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ダム番号:1424
 
豊浦山池 [大阪府](とようらやまいけ)



ダム写真

(撮影:安部塁)
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テーマページ 位置未確認ダムを探して…豊浦山池
左岸所在 大阪府東大阪市東豊浦町  [Yahoo地図] [DamMaps] [お好みダムサーチ]
位置
北緯34度40分13秒,東経135度39分56秒   (→位置データの変遷
[近くのダム]  大門(7km)  寒谷池(8km)

河川 淀川水系恩智川
目的/型式 A/アース
堤高/堤頂長/堤体積 15m/64m/16千m3
総貯水容量/有効貯水容量 50千m3/50千m3
ダム事業者 東大阪市
本体施工者 ダム事業者直営
着手/竣工 /1952
諸元等データの変遷 【05最終→06当初】堤高[18→15]
【06最終→07当初】河川名[恩智川→金剛川]
【07当初→07最終】河川名[金剛川→恩智川]
【12最終→13当初】本体施工者[東大阪市直営→ダム事業者直営]

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位置未確認ダムを探して…豊浦山池

安 部  塁
 
1.はじめに

 このレポートをご覧になる方は、おそらく一度はDam Mapsを利用したことがあることでしょう。Dam Mapsには携帯電話を利用すると、現在地から直線距離で近いダムを順に5基まで教えてもらうことができる大変便利な機能があります。

 『なにわ』の中心地である中之島(大阪市役所付近)や大阪城(大阪府庁付近)から、この機能を利用して最寄りのダムを調べてみると「豊浦山池」というアースダムが第1位に表示されます。おそらく、大阪市内ではどの場所からでも「豊浦山池」がベスト5に入るのではないかと思います。

 ところで、この「豊浦山池」はダム便覧では、北緯34度40分13秒,東経135度39分56秒【位置未確認】とされていました。所在地は大阪府東大阪市東豊浦町という場所です。同所には他に想定される貯水池がないため、位置未確認ではありますが、この経緯度に所在する貯水池が「豊浦山池」というアースダムである可能性が高いと考えられます。位置未確認となっていた理由は、一般の地図や地形図には「豊浦山池」の表記がないからです。

 しかしながら、この場所はやはり「豊浦山池」に間違いありません。一般の地図には、「豊浦山池」の記載がないのですが、住宅地図にはかなり以前から「豊浦山池」の表記がありました。住宅地図は、地域に密着した地図で個人住宅の位置まで詳細に記されている地図です。価格は高価なものですが市販されており、主に地域住民を顧客として商売を営んでいる方(飲食業、宅配業、金融業など)には必須のアイテムです。この地図は、地元の図書館に行けば、たいてい常備されており閲覧できます。住宅地図は専門の社員による地道な調査で作成されているようです。住宅地図に「豊浦山池」の記載がある以上、調査にあたった社員の方がこの場所に足を運んでいた証となります。


東大阪市東豊浦町の住宅地図。
 
2.課題

 このアースダムについては、ほぼ位置が判明しているものの、アクセスルートが課題となりました。地図を見ても国道308号線からどうやって近づけばよいのか全く分かりません。

 大阪府東大阪市は、その名の通り大阪府東部に位置し、生駒山地を境にして奈良県生駒市と接しています。大阪府下では、大阪市・堺市(いずれも政令指定都市)に次ぐ、第3位の人口を擁しています。東大阪市は、昭和42年に旧布施市・旧河内市・旧枚岡市の3市が合併して誕生した比較的歴史を有する都市です。高校ラグビー界の甲子園といわれる花園(近鉄花園ラグビー場)もこの東大阪市にあります。

 それにしても、大阪の中心部から最も近いダムをいつまでも位置未確認のままにして良いものか。何とかアクセスできないものであろうか。


生駒山地からの遠望。高架道は、阪神高速東大阪線と近鉄けいはんな線。
 国道308号線は、第二阪奈と呼ばれているバイパス(有料道路)と、暗峠(くらがりとうげ)と呼ばれている旧道の2つのルートがあります。現在、ともに国道308号線とされています。「豊浦山池」に行くためには、旧道の308号線を通らなければなりません。

 バイパスの方は、阪神高速道路13号線(東大阪線)と直結し、大阪市中心部と奈良市中心部を結ぶ大動脈となっています。一方、旧道の方は、細く急斜面で曲がりくねった道路が延々と続く国道です。『旧道』というよりもむしろ『古道』と表現する方が適切かもしれません。このように整備が行き届いていない国道を「酷道」と呼ぶ人がいます。「酷道」という言葉はまさしく国道308号線(旧道)のために造られたものといっても、過言ではなはないと思います。


国道308号線(旧道)。

暗峠府県境付近。
 府県境には、幅員制限1.3mの標識があります。この標識はかなり退色していますので現在も有効な標識かどうかは府県公安委員会に確認する必要があります。(個人的な興味で確認するのはどうかと思い、今のところ未確認です。)実際問題として、1.3mの道路幅では、四輪車は物理的に通行不能です。

 現在の国道308号線(旧道:暗峠ルート)は、一応普通自動車が何とか通行可能です。この標識は警戒の意味を込めて、道路拡幅後も撤去していないのかもしれません。それでも全区間にわたり駐車余地はほとんどありません。


 麓には、近鉄奈良線の「枚岡(ひらおか)駅」があって、休日にはハイカーも多く訪れます。自動車でのアクセスが極めて困難である以上、枚岡駅から徒歩で急斜面に挑み、道なき道を進むしかありません。そうすれば、努力次第で「豊浦山池」に到達できるはずです。

