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V.迫川上流域のエコロジカルネットワーク

 エコロジカルネットワークとは、生きものの生息場所のつながりをいい、生息場所のうち、生活の中心となるねぐらや餌場はコアと呼ばれ、次に利用価値の高い場所をバッファ(緩衝帯)と呼んでいる。

 渡り鳥の場合、地球規模ではシベリアなどの繁殖地と越冬地、移動する際の中継地などの一連のつながりをいい、日本のような越冬地内においては、ねぐらと餌場の間を移動して生活するというつながりを意味する。

 このようなネットワーク形成は、生物多様性を維持する上から必要であり、多くの生物が絶滅の危機に瀕している現在、人間の手によって分断・縮小されてきた生息場所を、つなぐことが重要である。

 迫川上流域は、全国でも有数の渡り鳥の飛来地であり、今後も保全を続けていくためには、上流域のダム湖を単体の水辺空間として捉えるだけでなく、下流部の伊豆沼・内沼、そしてその間に広がる水田地帯を結ぶネットワークの形成を維持していくことが重要である。本地域に飛来する渡り鳥のエコロジカルネットワークの現況は以下の通りである。

1.ガン類の飛来の現状と問題

 宮城県は全国のガン類の約90%に当たる10万羽の飛来地となっており、そのうち伊豆沼・内沼には2万6千羽がやって来ている。この羽数は1980年代後半の5.5倍にも増えており、全国的にガン類の越冬環境が減少していることを反映していると考えられる。このような特定の場所への集中は、渡り鳥の間の伝染病の蔓延や水域の環境激変による悪影響が危惧され、今後は分散して越冬できるようなエコロジカルネットワークの形成を維持していくような環境整備が望まれる。


2.迫川上流域における渡り鳥の移動状況

 本地域に飛来するカモ類のうち、魚貝類を採餌するアイサ属、ハジロガモ属などは終日ダム湖を中心に生活しているが、稲の落ち穂などを餌とするマガモなどは周辺の水田へ移動する。また、ガン類やハクチョウ類は、夜間はダム湖や湖沼などの水辺をねぐらとし、昼間は主食である落ち穂を求めて水田へ移動する。

 ガン類のうち、大部分を占めるマガンは伊豆沼・内沼を、少数ながら飛来しているオオヒシクイは花山ダムをねぐらとして、水田は双方の餌場として利用しているため、それぞれの場所が越冬時期において欠かせない重要な場所となっている。なお、マガンは現在のところ、上流域のダム湖を、ねぐらとして利用していない。


3.ガン類の餌場環境の条件

@ねぐらと周辺水田との距離
 本地域に多数飛来するガン類は、夜は伊豆沼をねぐらとし、昼間はおおよそ15km圏内まで採餌行動のため周辺に広がる水田へ移動する。



採餌のため水田に飛来したマガンの群れ
A水田の農道密度
水田の農道密度が約80m/haを境として密度の高い農道への降下する羽数が減少する傾向が見られる。これは、非干渉距離という道路からの距離が影響しており、ガン類は外敵からの距離がおおよそ100m以下になると警戒、60m以下になると逃避、30m以下になると飛翔する。また、農道設置に伴い電柱が多くなると、電線が離着陸の障害となり、この影響も考えられる。
 

B秋の耕起
 餌場として、秋に耕起している水田より、耕起していない水田の方を5倍も多く利用しているが、ガン類にとって、稲刈り後、耕起をした水田には、主食である落ち穂が土中に混ざり食べにくくなるためと考えられる。

C積雪
 水田の積雪深も影響し、10cm以上の積雪があると降下して餌取りをするガン類は確認されなかった。

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