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■外国のダム建設

 外国のダム建設についての物語がある。アン=R・ファンデル・ルフ作、熊倉美康訳、市川禎男絵『われらの村がしずむ』(学習研究社・昭和42年)は、著者はオランダ人であるが、サンシルベストルというフランスの山村に造られる水力発電用のダムが舞台である。
 表紙に描かれたペペ老人は、クビに白いマフラ−を巻き、両手を組み、沈黙し、先祖伝来の土地から一歩も離れたくない苦悩の姿である。ぺぺ老人は、息子と、ジャンジャク、ピエ−ル、フランシ−ヌの3人の孫たちと暮らしている。孫たちはぺぺ老人の気持ちを汲んでパリのフランス大統領に会わせることに成功する。ぺぺ老人は大統領にダム反対の陳情を行うが、大統領は実に丁重に対応し、そして優しく村へ送り返す。結局、ダムは完成する。孫たち3人はそれぞれ巣立って行き、ぺぺ老人は養老院で暮らす運命となった。ある日、完成したダム湖に自ずから身を沈めてしまう。悲しい結末である。若者は新天地に将来の夢を描くことができ、逆に、故郷を喪失した老人は悲観的になるのだろうか。
 ダムは、公共の福祉のために、世の中の幸せのために、造られるものである。全ての水没者は幸せになってもらいたい。このことは企業者、施工業者にとって、心からの切なる願いである。

 C・W・ニコ−ル作、五木寛之訳、山下一徳絵『りんごの花さく湖』(偕成社・昭和55年)は、カナダのロッキ−山脈のふもと、りんごの花さく美しい村がダムに沈む話である。フレッド老人が少年のころのりんごの花につつまれた故郷を回想するメルヘン的な絵本である。

 ジェ−ン・ヨ−レン文、バ−バラ・ク−ニ−絵、掛川恭子訳『みずうみにきえた村』(ほるぷ出版・平成 8年)は、アメリカの東部ニュ−イングランド、スウィフト川から、ボストンの都市へ飲料水を送るために造られたダムを背景としている。作者は「1927年〜1946年クアビン貯水池に家という家はすべて、それに教会も学校も−人間が生きてきた証となるものはすべて−永遠に水の底に沈んでしまいました」と、その体験を記している。この児童書をめくると、一枚一枚の絵に、消えていく教会、学校、公会堂をいとおしむように叙情的に描かれていて、印象に残る。

 インドのダムの話である。クレ−ヤ・ロ−ドン文、ジョ−ジ・ロ−ドン絵、光吉夏弥訳『村にダムができる』(岩波書店・昭和29年)は、村の子アル−ンが、ある日仲良しの象モチがダム現場へ働きに出かけてしまい、モチに会うためにダム現場へ行くストリ−である。インドの人たちが、雨期と乾期が入れ変わりやってくる自然条件と闘いながらも、生き生きと働く姿と、ダムの完成を待ち望んでいる様子が描かれている。

 ダム建設は、動植物界を含めた自然環境にも多大な影響を及ぼす。自然環境保全のために「絶滅のおそれのある野性動植物の種の保存に関する法律」(平成4年6月5日)、「環境影響評価法」(平成9年6月13日)が制定された。先に、アメリカでは1973年(昭和48年)に「絶滅に瀕する種の法」が成立している。
 辻田啓志作、若菜珪絵『ダムをとめた小さな魚』(あすなろ書房・昭和62年)は、アメリカのリトル・テネシ−川に建設中のテリコ・ダムが大事か、この川に棲むスネ−ル・ダ−タ−という7センチ程の小さな魚が大事かについて、裁判にて争われた話である。インディアンのおじさんがスネ−ル・ダ−タ−を見つけ、テネシ−大学のプラッタ−先生に相談した。すぐに、スネ−ル・ダ−タ−を守る市民運動が起こり、裁判となった。第1回の裁判は「1億5千ドルをダムに使ったから、ダム工事は完成してよい」となった。直ちに控訴された。第2回の裁判は「野性の生物を守る法律によると絶滅しかけている生物には計算できないぐらい莫大なねうちがあると認めています。だからダムをつくるために1億5千ドルをつかっても、いやもっとたくさん百億ドルをつかおうとも、スネ−ル・ダ−タ−のほうが莫大なねうちがあるのだから、スネ−ル・ダ−タ−を大切にしなさい。ダムをつくってはいけない」との判決が下った。絶滅寸前の小さな魚のほうが大きなダムより価値があると、実証された。アメリカで、いや世界でも初めてである。昭和54年6月、日本の新聞にも報道された。
 なお、この書には「がんばれ北海道のシシャモ」のテ−マで、砂流川の二風谷ダム建設に係わるアイヌ人のシシャモを守る活動も掲載されている。平成8年に二風谷ダムは完成した。


   ◇   ◇   ◇

 ダムは治水、利水、そして親水の役割を果たす。日本では約3000基のダムが完成している。今日、ダム湖の水辺周辺は、整備されて住民の憩いの場となっている。散歩やジョギングやマラソンなどのレクリェ−ションの空間の場も提供する。最近、ダム湖周遊マラソン大会が各地で盛んに行われるようになってきた。
 河川情報センタ−編・発行『かわの情報誌さらさ』(2003・Autumu)をめくると、毎年11月23日に開かれる兵庫県川西市の一庫ダム(知明湖)周遊マラソン大会の様子が載っている。昭和57年一庫ダムの竣工を記念して、川西青年会議所が第1回マラソン大会を開催し、今年で第22回を迎えたとある。ランナーたちは、ハーフマラソン、2Km親子ペア、3Km、5Km、10Kmのコ−スに挑戦、「知明湖」周辺の豊かな自然とともに走る。
  <マラソンの ゴ−ル近くで 水光る> 
               (中田 生吹)
 ダム湖は、マラソンを通じて、流域の上流、中流、下流の人たちの交流を図り、スポ−ツの振興を高め、親子のコミニュケ−ションを深め、健康を維持する効用があるようだ。


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