平成25年8月1日(木)−2日(金)に神奈川県の宮ケ瀬ダム、相模ダムにおいて、ダム工学会・若手の会による「第1回ダムを知るための若手技術者勉強会」が開催された。 ダム工学会・若手の会では、ダムに関心のある若手技術者・学生への情報提供のほか、若手技術者に対しての技術継承や技術者間における連携を目的として、これまで六度にわたり「若手技術者のためのダム見学会」・「語りべの会」を開催してきたが、今回は土木を勉強中の大学生にダムの魅力を体感してもらうために泊りがけでの現地見学会と勉強会を企画した。
【プログラム】
1日目は、宮ケ瀬ダムにおいてダム工学に関する基礎講座を開き、宮ケ瀬ダムの概要説明のほか建設当時の苦労話を聞いた後、堤体内や周辺施設を見学した。夜には若手ダムマイスターの方によるダムの魅力についての講演を頂いた。 2日目は、相模湖交流センターで相模ダムの解説を聞き、宮ケ瀬ダム、相模ダムで学んだ基礎知識をチェックするダムに関する試験を実施。このほか、参加大学の研究発表、ダム技術者による講演会を行った。 延べ2日間でダムというもののアウトラインがつかめる勉強会で、4大学から学生12名が参加した。
【バスで宮ケ瀬ダムへ】
当日は、朝9時30分に本厚木駅に集合、バスで宮ケ瀬ダムに向かった。 まず、宮ケ瀬ダムの「水とエネルギー館」で、石田委員(東京大学教授)からこの2日間で事務局を含めた参加者同士の交流を深め、各々の今後の研究活動に生かして欲しいという趣旨の開会の挨拶があり、初めに山口嘉一氏((一財)ダム技術センター首席研究員)に「ダムの基礎知識講座」の講義を頂いた。これまで我が国のダムは高度成長期に沢山作ってきたが、ダムの役割を伝えていくことが、後回しになってしまっているので、ダムの知識を正しく伝えることができるサポーターになって欲しいと、学生に向けてのメッセージがあった。
石田委員(東京大学教授)
| 山口嘉一氏((一財)ダム技術センター首席研究員)
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【宮ケ瀬ダムについての説明と見学】
昼食をはさんで、谷口英博氏(宮ケ瀬ダム管理事務所長)から「宮ケ瀬ダムについて」、続いて西田博氏(元宮ケ瀬ダム工事事務所長)から「宮ケ瀬ダムの建設」と題して建設工事の状況についてお話頂いた。 その後、ダム天端を経て徒歩にて移動し、相模川水系広域ダム管理事務所内部を見学した。広く明るいコントロールルームの様子に一同感激の様子。 続いて、堤体内部へと向かいエレベーターでB1Fへ移動、堤体内部は非常に涼しくそこでは選択取水の方法やダムの安全性をチェックするプラムライン、点検用モノレール、洪水調節を行うための高位常用洪水吐などを見学し解説を受けた。
宮ケ瀬ダム天端
| コントロールルーム
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堤体内部を見学
| 堤体内部を見学
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下流を望む
| 説明を聞く
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【宮ケ瀬ダムを体感する】
次いで、エレベーターを経てダム下流側へ移動し、下流から見上げる壮大な宮ケ瀬ダムを肌で感じることができた。ダムの下流施設、愛川第1発電所、新石小屋橋、石小屋ダム(副ダム)愛川第2発電所を見学し、あいかわ公園でバスに乗車後バス車内から湖畔観光施設を見学後、宿泊場所に向かった。
【ダムマイスター琉さんが語る】
| | 夕食後は、若手ダムマイスターの琉さんからパワーポイントを使った「ダムの魅力」についてのプレゼンテーションがあり、参加者の大学生とほぼ同年齢ということもあり、さらにダムへの魅力が増したようだった。その後、希望者は同日に開催されていた相模湖花火大会を鑑賞した。
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【研修試験】
2日目は、相模湖交流センターで、ダムの基礎知識、宮ケ瀬ダム、相模ダム等に関する研修試験と、各参加大学による研究発表が行われた。
(研修試験と小論文の結果)は以下のとおり 回答時間50分で、成績優秀者上位3名に賞品が贈呈された。
(択一式)設問:択一式15題 75点満点(平均 25.4点) PDF 問題 解答・解説 グループ1:ダムの基礎知識に関する設問 5題平均 7.7点/25点 グループ2:宮ケ瀬ダムに関する設問 5題 13.1点/25点 グループ3:ダムの雑学に関する設問 5題 6.2点/25点
