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◇ 4. 出し平ダムと宇奈月ダムの排砂

 黒四ダムで知られる黒部川は、全国の河川のなかで山腹からの土砂の流出量が最も大きい河川の一つで崩壊面積率5%に達し、土砂の供給量は年間140万m3に達し、東京ドームに入りきれないというから驚く。

 昭和60年黒部川に関西電力鰍ノよって建設された出し平ダム(堤高76.7m、総貯水容量901万m3)が初めて排砂を実施したのは、ダム完成後6年目の平成3年12月11日であった。排出された土砂が富山県入善町の河口まで達し、富山湾沿岸の漁場の魚介類に被害を与えたと、その当時大きく報道された。また出し平ダムの下流に、平成12年宇奈月ダム(堤高97m、総貯水容量2 470万m3の多目的ダム)が建設された。平成13年6月、この二つのダムにおける連携排砂が開始 (59万m3) され、平成14年7月連携排砂(6万m3)、平成15年6月連携排砂(9万m3)、平成16年7月連携排砂(28万m3)、平成17年6月連携排砂、通砂実施(51万m3)、平成13年〜平成17年まで全13回排砂量611万m3が排出された。

 これらの排砂問題に関する角幡唯介著「川の吐息、海のため息−ルポ黒部川ダム排砂」(桂書房・平成18年)では、国土交通省、富山県、関西電力梶A漁業組合(漁民)、学者などを取材し、またあらゆる各種データに基づき黒部川の堆砂問題に迫っている。

 その内容は次のように構成されている。
第1章 全国で唯一の排砂事業(水ダコ漁船に乗船、豪快な黒部川の排砂、初回排砂、排砂方法の変遷)
第2章 入善町、朝日町の漁業者の苦悩(排砂の差し止めを求めて、排砂問題を公害等調査委員会に嘱託、となりの市振漁港の状況、漁業補償
第3章 海はどうなったのか(排砂実施で埋まる定置網、学者による漁場の悪化をサイドスキャンソナー、コアサンプラー等で調査)
第4章 アユが消える(アユ釣り大会、アユの激変、内水面漁業への補償)
第5章 黒部川と関西電力(小屋平ダムの排砂、堆砂の影響)
第6章 これからの排砂(全国で進むダムの堆砂、バイパス方式、排砂ゲート全開という考え方、住民意識も課題)
資料 黒部川出し平排砂ダム被害訴訟報告


「川の吐息、海のため息−ルポ黒部川ダム排砂」
 この書を読むと、黒部川におけるダムが治水や発電などの利水に大きく貢献しているが、その反面ダム堆砂の排砂が流域住民、とくに富山湾内の漁業者に漁業への悪影響を及ぼしている。
 新聞記者である著者角幡唯介は、黒部川の排砂の取材を通じて次の3点にまとめた。
@黒部川で始まった排砂は、排砂問題の解決策として非常に有効な手段と考えられた。しかし、堆砂は漁業被害を引きおこし川や海に深刻な爪痕を残している。
A取材を通じて強く感じたことは排砂を実施する国交省、関電の主張が、環境への影響を訴える漁業者、研究者の主張する被害の実態と全くかみ合わない。
B行政が平成9年の河川法の改正によって市民との協働という言葉を使うようになったが、形だけの協働でなく、きちんと市民の意見が事業に反映される協働作業が求められる。

 そして、最後に「ここは一つ、一歩を踏み出して改革に着手してみてはいかがだろうか。漁業者も国交省、関電も、黒部川と海を良くしたいということでは、気持ちも目的も同じはずだ」と問いかけている。


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