《このごろ》
大滝ダムのケーブルクレーン

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夜雀さんのサイトに大滝ダムのケーブルクレーンは、黒部ダム建設に使われたものだという話が載っている。

ダム建設の機械などを、完成後に他のダムで使うことはよくあるようだが、黒部ダムから大滝ダムへ、だいぶ建設時期が離れてもいるし、この話は本当なのだろうか、少し調べてみた。


大滝ダムに残るケーブルクレーンの移動塔(撮影:KIYOTAKA)

月刊ダム日本の記事(注1)に次のようにある。

上遠野 (中略)近畿地方建設局では、計画当初に官貸与機械を手当てなさっていまして、黒部ダムの25t両端走行式ケーブルクレーンを購入なさって、大滝ダム用に片側弧動の20tケーブルクレーンにしたというダムです。

これによれば、次のようなことが言えそうだ。

・ケーブルクレーンは、大滝ダム計画の当初に、建設省が手当てした。大滝ダムの計画当初と言うことなので、相当以前だろうから、黒部ダムからというのも頷けるように思われる。

・黒部ダムでは、ケーブルクレーンの両端が移動するタイプのものであったが、大滝ダムではそれを改造し、片側が固定、もう一方が円弧を描いた形で移動するタイプになった。

黒四発電所建設史(注2)には、

 ケーブルクレーンは、峡谷の両岸の間に、本流をまたいで張り渡された径間約600mのケーブルに、総重量25tonのバケットを吊り下げ、これを移動さしてダム上にコンクリートを送り込む装置であった。

とあり、また、同書の建設史年表には、

 昭和34年8月25日 ケーブルクレーン1号機を据え付け完了
     9月15日 ケーブルクレーン2号機を据え付け完了

と記されていて、これらから、黒部ダムでは、両端が動くタイプの25tケーブルクレーンが2台あったことが分かる。

さらに、「ダム技術」の記事(注3)によれば、

 20tケーブルクレーンは、昭和33年に関西電力が黒部第四発電所建設の際、28t吊り・スパン598mの仕様で製作した2台のうちの1台である。当時の仕様は両端走行型のケーブルクレーンであったが、大滝ダムへの転用に際し現在のように弧動型に改造している。
 弧動型への改造は昭和45年入手時点で行っており(以下略)

とあり、黒部ダムのケーブルクレーンは仕様上28tで、昭和33年に製作、それを大滝ダム用に改造したのは昭和45年であったことが分かる。

以上を、まとめると次のようになる。

@黒部ダムを建設する際、関西電力は、昭和33年に25t(仕様上は28t)両端走行型ケーブルクレーン2台を製作し、昭和34年8〜9月に現地に据え付けて、その後の本体コンクリート打設に使用した。

A黒部ダムの完成後、建設省は、昭和45年に1台を入手し、弧動型に改造、大滝ダム建設に転用した。

大滝ダムのケーブルクレーンは、黒部・大滝という大きなダムのために2度働いた。今大滝ダムにはケーブルクレーンの移動塔が残っている。昭和33年(1958)製作だから、既に半世紀を超えている。ご苦労様でした。それにしても、貴重なケーブルクレーンなので、大滝ダムで是非保存措置を講じ、長く一般公開てほしいものだ。


(注)
1.座談会「コンクリート施工技術の現段階と今後」(「月刊ダム日本」 No.773 2009.3)
2.「黒部川第四発電所建設史」関西電力株式会社 昭和40年9月20日
3.名波義昭・脇本吉庸「大滝ダムケーブルクレーンの事故について」(「ダム技術」No.163 2000.4)

[関連ダム] 大滝ダム  黒部ダム
(2011.1.6、Jny)
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