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特別インタビュー:
『水力ドットコム』の著者Hisaさんに聞く

 サイト「水力ドットコム」の管理人としてよく知られるHisaさんが、本を出版しました。その名も『水力ドットコム』。オーム社のサイトにある新刊紹介を読むと、「土木系エンタテインメント第二弾!グラビアで学ぶ水力発電所の世界」というコピーがありました。オーム社からは、宮島咲さんが「ダムマニア」を出版し、好評を博しています。第2弾とはそれに続くという意味なのでしょうか。

 今から十年ほど前、2000年境にしてダムマニアさんが活躍し始め、今では当協会認定のダムマイスターさんの活動も世の中で認められつつある中、いつしか出版界では、ダムや水力発電所が「土木系のエンタテインメント」というカテゴリーに分類され、本の主要なテーマになっているようです。

 そこで、今回はHisaさんに著書の上梓について、また水力発電の魅力についてお話を伺いました。



まずは、高圧線の鉄塔から

中野: 本のお話を伺う前に、ご自身のホームページのことをお聞きしたいのですが。いつ頃から作成されたのでしょうか?

Hisa: ホームページにコンテンツを載せ始めたのは十年ちょっと前、たぶん1999年か2000年頃だったかと思います。

中野: 最初から水力発電所を取り上げられたのですか?

Hisa: いえ、一番初めは、高圧線の鉄塔です。もともと電力に関する設備全般を見るのが好きだったので、最初は鉄塔の写真などを撮って掲載していました。山の中の鉄塔を見に行っているうちに、この電線はどこから来ているのか?という疑問が浮かび、それで水力発電所を見つけました。モノとしては、ダムでも発電所でも鉄塔でも、山の中に突然人工物が出てくるというギャップというか、違和感みたいなものが物珍しいし面白いなと感じて、それがきっかけになって、あちこちの発電所を見に行くようになったのです。

中野: 水力発電の仕組みとかにはもともと興味があったのですか?

Hisa: 電力というか電気というか、発電にまつわるもの全般が好きで、火力発電所も好きですし、原子力発電所を見るのも好きです。

中野: 発電所がお好きなのはわかりましたが、その中でとくに水力発電が良いというのはどの辺が面白いのですか?

Hisa: 水力発電の関係でいちばん目を引くのは、山肌を縫うように巨大な鉄管が走っている水圧鉄管の部分です。


水圧鉄管(『水力ドットコム』より)
中野: 鉄管だけですか?他に興味があるのは?

Hisa: 水車なども写真ではなかなか大きさが伝わりにくいのですが、一つの水車で何万キロワットという、とてつもない量の電気を起こせるというところが面白くて、すごいなという感じがします。

中野: 鉄管や水車にしても、一般の人が見ても独特の形で何だろうと思いますね。

Hisa: 発電所ごとに形も違いますし、水力発電所はけっこう古いものが多くて歴史を感じさせますし、見て回るのが面白くなっていきました。

中野: ダム本体に興味が湧いたのは後からですか?

Hisa: 最初は鉄塔で、電線を伝って水力発電所に行き、その水を取っているのはどこかということになり、ダムに行きついたという感じです。

オーム社の編集者の目に留まる



中野: 本について伺いますが、どういうきっかけで今回の出版企画が誕生したのでしょうか?

Hisa: 実はダムマニアの宮島さんからオーム社さんに、こういう面白いサイトがありますよと推薦してくださったようで、それで編集の方から声をかけていただきました。

中野: 本のタイトルは、どういうふうに決めたのですか?最初から決まっていたのですか?

Hisa: 最初いろいろな案はありましたが、やはりサイトがあって本があるということで、編集者の方と「水力ドットコム」に決めました。

中野: 本の中身を拝見しますと、水力発電の種別、発電形式、発電方法とあって、一口に水力発電と言ってもいろいろあるようですが、日本ではどういう種類が多いのでしょうか?
Hisa: まず、水の落差を作る方式では、水路式というのが多いです。これは取水地点から水路で水を引っ張っていき、大きな落差のとれるところまでもっていって発電するという方式ですが、この方式が日本では多いです。それと、水の使い方は、流れ込み式、とくにダム湖で溜めずにそのまま流しながら羽根車を回して発電するという方式が多いです。

中野: 揚水発電というのは数が少ないのですか?

