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U.迫川上流域のダム湖が渡り鳥の生息に果たす役割

1.迫川上流域のダムの概要

 迫川上流域は、約350年前の江戸時代初期の伊達藩政時代に新田開発が始められた。その後、宮城県の迫川総合開発事業により昭和33年に花山ダム(迫川上流)、昭和37年に栗駒ダム(三迫川上流)が建設され、かんがい用水や洪水被害の軽減に貢献してきた。さらに抜本的な用水不足と洪水被害に対処するため、迫川上流農業水利事業により、二迫川に荒砥沢ダムを、同二期事業により、迫川支流長崎川に小田ダムを建設し、これによって本地域内におけるダムは4カ所になった。


迫川上流域における4ダムの位置関係
2.渡り鳥によるダム湖の利用

 4カ所のダムにおける2ヶ年間の渡り鳥生息調査から、本地域に飛来するカモ類は、1日最大で花山ダムが2,046羽、小田ダムが1,044 羽、荒砥沢ダムが278羽、栗駒ダムが212羽、ガン類では、花山ダムでオオヒシクイ8羽が確認された。また、ハクチョウ類では、花山ダムで 20羽、小田ダムで4羽が確認された。 なお、小田ダムは、平成17年3月から湛水開始のため、平成17年単年度の調査結果である。


迫川上流域の4ダムにおける渡り鳥飛来数
1)ダム湖による羽数の異なる要因

 調査の結果、ダム湖によって羽数が異なるのは、下記要因と考えられる。

@広い貯水面積
 貯水面積が広いほど、湖面上空が広くなるため、渡り鳥にとって飛来・飛去しやすくなること、冬期に湖面が凍結しにくくなること、陸上からの外敵などとの距離が遠くなることなどの利点がある。迫川上流域における4ダムと伊豆沼の貯水池面積は表の通りである。


A湖面と周囲の比高
 湖面と周囲との比高が小さくダム湖の傾斜が緩やかであるほど、日射量が多くなり、プランクトンの発生により、潜水カモが餌とする魚類が多くなる。

B広い面積の州
 広い面積の州があることにより休息場になり、またハクチョウ類の餌となるマコモが生育する。


ダム湖上流部に形成された州(花山ダム)
C近隣の水田
 カモ類のうち、マガモ属は水田の落ち穂などを主な餌としているため、近隣に水田が多く分布するダム湖に集まってくる。


栗駒ダム(堤体から上流を撮影)

荒砥沢ダム(堤体から上流を撮影)
花山ダム(中流部から上流を撮影)

小田ダム(堤体から上流を撮影)
2)ダム湖が渡り鳥に果たす役割

@越冬地におけるねぐらとして利用
 花山ダムでは、ガン類のオオヒシクイとハクチョウ類が夜間のねぐらとして利用している。

A渡りの中継地として一時的に利用
 栗駒ダムではオオヒシクイ、ハクチョウ類が、小田ダムではハクチョウ類が渡りの時期に一時利用していることが確認されている。


小田ダムに飛来したオオハクチョウ
B昼間の休息地として利用
 4ダムとも、羽数に差はあるが、カモ類が昼間の休息地として利用している。

C餌場として利用
 花山ダムにおいては、オオヒシクイやハクチョウ類が州に生育しているマコモの地下茎を餌としている。また、4ダムにおいては、アイサ属、ハジロガモ属、カイツブリ属などが、ダム湖に生息している魚貝類を餌として利用している。

3)小田ダムにおける水鳥の変化

 小田ダムは、平成17年3月から湛水を開始しており、湛水後の水鳥の変化は、表の通りである。湛水開始後、新たな水辺空間の出現とともに、マガモ、コガモなどの渡り鳥やカルガモなどの留鳥が飛来した。4月下旬から5月上旬には、北帰行の時期となり、渡り鳥は確認されなくなったが、その後も、留鳥であるカルガモ、カイツブリなどの繁殖、生息が確認された。

 小田ダムの貯水面積は花山ダムの3分の1程度であるが、湖面と周囲との比高が低く、左岸中流域に大きな州が形成されていること、ダム下流 1km以降に水田が分布していることから、冬期に多くの渡り鳥が飛来することが予測された。実際、秋になると、マガモ、コガモ、ホシハジロ、ハシビロガモなど、1,000羽を越える渡り鳥が確認された。さらに花山ダムに隣接していることから、オオヒシクイの飛来、ハクチョウ類などの定着が今後期待される。


 
4)ダム湖を渡り鳥が利用するための方向性

 今後も渡り鳥がダム湖を利用していくためには、下記事項に留意する必要がある。

@ダム湖の水質保全
 良好な生息環境の確保、魚類や底生動物などの採餌が持続して可能になるよう、水環境(水量、水質)を保全すること。

A餌場や休息場所となる州の保全
 ダム湖岸の州や水辺は、マコモなどの餌の供給源となり、隠れ場所にもなるので州が消失しないよう、また、植生が変化しないように適正な維持管理を図ること。

 この他、間接的には、カモ類の一部が周辺の水田の落ち穂などを餌としているので、ダム湖近隣の水田を保全することも必要である。


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