択一式の設問で、グループ2の平均点が良かったのは宮ケ瀬ダムの講義、見学後に研修試験をした効果だと思う。
(小論文)600字以内小論文1題 25点満点(平均 17.8点) [研修会で学んだことをもとにダムの未来について考えるところを自由に述べよ。]
小論文優秀賞紹介(20点/25点) 査読は石田委員、千々和委員(東京工業大学助教)にお願いした。
○池田拓海君(法政大)
ダム研修会に参加して感じたことが3つある。1つは、参加した誰もが例え最初は何一つダムのことを知らなかった人間でさえ、ダムについてのことに終始考えを巡らせているということである。2つ目は、ダムには一般に知られざる様々な工夫や配慮がなされていることである。 残念なことに、ダムについての議論交わす事は日常的にあり得ることではない。しかし、それは日常に認知された時、ダムは急激に進化しうる伸び代をもっているともとれる。現在、ダムには水の調整機能以外にも発電や環境保全などの現代のニーズに合致した機能が備わっている。また、あまり知られてはいないが、マラソンやツアーなどの観光産業としてのダムの役割もある。つまり今、ダムにとって足らない機能を挙げるとすれば、ダムという重厚で陰鬱とイメージを壊す、明るい「何か」に違いない。その「何か」というのが私の感じた3つの事柄の最後「足を運ばなければわからない」ということである。一つ一つのギミック、スケール、先人達の考えが足を進める度に五感に語りかけてくる。その感じることは、来場者により異なる。その一人一人の感じたことそれ自体がダムの未来の可能性である。 この先、ダムがどんな機能を持つにせよ、訪れる人間の思考力に終わりは見えない。つまり、ダムの進化の未来は多岐に渡る。その可能性を私達は未来につなぐ義務がある。
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【研究発表・講演】
各大学による研究発表は、大学ごとに特色があり、それぞれの発表内容について活発に意見が交わされた。 その後、ダム技術者「佐野藤次郎」に関する講演が、川ア秀明氏(活性化小委員長)からあり、ダム技術者の話、ダムの造形美学の話、我が国の美しいダムの数々が(布引五本松ダム、千苅ダム、大井ダム、豊稔池ダム等)紹介された。
【ダムカレー・相模ダムについての説明】
昼食は、交流センター内「青林檎」で、「相模ダムカレー」を食した。相模湖に浮かんでいる流木と、わかさぎなどをイメージした食材が配置された重力式コンクリートダムの形のダムカレーである。 午後は、影山雅映氏(相模ダム管理所長)から「相模ダムの建設と管理について」の説明があり、ダムの仕事は大変だが自分たちは誇り思って働いているので、若い人達にもぜひダムの仕事に興味を持って頂くことを期待しますとの熱いメッセージを頂き、相模ダムの見学をした。宮ケ瀬ダムと比べると規模は小さいが、発電、水道用水、相模湖の湖面利用でも重要な役割を果たしているダムであることを実感できた。ダム湖の中で行われているエアレーションや浚渫の様子などを(観光船スワン号)で見学した。
【試験結果発表と表彰】
その後は、交流センターに戻ってダム知識の試験結果を発表。上位3名の表彰を行い全員に修了証を手渡した。参加学生からは、ダムの現地見学だけでなく各大学間の交流もでき、より一層ダムに興味がもて、今後もダムに関わっていきたいという声が寄せられた。
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【ダムの未来に思う】
今回の勉強会は、主に土木を学ぶ大学生を対象としてのものだったが、発電、洪水調節、安全な飲料水の確保、便利で快適な都市での生活環境を守るという、様々なダムの設置目的を実現するために、山奥で人知れずダムは頑張っているのだということを十分に体感してもらえたと思う。これからも大学生や若手の技術者がダムに興味をもって、将来の研究対象として、或いは、自らが取り組む仕事の一つとしてダムというものを考えていただければ幸いである。 およそ3,000基もある我が国のダムの総貯水量は、アメリカのフーバーダム1基のそれにもおよばないという事実を噛み締めながら、さらに多くの人にダムの“今”を知ってもらいたいと感じたイベントだった。
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