ卒業して、実態に即した、現実に基づいた議論を進めるべきだ。今日本で、そして世界で何が起きているのか、その事実が議論の出発点であるべきだ。

 ハリケーン・カトリーナは多くの悲惨な爪痕を残したが、また、教訓も残した。少し後に、ハリケーン・リタがテキサス州・ルイジアナ州に上陸したが、迅速な対応や大規模な避難などによって、大きな人的被害はなかった。教訓は生かされたといえるだろう。そして、日本でも、カトリーナの実態把握とそこから何を学ぶべきか、調査、分析、検討などやるべきことは多いだろう。カトリーナ上陸から1ヶ月余り、避難していた住民も徐々に戻りつつある。今少し、推移を見守りたい。

(2005年10月作成)
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