Hisa: 電気の需要が急に増えたりした際に対応するという、大きなバッテリーとしての役割を持たされているので規模が大きくなり、どこにでも簡単に作れるものではないので、数は多くないのではと思います。普通の水力発電所のように何百〜数千キロワットというのでなく、何十万キロワット、場合によっては百万キロワット級の発電所になります。

写真も文章もイラストも自作

中野: 企画が出て来て、どのくらいの期間で編集されたのですか?

Hisa: 半年くらいです。本のアウトラインは編集の方から、目次はこんな感じでという構成案をいただいて、ここにはこの発電所を入れましょうというようにして、組み立てていきました。

中野: 編集作業の中で苦労されたのは、どういうところですか?

Hisa: ホームページでは、自分が載せたいと思うだけ文章を載せられるので、好きなだけ書けますし、逆にコンテンツの量が少ない時は、適当に文章量を減らしたりできるのですが、本の場合はレイアウトの都合上、一定量の区切りが決まっているので、内容が多いものは文章を削ってでも限られた字数に納めないといけないですし、逆に内容が少ない場合はなんとかネタを見つけてきてでも、文章を埋めないといけないということに苦労しました。


中野: 今回、たくさん書いたというところは?

Hisa: 文章量が多いというのでは水力発電の仕組みを説明した部分です。

中野: いちばん得意なところですか。

Hisa: この部分は、原稿量が多くてかなり割愛したのですが、それでも編集者の方が苦労してなんとか納めましたという話でした。ぎりぎり一杯みたいで。

中野: 発電所の種類を示すアイコンが付いていますが、あれはわかりやすいですね。

Hisa: アイコンは、編集者の方のアドバイスです。最初は、全部言葉で書き分けていたのですが、あまりの多さに、これはアイコン化して視覚化しないと、わかりにくいといわれました。


発電所名の右下にアイコン(『水力ドットコム』より)
中野: 説明のイラストは、ご自分で描かれたのですか?

Hisa: ホームページにも載せていますが、あれはCADで描きました。


ホロージェットバルブのイラスト(『水力ドットコム』より)
中野: 水力発電の歴史の部分はどうでしたか?

Hisa: 歴史の部分は本気で書き始めると、いくら字数があっても納まらないので、本当にさらっとなぞるくらいにしました。(笑)

中野: 水系でみる水力発電所という部分についてはどうですか。紹介されているのは、二つくらいしかありませんが厳選されたのでしょうか?

Hisa: 水系で言えば確か108本とかありますので、全部は載せ切れないので、代表として、ダムを置くことによってその水系の水の利用がシステマティックに効率よく行えるものを選びました。つまり、川の途中にダムを造らず、流れ込み式の発電をするより、ダムを置いて貯めた水を流すことによって、下流の発電所も効率よく動かせる特徴があるということで、常願寺川水系と、大井川水系とを載せました。これをみるとダムの配置でいかに効率よく発電しているかがわかります。

水力発電を知って欲しい

中野: 水力発電所を知るためにという目次がありますが、この中でいちばん言いたいのは?

Hisa: 水力発電所に限らずダムもそうですが、外から眺めて楽しいものだということを紹介したい。ダムや発電所は、本来電力会社さんの設備なので、我々が勝手に入って見てしまうわけにはいかないので、あちこちでお願いは書きましたが、“個人の楽しみ”としては、決して電力事業会社さんの邪魔にならないように、そっと外から眺めて堪能するようにしてもらいたいと思っています。(笑)

中野: ご自身がいちばん好きな水力発電所はどこですか?


有峰ダム(『水力ドットコム』より)

Hisa: 発電所として一つ決めるということはできないです。敢えてあげるなら、有峰ダムから水を引いて、そこからいくつかの発電所に落としているのが、仕組みとしても、落差も大きいので見た目にもすごいと思います。有峰ダムは、ダムナイトで話題になったように変わった堤体で興味をひきやすいです。

中野: 本が出来上がって、最初に手に取った時はどんな感想でしたか?

Hisa: 正直言って自分のサイトは情報量を優先にしているので、デザイン的には野暮ったいなと思っていました。それが、同じような内容が本になって出来てくると、プロの手にかかるとデザインセンスが全然違うなというのが第一印象ですね。

中野: いちばん読者に伝えたいことは何ですか?

