後ろ髪を引かれるような思いで矢木沢ダムをあとにした見学者一行は、雪道を30分ほどかけて奈良俣ダム管理所へ向うためにマイクロバスに乗車しました。管理道をしばらく下ると、スマートフォンのバイブレーターが作動しました。ようやく携帯電話の電波が届くエリアに戻ったようです。何件かあった携帯の着信履歴は、いずれも急を要する番号ではありませんでしたのでそのまま放置することにしました。
1.奈良俣ダム管理所
冬期の奈良俣ダムは、下流面が見える所までは一般車両の通行が可能です。積雪に注意して運転をすれば下流面を一望できる所まで行くことができます。しかし、夏期は散歩道として開放される背面も、積雪の時期は立入禁止となります。また、道路は管理所へ通じる奈良俣トンネルの直前で冬季閉鎖となるため、ダム上流面の雪景色を見ることは通常では不可能です。 管理所に到着して最初に度肝を抜かれたのは巨大なつららでした。ここで2階会議室に案内され各自が持参した昼食をとることになりました。
奈良俣ダム管理所
2階会議室からの奈良俣ダム 管理所付近からは、ダム上流面の雪景色を望むことができます。氷柱のようなものはつららです。地上周辺には、ロープが張られており「頭上注意」の喚起がなされていました。とは言え、この巨大なつららは条件次第では、自然が生み出した凶器となる可能性もあります。
2.各ダムの概要の説明
昼食が一段落した後、管理所2階会議室において奈良俣ダムと矢木沢ダムの概要について担当者から詳細な説明がありました。また、こちらでは奈良俣ダムのダムカードが配布されました。
各ダムの概要説明 両ダムの一年を通じての水運用や、洪水調節の実績について分かり易い説明を受けました。 奈良俣ダムは、選択取水設備は設置されておらず、基本的に表面取水設備による取水が行われています。これは、本体直下が須田貝ダムの貯水池(洞元湖)であり、下流に与える水温の変化をあまり考慮する必要がないからだそうです。
奈良俣ダムの表面取水設備 管理所での座学が終了し、ダムサイト付近へ移動します。管理所を出発する頃、少し雪が降り始めました。もっとも、吹雪のような状態にはならなかったため、見学に支障はありません。
3.積雪状況
巨大なロックフィルダムの堤体には、厚く雪が降り積もっていました。この雪はやがて融けて須田貝ダムへ流入し、電力を生み出し、田畑を潤し、人々の飲み水となります。水は使い方によっては「洪水」という“悪魔”となりますが、それを防いで人々に有益な“恵みの神”になるようにコントロールしているのがダムというインフラです。
堤頂部の積雪状況 堤頂部も雪に覆われつくされています。この雪はいずれ人々の口に入るものですからタバコの投げ捨てなどは絶対に行って欲しくないものです。(もちろん、今回の見学者にそのような行為を行った方はいません。)
ヒルトップ奈良俣 「ヒルトップ奈良俣」付近の積雪状況です。この資料館のそばには、ダム建設時に使用された重機の巨大なタイヤが展示してあるのをご存知の方も多いと思います。そのタイヤもわずかに頭の部分のゴムが見える程度です。
雪に埋もれたタイヤ 春から秋にかけてダムカレーを提供している「奈良俣サービスセンター」(冬季休業中)にはとても接近できません。
ヒルトップ奈良俣付近の積雪状況
洪水吐きの積雪状況 その後、マイクロバスに乗車し、下流側へ移動します。ここで雪の奈良俣ダムを背景に集合写真を撮り見学会は無事終了しました。 「人の映りはどうでもいいから、ダムはきれいに撮ってくださいね。」 という見学者の声が印象的でした。
奈良俣ダム下流面の積雪状況
4.冬期見学会総括
「地域に開かれたダム」を標榜する水資源機構が、この2つのダムを冬期に閉鎖するのは、冬には一般民間人にとって非常に危険な場所となるからです。
矢木沢ダム管理道路を走るマイクロバスの前方 天候が悪ければ猛吹雪の中で凍死するでしょう。また、気温が上がれば、つららや雪庇が落下して、大怪我を負うかもしれません。雪崩はいつ起きても不思議ではない場所です。手足の骨折だけで済めば運が良い方かもしれません。四駆の自動車も過信はできません。
矢木沢ダム管理所付近の雪庇
奈良俣ダム付近の道路 このような過酷な自然環境の中、私達が安全に見学できたのは、見学者の数を大幅に上回る水資源機構職員の方々の支援のおかげでした。 マイクロバスには、先導車が走り事前に前方の安全を確認していただきました。
先導車 洞道の歩行には先頭と、最後尾に付いて安全に誘導していただいたのも機構の職員さんです。
矢木沢ダム洞道入口
奈良俣ダム洪水吐きゲート付近 少しでも良い場所からダムを見学できるように先行して人力で除雪を行ってくださったのも職員さんでした。一つ一つ挙げれば、きりがありません。私達が訪れなければ、必要のない作業であったはずです。本当にありがとうございました。
奈良俣ダム このような貴重な見学会は、来年度以降も継続的に実施して欲しいと思います。いや、実施すべきです。首都圏に住む人々は、自分たちの生活基盤を支えている矢木沢ダムと奈良俣ダムの真の姿を知らなければなりません。
矢木沢ダム
最後にはなりましたが、この場をお借りいたしまして沼田総合管理所の皆様、またダム管理に携わる多くの職員の皆様に深くお礼を申し上げます。ありがとうございました。
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