3.地元民の情報

 知人を介して、この「豊浦山池」に以前、水鳥を見に行ったことがあるという人に話を伺うことができました。


 この方から得られた「豊浦山池」に関する情報は、次の通りです。

●「豊浦山池」の周囲は、樹木が成長しているので、国道308号線からこの池を遠望することは、非常に難しいであろう。
●「豊浦山池」に行くためには、国道308号線から細い道が枝分かれしているので、その道を歩けば到着する。国道から分岐する所には、案内の石柱がある。
●その石柱から細い道を進むと『行き止まり』と書かれた看板がある、(…ただし、今でもその看板あるかどうかは不明であるが…)その『行き止まり』の方向に行けば「豊浦山池」に着く。

という内容でした。

 『行き止まり』の方向に歩けば目的地に着くというのは、常識に反する行為です。
 しかし、そこには、「池」があるので『行き止まり』と警告を与えていると考えれば当然のことで十分納得できます。その看板はダムマニアのためにあるのではなく一般の善良なハイカーのために設置されたはずですから。

さらに、

●近鉄「枚岡駅」から徒歩で向かうのであれば、かなり急斜面を歩くため、個人差にもよるが、休憩時間を含めて2時間以上かかる。休憩をとらずに歩き通したら健康状態に保障はできない。

ということです。地図には何も描かれていませんが「豊浦山池」には、やはり、通じている道があることがわかりました。

 もし、自動車を利用するのであれば、

●国道308号線から、「豊浦山池」に向かう道に枝分かれする部分には、駐車余地なし。
●枝分かれする道は、自動車の通行は絶対に不可能。(旧道の国道308号線でさえ、自動車の通行が容易ではない道です。この国道より細い分岐路であれば自動車の通行が不能であることは、十分にうなずけます。)

 ただし、

●「豊浦山池」付近には『大阪府民の森』の管理用道路が通過している。この管理用道路と国道308号線とは平面交差している。(交差点がある。)
●その交差点南側(大阪→奈良では、右折方向)は、扉が閉鎖され一般車進入禁止である。だが、北側(大阪→奈良では、左折方向)は常時、扉が開放されており一般車も通行が認められている。
●北側扉付近は道路の幅員がかなり広いので、ここに駐車して、分岐点に徒歩で進むのが、疲労度が最も少ない方法であろう。

ということでした。

 私は、お言葉にあまえて『大阪府民の森』の管理用道路を利用させて頂く手段をとることにしました。

4.豊浦山池

 教えていただいた管理用道路付近から分岐点の道路は、急な下り坂です。帰る時は、この下り坂が急な上り坂となって身に降りかかります。


「右 くらがり峠」
「左 ほととぎす名所 髪切山慈光寺」
 下ること数分で目印となる石柱がありました。


 その脇には確かに徒歩のみ通行可能な細い道がありました。ここから、細い道を進みます。なるほど、入口こそ少し道幅がありましたが、大変細い道です。幅員は狭いものの、しっかり岩盤に刻まれた徒歩道で、落石やがけ崩れの危険性は全くと言ってよいほど感じられませんでした。

 分岐点からほぼ平坦な道を歩くこと数分、標識を見かけました。


 『行き止まり』の看板です。
 このようなものとは予想していませんでしたが、確かに、『行き止まり』看板がありました。なお、石柱やこの看板に書かれた『(髪切山:にぎりさん)慈光寺』は、奈良時代創建の歴史を誇る古刹です。

 そして、すぐに「豊浦山池」に到達できました。


 余水吐きから少しずつ水が流れています。


 これが豊浦山池堤体の上流面であると思います。


 こちらが、下流面です。


 先客の方が釣りをしていました。

 大阪の中心部から最も近いダムはとてもアクセスが困難なアースダムでした。車をお持ちの方も、「豊浦山池」に行くためには、あえて軽自動車のレンタカーを利用した方が無難です。また、水分補給のためペットボトルの飲み物を1本持参してください。飲み終えたボトルは必ず持ち帰ってください。

5.おわりに

 「豊浦山池」のある淀川水系恩智川は、川幅が狭く洪水を起こしやすい河川です。(もっとも、この恩智川だけが特殊な環境にあるのではなく、わが国の河川はどれも同じような条件で、やはり集中豪雨には弱いものです。)このため、花園ラグビー場に隣接した場所に花園遊水地(平常時は公園)が整備されています。




 恩智川を拡幅改修するといっても、両岸の大半は、すでに道路・宅地・田畑となっています。簡単には川幅を広げることができません。川幅を広げられないのであれば、東京の石神井川や神田川を範として深く掘り下げるしかありません。この恩智川も同様に深く掘り下げられた部分が多い河川です。


 川底を深く掘り下げることによって、治水効果は少しだけ高まるものの、別の問題が生じます。平常時の水位が低くなり、かんがい用水として農地に導水することができなくなったのです。

 河川整備だけで洪水対策をしようとすると、このような弊害が発生するのかもしれません。このため、かんがい用水を確保するために生駒山地の中腹に「豊浦山池」が必要とされたのだと思います。河川改修のみでは全ての問題を解決することができない事例の一つと言えるでしょう。


 あのような細い道を通り、人力で土砂を運んでアースダムを造ることができたのは、当時、材料費よりも人件費が安価であったという歴史的背景があると思います。とはいえ、相当の難工事であったこともまた事実でしょう。

 建設にあたり、どれくらいの費用を要したかは不詳ですが、現在では減価償却を終えて利益を生むアースダムになっているのではないかと思います。



(2010年3月作成)


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