水環境への影響とその解決@:発電用ダム特有の問題
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今日、ダムは管理の時代に入ったとされる。管理時代のダムが投げかける多様な問題を考える。ダムは大きな人工貯水池に貯めた川水を流量制御して放流することによりその機能を発揮する。河川の流況や貯水池の形式に伴う土砂の堆積や水温・水質といった自然環境に対して、人為的な影響をもたらすことは避けられない。(「ダムの役割」(ダムの役割調査分科会・平成十七年三月刊)を参考にする)。
戦前から、上水道用ダムや発電用ダムの建設をめぐって、農業用水など下流域の川水の利用者との水利調節問題が大きな社会問題となってきた。農業部門内または農業部門と他の部門との利水の競合をなくし合理的水利用を進めるための調整が不可欠となってきた。問題は、上下流間の長期間にわたる紛争や対立にまで発展することもあった。
発電用ダムの場合では、落差を利用して発電して下流河川へ放流するため下流域の沖積平野の農業用水とは水量をめぐる問題が生じないことが多かった。だが大正期に入り大規模貯水池式の発電用ダムが大河川の本流筋に建設されるようになると、季節的調節や日間調節を行うために、流量を調節する発電用ダムと安定的流量を取水する必要がある下流農業用水の間に深刻な対立が目立ち始めた。
ここに合口(ごうぐち)建設計画が出てくる。上流の水力発電に対する補償要求が農業用水の合口とからめて調整された例として庄川上流小牧ダムがある。庄川合口堰堤の建設である。合口とは近接して多くの取水口がある河川で、取り入れ口を統廃合して建設する取水施設のことである。
ダムが建設された河川では、流量の変動問題が宿命的に起きている。その解決策として、逆調整池を新たに建設し最下流ダムで逆調節操作を行うことで解決した例は少なくない。信濃川妙見堰(国土交通省、平成2年(1990)竣工)では、上流にあるJR信濃川発電所で首都圏各線の朝・夕通勤ラッシュ時に備える発電によって放流される川水を平均的に流下するようにし、水量が多いときには水を貯めて、一方少ないときには貯めた水を流す「逆調整」の役割を担っている。
一方、発電用ダムでは、河川上流のダム取水口で川水を取水し、下流の発電所まで導水路により送水する。このため取水地点から発電所地点までの河川区間に水が流れない状態(水無し川)は出来てしまう。昭和60年代になって、「豊で清らかな川」の復活を求める地元の声は高くなり、その調整に難航するケースが増えてきた。このため河川管理担当省である建設省(現国土交通省)は、水力発電を所管する通産省(現経済産業省)と調整を図って、63年(1988)「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」(「発電ガイドライン」)に合意した。これは、一定の条件に該当する水力発電所について、各発電所における発電水利権の期間更新時において、発電用ダム等から一定の流量を新たに下流河川に流させる措置を行うことを義務付けたものである。この結果、全国の河川で「水無し川」に清流が戻り始めたのである。
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