おわりに
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以上、香川県の宝である満濃池、豊稔池、そして近代的な田万ダム、門入ダム、吉田ダムについて概観してきた。繰り返すことになるが、香川県は瀬戸内式気候で降雨量は少ない。水資源賦存量(水資源として理論上人間が最大利用可能な量であり、降水量から蒸発散によって、失われる量を引いたものに当確地域の面積に乗じた値)は、平水年年間降水量1191mmでは、県民1人あたり1416m3/年/人となり、渇水年年間降水量 813mmでは 828m3/年/人となっており、それぞれ全国平均の3412mm/年/人、2268m3/年/人と比較すると、わずか40%程度しか達しない。(香川県水道局編・発行『香川県水道局30年のあゆみ』 (平成11年) )
昭和50年4月以来、香川用水の完成によって、吉野川の水が阿讃トンネルを通って導水されるようになり、水の供給は安定してきた。ところが平成6年 678mmの異常少雨のため、7月早明浦ダムの水が底をついたことがあった。しかしながら、水関係者は灌漑用水を含めて、ことこまかな水供給を図り、この水危機を乗り越えた経過がある。 高松地方気象台によると、最近の年間降水量は1102mm(平成13年)、 765mm(14年)、1251mm(15年)、1604mm(16年)と観測されている。平成16年は1604mmと多雨で、台風16号等によって香川県内の河川が氾濫し、多大な被害(死者11名・家屋全壊49戸)を及ぼした。また、高潮によって高松市の繁華街も水害を被った。 このように、地球の温暖化であろうか、地域的に渇水年と洪水年が交互に繰り返し、災害をおこすようになってきた。平成16年は台風が10個も日本列島に上陸した。
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余談だが、平成17年2月16日二酸化炭素(CO2 )などの温室効果ガスの排出削減を義務づけた「京都議定書」が発効の日を迎えた。同日付の朝日新聞に諸富徹京都大助教授の「市場デザインの構想力を−環境を公正競争のル−ル」が、次のように掲載されており、企業的、個人的にも大いなる示唆を与えてくれる。
【欧州での経験によれば、公共交通期間の充実は中心市街地の活性化に大きく貢献し、循環型社会の構築は新たな環境産業を創出する。さらに自然エネルギ−の普及は、エネルギ−供給構造を集権型から分散型に変え、環境により望ましいエネルギ−源を市民が直接選択できるようにするという重要な合意をもっている。このように「温暖化対策」はたんなる「対策」に終わらず、それを通じて社会構造を改革し、新しい方向での社会発展を促し、ひいては地域ガバナンスのあり方を深化させる契機となる】
と述べ、さらに、
【同様のことが、産業社会の将来についてもいえる。地球温暖化が、究極には私たちの生産と生活の基盤を掘り崩す人類共通の脅威である以上、私たちの取りうる途は「経済か環境か」の二者択一ではなく、経済と環境が両立する「持続可能な発展」以外にはない。とするなら、重要なのは市場経済システムを持続可能な発展へ向けた軌道にうまく乗せてやることである。そのためには私たちが「市場に翻弄される」のではなく、「市場を使いこなす」ことが必要になる。】
そして、市場を使いこなすことについて、次のように結論づけている。
【最近、メディアへの登場も増えてきた「環境税」や「排出量取引」は、市場の価格メカニズムをうまく利用して温室効果ガスの発生を抑制する手法である。その原理は意外に単純で、環境を保全する企業は得をし、そうでない企業は損をするという明快な公正競争ル−ルを市場に埋め込むことに他ならない。このような市場では、利潤を追求する企業はそれゆえに環境配慮を強めるようになる。なぜなら、そうしなければ環境税の負担や排出権購入額が収益を圧迫するからである。】
CO2 の発生が、地球温暖化の原因であり、そのことが、渇水と洪水を引き起こす要因であることから、諸富徹が論じているように、グロ−バル的には、市場システムに環境を公正競争のル−ルを構築しなければならない時代が到来してきたといえる。 一方、香川県の水環境を考えると、ロ−カル的には、ため池を十分に活用し、これ以上のため池の減少防ぎ、むしろため池の拡大と環境保全を図り、環境を配慮しながら必要なダムは造り、荒地には植林を施し、さらには渇水も洪水にも対応できる「雨水の活用」を有効に行っていく必要がある。
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最後に、香川県の水環境に係わる書を掲げる。桂重喜著『讃岐の池と水』(香川県郷土読本刊行会・昭和37年)。四国新聞編集局、香川清美、長町博、佐戸政直著『讃岐のため池』(美巧社・昭和50年)。まんのう公園工事事務所編・発行『満濃池関係資料(1〜3 )』(平成元年〜4年)。高瀬町教育委員会編・発行『さぬき・高瀬のため池』(平成10年)。香川県教育委員会編・発行『讃岐の雨乞い踊調査報告書』(昭和54年)。香川用水事業期成同盟会編・発行『香川用水史』(昭和54年)。高松市水道局編・発行『高松市水道史』(平成2年)。峠の会編・発行『讃岐の水車』(昭和63年)。北条令子著『さぬきのおもしろ伝説−水の巻』(松林社・平成3年)。高松市企画財政部編・発行『2001雨水セミナ−IN高松』(平成13年)。
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