◇ 3. ダム堆砂がもたらすもの
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ダムの堆砂はなぜおこるのだろうか。山崎不二夫著「ダム公害−堆砂がもたらすもの」(山崎農業研究所・昭和58年)には、次のように述べてある。
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「ダムができ、貯水が行われると河の水面勾配はダムに流入する部分でゆるやかになり、水面が高まる。この水面の高まりを背水という。河の流れは背水区域に入ると流速がおち、掃流力が減るため、流水が運んできた土砂の堆積(デルタの形成)が始まる。堆積によって河床が上昇すると、その影響で背水区域がさらに上流に延び、それに応じてデルタも上流へ延びてゆく。他方、堆積はダム内部(下流方向)へ向っても次第に進行してゆく。これは、河水がデルタ部分を流過すると、水深が急に大きくなり流速が落ち、土砂の沈殿がおこるためだ。このように、ダムの貯水によってダム内部に土砂がたまるとともに上流へ向って河床の上昇が進んでゆく。要するに、ダムの堆砂は、ダムがない場合には下流へ流れてゆくはずの土砂が、ダムの中やその上流の河床に堆積する現象である。」
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この書から日本のダム堆積の特徴、ダム堆砂がひきおこす障害、ダムの堆砂を左右する要因等について追ってみたい。 1979年、貯水量100万m3の425のダム調査から堆砂の特徴が現れる。発電用のダムの堆砂率が最も高く、これに対して、一番低いのは農業用ダムである。発電用ダムは落差を大きくとることが重要だから天竜川水系のように山が険しい谷の迫った所に造られることが多い。これに対し、農業用のダムは貯水量が重要だから、山がなだらかな谷のふところの広い場所が有利である。この立地条件の相違が堆砂率の差に現れる。
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そして、次のように分析する。 @アメリカのダムに比べると、日本のダムは一般的にダムの貯水量が小さく堆砂率が高く、埋まりやすい条件にある。 A地方的にみると、中央構造物の横断している中部山岳地帯における河川(東海、北陸地方)の堆砂率が高い。 Bこのほか、四国、九州、東北などにも水系によって堆砂率の高いダムが見られる。 また、ダムの堆砂がひきおこす障害については、 @ダム上流の河床の上昇(ダム上流地域の水害がおこりやすい) Aダム下流の河床の低下(河の護岸、根固め、水制、橋梁などの河道内の諸施設が浮き上り、洪水時に破壊されやすい。また地下水の低下、井戸の枯渇、地盤沈下、塩水の遡上が生じる) Bダム下流の水質汚濁(漁業への影響) 等を挙げている。
続いて、ダムの堆砂を左右する要因について次のように述べている。 @流域の地質的条件 母岩の種類、その風化分解の難易、断層線や破壊帯の存在などによって山崩れ、土壌侵食の程度が違ってくる。 A流域の地形的条件 流域の地形要因(絶対高度、平均傾斜、起伏量など)がダムの堆砂に影響を及ぼす。 B流域の地被状態 植生が山崩れや土壌侵食に及ぼす影響 C流域の降雨特性 降雨の量、強度、継続時間、河道の洪水量などが山崩れや土壌侵食に及ぼす影響 Dダムの立地条件 河川開発が進んでいる水系の場合、最上流の奥地にダムが建設されると、堆砂により埋没する危険が大きい。また、堆砂の平均粒径も大きい。これに対し、河道の中流に立地するダム、下流に立地するダムと次第に堆砂速度が緩くなり、堆砂平均粒径も小さくなる。
Eダムの経過年数 ダム竣工直後の期間は、付替道路のズリ、その他工事によって生産された土砂の流れもあるため堆砂速度が最も高い。豪雨が起こらない限り、土砂流出は自然のときの状態に戻り、堆砂速度は緩くなる。上流からの土砂は大部分が内部に捕捉され堆積する。
さらに、堆砂が進み満杯に近づくと流入土砂の大部分がダムを越流して流下する。上流にダムができると下流ダムの堆砂速度が緩やかになるが、上流ダムの堆砂が進むと再び下流のダムの堆砂速度は大きくなる。 以上、山崎不二夫氏はダムの堆砂の問題について論じている。このことは、後述するが、長年ダム堆砂の研究を続けてこられた吉良八郎氏(神戸大学教授)の諸論文に負うところが多く、心から感謝の意を表すると付記してある。
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