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《堆砂で機能不全という誤解》


 最近のダムをめぐる論争に、「ダムは100年で埋まる」「ダムは土砂に埋まって使えなくなる」という話がある(注)。ダム堆砂の実際このような記事が朝日新聞に一面掲載されたのでかなり有名になったことと思う。ダムが埋まる論はこの記事から来たのではないかと思うがどうか。

(注)朝日新聞の記事は、ネット上では
 http://www.asahi.com/edu/nie/syasin/kiji115.html
 にあります。

 しかし内容を読んでみると、私のダム見学250基余りの経験からすると違和感がある。何かが違うような気がする。

 まずこの朝日新聞の記事に掲載されている堆砂率の高いダムのリストというものを引用します。(行頭に★をつけたのは私が実際に見学済みのダムであります)

◆堆砂率の高い50ダム
(総貯水容量100万立方メートル以上、00年度国交省調べ、 東芝セラは東芝セラミックス。堆砂率は堆砂量/総貯水容量)

    ダム名 (道県・水系、管理者)    堆砂率%(完成年)
  1 千頭  (静岡・大井川、中部電)   97.7(1935)
  2 小屋平 (富山・黒部川、関電)    95.0(1936)

  3 梵字川 (山形・赤川、東北電)    94.5(1933)
  4 黒又  (新潟・信濃川、東北電)   89.3(1927)
  5 春別  (北海道・静内川、北電)   89.2(1963)
  6 大間  (静岡・大井川、中部電)   88.8(1938)
  7 雲川  (福井・九頭竜川、福井県)  88.7(1956)
  8 西山  (山梨・富士川、山梨県)   88.6(1957)
9 平岡  (長野・天竜川、中部電)   84.5(1952)
 10 黒部  (栃木・利根川、東京電)   81.7(1912)
   (↑筆者注:超有名な富山県の黒部ダムではないので注意)
 11 雨畑  (山梨・富士川、日軽金)   80.8(1967)
 12 岩知志 (北海道・沙流川、北電)   80.7(1958)
 13 芦別  (北海道・石狩川、国交省)  79.8(1957)
14 泰阜  (長野・天竜川、中部電)   78.9(1936)
 15 中岩  (栃木・利根川、東京電)   76.5(1924)
 16 品木  (群馬・利根川、国交省)   75.8(1965)
17 大井  (岐阜・木曽川、関電)    74.7(1924)

 18 利賀  (富山・庄川、関電)     70.1(1943)
19 山口  (長野・木曽川、関電)    68.5(1957)
20 川迫  (奈良・新宮川、関電)    67.7(1940)
 21 赤芝  (山形・荒川、東芝セラ)   67.7(1954)
22 薮神  (新潟・信濃川、東北電)   66.9(1941)
 23 清水沢 (北海道・石狩川、北海道)  64.7(1939)
24 小原  (富山・庄川、関電)     63.7(1942)

25 新猪谷 (岐阜・神通川、北陸電)   63.4(1964)
26 久瀬  (岐阜・木曽川、中部電)   61.5(1953)
 27 岩松  (北海道・十勝川、北電)   61.3(1942)
28 境川  (静岡・大井川、中部電)   61.3(1944)
 29 岩清水 (北海道・新冠川、北電)   61.3(1959)
 30 戸崎  (宮崎・小丸川、九州電)   60.3(1943)
 31 三成  (島根・斐伊川、島根県)   58.8(1953)

 32 旭   (福島・阿賀野川、昭和電工) 56.9(1935)
33 神一  (富山・神通川、北陸電)   56.4(1954)
34 笹間川 (静岡・大井川、中部電)   56.3(1960)
 35 川端  (北海道・石狩川、国交省)  56.0(1963)
36 祖山  (富山・庄川、関電)     55.1(1930)
 37 胎内第2(新潟・胎内川、新潟県)   54.9(1959)
38 落合  (岐阜・木曽川、関電)    54.7(1926)

 39 岩屋戸 (宮崎・耳川、九州電)    54.7(1942)
40 読書  (長野・木曽川、関電)    54.7(1960)
41 西平  (岐阜・木曽川、中部電)   52.6(1940)
 42 道志  (神奈川・相模川、神奈川県) 51.6(1955)
 43 上郷  (山形・最上川、東北電)   50.1(1962)
44 九尾  (奈良・新宮川、関電)    50.0(1937)
 45 芦別  (北海道・石狩川、北電)   49.9(1953)

 46 出し平 (富山・黒部川、関電)    49.6(1985)
47 奥泉  (静岡・大井川、中部電)   49.2(1956)
 48 川原  (宮崎・小丸川、九州電)   48.6(1940)
 49 古賀根橋(宮崎・大淀川、宮崎県)   45.9(1959)
50 丸山  (岐阜・木曽川、国交省・関電)45.3(1956)

 あれれ?このリストは殆ど発電ダムで調整池ダムばかりじゃないか! 50番の丸山ダムだけが貯水池の性格があるがやはり調整池的性格が強い。例外は16番の品木ダムか。しかしこのダムは特殊なものだから後ほど説明したい。

 さてこの記事はH.14.11.18付け朝日新聞でトップ記事として見出しは「44ダム、堆積5割越す」だった。これでは受ける印象は「発電のダム大半は土砂で埋没して機能不全」という感じではなかろうか。インターネットを巡ってみると天竜川佐久間ダムが機能不全らしいと書いている個人サイトまで見かけたことがある。しかしそんな事実は全く無く、現在も年間発電量13〜14億KWHで日本の水力のエース選手。これは石油削減効果28万トン/年、CO2削減効果は89万トン/年に相当しています。

 これはまったくヒドイ誤解が広まってしまっている!! 技術士の鈴木氏のホームページから引用させて頂くと、

 高さ15m以上の高堰堤371地点のうち、総貯水量5千万d以上のダム47ヶ所について調べてみると、総貯水量の土砂満杯年数は、123年〜200年=5ヶ所、200年〜500年=6ヶ所、500年〜1000年=7ヶ所、1000年〜3000年=12ヶ所、3000〜5000年=7ヶ所、5000年以上10ヶ所、で計47ヶ所となっている。最短は相模ダムで123年、最長は三浦ダム207387年、岩洞ダムの702850年 である。岩洞ダムは実に約70万年である。これは小流域に大ダムを築造し、他流域から水路で導水する計画である。いずれも120年以上である。畑薙(159年)や佐久間(193年)はフオッサマグナの影響で土砂堆積が多い。

 このように大貯水池のダムは多くが土砂堆積満杯まで500年以上、少なくとも100年で埋まるものなど無いのです。また上の年数というのは無策で放置しておればの計算であり、実際には対策が取られる筈なのでもっと伸びる年数であります。

 さて、朝日新聞の記事の埋まっている調整池発電ダムのリストですが、このようなリストに挙げられると「このダムは・・・もう・・・だめだ」という印象を受けると思います。しかし実際の運用を考えると調整池ダムの場合は埋まることについては発電上もそれほど大きな問題ではないし、川の土砂流下を妨げるという事については、むしろ埋まったころに逆に解決する話です。それについては以下に図で説明します。











 以上が一般的な調整池水力発電ダムの実際です。もちろん個々のダムで細かい運転方法は変わってきますが概要はつかんでいただけると思います。これで上に挙げたダムの殆どは埋まった=死亡ではない事がお分かりいただけたでしょうか。

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