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1.山梨県のすがた

 山梨県の俳人飯田龍太は「水澄みて四方に関ある甲斐の国」と詠んだ。国名の「甲斐」は、山により狭まれた地、狭間を意味する、「峡(かい)」に由来するという。

 標高2000m〜3000mの四方の山々を源とする水は、釜無川、笛吹川、富士川、桂川(相模川)、多摩川を流れ下る。これらの河川を利用して古くから疏水が開削されてきた。疏水は、灌漑用水、飲料水、舟運、発電などの目的をもって、土地を切り開いて設けた水路のことである。

 平成18年2月、農林水産省は、主に農業用に造られその地域共同体で守られてきた水路について、次世代に継承するために、全国の「疏水百選」を選定した。山梨県では村山六ケ村堰と差出堰が選ばれた。(河川情報センター編・発行『PORTAL('06.3月号)』

 この2つの堰の他に、農業用水として、徳嶋堰、朝穂堰、藤井堰、楯無堰、陳馬堰、大垈堰など多くの堰が開削されており、江戸時代にはブドウ、リンゴ、ザクロなどが「甲斐八珍果」として広められ、今日でも山梨県は果樹王国を誇っている。

 山梨県は中部地方の南東部に位置し、5都県に囲まれた内陸県である。
 人口88.2万人(平成18年3月現在)、総面積 4465.37km2で可住地面積割合21.3%、人口密度(可住地面積1km2当たり) 933.7人である。山地は77.8%を占め、全国有数の森林県であり、杉、桧、カラ松、赤松などを中心とする人工材は森林面積34.7万haのうち約44%にあたる15.3万haに及ぶ。環境負荷の少ない木材資材を循環利用し、持続可能な林業経営が促進されている。

 地形的には、山梨県の北東部には秩父山地、西部には南アルプス(赤石山脈)、南部には富士山を中心とした富士5湖や丹沢山地、御坂山地、東に桂川の流れによる河岸段丘を形成し、北部には八ケ岳、芦ケ岳の裾野が広がる。

 気候をみてみると、高い山に囲まれた内陸性の気候で、四季、昼夜の寒暖の差が激しい。甲府地点における1988〜2004年にかけての年間平均降水量は1195.9mmで、全国平均1585.7mmより 425.8mmも少ないが、この雨量は夏季に集中することから、急な地形と相まって度々災害を招く。冬季は北風の季節風が強いが、晴天の日が多く、とくに茅ヶ岳山麓など北部は日照時間が長い。山梨県では年間日照時間1971時間、年平均気温14.8℃、年間降雪日数15日、年平均相対湿度64%となっている。

 山梨県は、国中(甲府盆地)、峡北(八ヶ岳、茅ヶ岳山麓)、郡内(富士山麓と県東部)、河内(富士川流域)の4つの地域に区分される。

・ 国中地域は、三方断層崖で囲まれた甲府盆地である。この盆地は笛吹川と釜無川氾濫源により扇状地群をつくり出し、古くから水田や畑に利用されてきた。東京方面から中央本線に乗って笹子トンネルを抜けると、甲府盆地に入るが、この盆地にブドウ畑やもも畑が一面に広がっている。平成18年3月30日に訪れたときは、梅や桃や桜が満開であった。まるで、桃源郷の世界をかもしだしている。前述のように果樹王国であるが、それは自然条件に恵まれているからである。とくに果実の成熟する時季に、高温、乾燥、日照時間が長く、強風が吹かず、そして水はけの良い砂礫層土地であることがあげられる。
 平成16年山梨県の果物生産量は、ブドウ 53,400t、もも 53,400t、すもも 9200tとなっており、各々日本一である。国中地域の中心地甲府市は、県の政治、交通、商工業、文化の中核を成している。工業では近年、国母工業団地を中心に電気、化学、金属などの工場が進出。さらに水晶や印伝加工の伝統工業も盛んである。

・ 峡北地域は、西は赤石山脈、北は八ヶ岳、東は金峰山や茅ヶ岳などに囲まれ、80%が山地を占める。釜無川やその支流に高地が広がり、北杜市、韮崎市が中心都市である。
 八ヶ岳の南東側は、山梨県では最も気温が低いが、古くから農業地域で、山麓には37ケ所の湧水が流れ、水田が広がっている。この地域は水温が低いため、多くの用水、溜池を造って水温をあげ、夕方から水田に水を入れ、朝に止める「止水灌水法」によって収穫をあげている。保温折衷苗代の導入によって早く田植えできるようになった。高冷地の気候を利用したトマト、レタスの栽培、乳牛や豚などの飼育も盛んになった。
 一方、八ヶ岳高原は、八ヶ岳横断道や中央自動車道の開通により、観光開発が進み、学校の寮、研究施設、ホテル、ペンションが建ち並び、若者たちが訪れるようになった。

・ 河内地域は、山梨県南部の富士川に沿った所であるが、温暖多雨地帯で85%が森林によって占められ、林業が盛んである。主な町村は和紙製造の市川大門町、かって富士川水運で栄えた鰍沢町、全国の印章のほとんどを生産している六郷町、門前町の身延町、高級茶の生産地南部町である。

・ 郡内地域は、山梨県南部にあたり江戸時代から「郡内領」と呼ばれていた。この地域は富士山と富士5湖を擁し、日本を代表する観光地である。
 最近、新笹子トンネル、新御坂トンネル、甲府精進湖道が開通し、甲府方面、京浜地方、東海地方との交通が便利となった。
 郡内地域の主な都市は富士吉田市、城下町から発達した都留市、大月市、一方上野原町は、東京都のベッドタウンになっている。

 なお、山梨県の花は「ふじざくら」、鳥は「うぐいす」、獣は「かもしか」、木は「かえで」と制定されている。

 以上、山梨県のすがたについて、旺文社編・発行『日本地理5 中部地方(山梨県)』(平成2年)、山梨県広聴広報課編・発行『2005やまなし』(平成17年)に拠った。


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