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◇ 1. ダムの切手

 東海林太郎が「夕陽は赤し、身は悲し、涙は熱久頬を濡らす、左らば湖底のわ可村よ、幼き夢のゆりかご与」と歌った小河内ダムは、昭和32年11月に完成した。東京都の人口は740万人に激増し、街頭では白黒のテレビの前で沢山の人たちが力道山の空手チョップに興奮していた。当時、卓上テレビ86 500円、たばこピース40円、マッチ25円、理髪料150円、国家公務員給与8 700円、内閣総理大臣給与150 000円、であった。

 川村光男著「切手が語る世界の川とダム」(全国建設研修センター・平成9年)には、小河内ダム竣工記念の切手が掲載されている。その他の記念切手をみてみると、緑川の通潤橋(安政2年完成)、佐久間ダム(昭和31年)、愛知用水の通水(昭和36年)、木曽三川治水100年、砂防100年、黒部ダム(昭和39年)、近代水道100年、近代河川制度100周年など、水道やダムに係わるインフラ整備の変遷を辿ることができる。


「切手が語る世界の川とダム」
 平成19年、東京都水道局は、水への感謝をこめて小河内ダム竣工50周年記念切手を発行した。

 この書からスリランカ、スペイン、エジプトの3ケ国のダムの切手をみてみたい。
 スリランカは人口1 790万人、一人当たりGNP640ドル(1994年)である。南北に約438q、東西の最大幅約226q、梨のような形をした島国で、国土面積6.6万km2、その約17%が南部中央の山岳地帯である。古くから多くの灌漑用溜池がつくられ、農業が盛んで、切手にも国土と河川、古代の溜池、水田とダム、灌漑用水の取水堰、溜池と水田が描かれている。


 ダムの切手は、ガル・オヤ川のインギニヤガラ・ダム(1956年完成)、マハベリ川のコスマレ・ダム(1985年)、マハベリ川のビクトリア・ダム(1984年)、ビクトリア・ダムの下流のデニガラ・ダム(1986年)の竣工を記念して発行された。これらのダム建設にはイギリスのコンサルタント会社が関与している。

 スペインはイベリア半島の8割を占める本土とバレアス諸島、カナリア諸島を含めた国土面積50.5万km2(日本の約1.5倍)、人口3 910万人、一人当たりGNP13 440ドル(1994年)の高所得国である。スペイン本土は平均標高400m、カンタブリア山脈、ピリオネス山脈、シェラモレナ山脈などが連なり、これらの山岳地帯から地中海に流れるエブロ川、大西洋に注ぐドウロ川、テージョ川などの河川がある。それぞれの本支流に1986年までに735基のダムが建設された。

 切手には、とうもろこし畑の灌漑、スペインの灌漑ダム、水の女神とダム、古代ローマが築いたセコビアの水道橋、テージョ川アルカンタリア地方の水車が描かれている。

 1973年スペインの首都マドリッドで開催された世界大ダム会議を記念して、イズナジャール・ダム(1969年)の切手が発行され、切手の左側上部に国際大ダム会議(ICOLD)のシンボルマークが記された。

 エジプト・アラビア共和国は、国土面積100.1km2、人口5 680万人(1994年)一人当たりGNP720ドルの低所得国である。95%以上が砂漠地帯で、1 300qにわたるナイル河西岸首都カイロ以北に拡がるナイル・デルタにほとんどの人が居住しており、ナイル河はエジプトにとって命の水である。ナイル河本流にイギリス人W・ウィルコックスの設計によるアスワン・ダムが1902年に完成した。

 切手には、ナイル河−モハメッドアリ(聖人)没後100年、アスワン・ダムとファールーク国王、エスナ堰(1908)、アスワン・ダム建設90周年、アスワン・ダム水力発電所、アスワン・ダムと綿花農地が発行され、このようにアスワン・ダムを讃えている。
 近代になって、ナイル河本流アスワン・ダムの上流7q地点に、ナセル大統領の指導のもと、ソ連技術者たちの協力によって1970年アスワン・ハイダム(ナセル湖)が完成した。

 ダムの切手には、アスワン・ハイダム着工記念、アスワン・ハイダム、アスワン・ハイダムの発電、アスワン・ハイダムと送電線、ダム水没移転後のアブシンベル神殿、アスワン・ハイダムの湛水開始、アスワン・ハイダム建設25周年が発行された。ダムの着工、試験湛水、完成、25周年記念とダム湖誕生まで発行された切手は世界中稀なことである。いかにエジプトが、このアスワン・ハイダムの治水力と、水力発電、農業用水の利水力に大きな期待感を現しているかが理解できる。ダムはその後、エジプトの経済発展の原動力となってきたが、人口増加を呼び、居住面積の狭いエジプトを悩ませている。

 以上、3ケ国のダムの切手をみてきたが、各国におけるダム建設の歴史がわかるようになっている。著者のダム切手収集とその編集には頭が下がる。続編を著されることを期待したい。


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