Hisa: 見て欲しいのは、山の中に建物があるだけで面白いという事です。(笑)その建物が水力発電所だと知っている人は、ある程度はいるでしょうが、どうやって電気を起こしているか、どのくらいの電気を作っているかとか。
実は、たくさんある水力発電所

中野: 拝見して、まず水力発電所の数が多いというのも驚きました。

Hisa: 自分でもデータをまとめ始めてみて意外に多いので驚きましたが、正確な数は建設中というのもありなかなかつかめないのですが、だいたい2000ヶ所くらいはあると思います。ダムの数がおよそ3000位なので、けっこうな数だと思います。
水力発電用のダムは、河川法でいう高さ15メートル以上のハイダムだけでなく、15メートル未満のローダムも結構多いのです。とんでもなく山奥にある場合が多いので、実際には見に行けないものもたくさんあります。

中野: ヒサさんはどのあたりまで見に行かれますか?

Hisa: 本州でしたら、関東地方中心になります。四国は集中して回ってしまいましたが、九州、中国地方、北海道はほとんど手つかずの状態です。


中野: 写真はすべてご自分で撮られたものですか。グラビア写真については、何か選んだ理由があるのですか?

Hisa: 写真は一点を除いて、すべて自分で撮ったものです。ほとんどこれまでに撮ってきたものですが、今回、改めて本のために撮りに行ったものもあります。表紙の写真は、庄川水系の小牧発電所の水車ですが、こういうのが好きです。編集の方からは、まず読者に興味を持ってもらうにはインパクトのある写真が良いということでしたので、できるだけ目を引きやすいものをと考えて、見て回ったものから選びました。この水車は、建屋から離れ た所にポツンと置かれている感じで、周囲を探し回ってようやく見つけたものです。

中野: ダムマニアさんからの反響はありましたか。

Hisa: グラビアに載せた写真についてチョイスの仕方が話題になりました。なぜこの写真を選んだのか、理由を推測していただき、こういう理由でこの写真が出ているのが良いとか、「そういうのがヒサさんらしい」と楽しんでいただけたようです。

水力発電の歴史は古い

中野: 紹介されている発電所にはレトロなものがあって、けっこう古いものが多いのですね。

Hisa: レトロな感じのものは、中の設備も古いものがそのまま残っているケースが多いです。基本的に発電所の外観しか見られませんから、一番目を引く建屋をとりあげています。中には建屋だけは新しくなっているが、水路など水を引っ張ってくる設備とかは運用開始当時の60年、70年前のものを使っているところもあります。



中野: 発電所の中というのは維持管理する人はあまりいないのですか。

Hisa: 発電所が出来たばかりの明治とか大正の頃は、どこの発電所にも管理人が常駐していて毎日点検していた状況でしたが、今は自動化されていますので、常駐ではなく、定期点検という形で運用されているようです。遠隔監視で何かあれば自動的に管理センター、制御所に異常の報告が出るのでそれで見に行くという感じでしょう。

中野: 以前にインタビューをした元電源開発の藤野浩一さんにはお会いになったことがありますか?藤野さんは、開かれた発電所を目指すということで「OKKY」というPR施設を作られ、来場者が25万人を超えたということを伺いました。
Hisa: 藤野さんには、ダムマニアさんのツアーなどでカッサダムやその他のダム、発電所をご案内いただきました。「OKKY」は自分も見学しに行ったことがあります。あそこは、発電所そのものがPR館になっていて下部貯水池のダム天端にあがると、全体が見渡せるようになっています。地域に開かれた発電所です。冬は休館していますがロープウェーから見えるようです。その他、水力発電PR用の施設については、経費がかかりますから、以前は何箇所か作ったようですが、経費削減でどんどん縮小されて、公開されなくなった場所もあるようですが。

中野: 発電所はただ遠くから見るだけで、管理所で話を聞くというのはできないのですか。

Hisa: ダムの発電所などは割と見せてもらえるところもあるのですが、山の中にぽつんとあるような古い発電所は、何々の文化財とか看板に書いてあるだけで、敷地に入って見ることができないような状況が多いです。ダムも電力系のダムはだいたい無人化されているものが多いです。電力会社も厳しいコストで経営しているので、PRのために人を割けないという事情もあるようです。

水力発電は、純国産のエネルギー

中野: ヒサさんは水力発電について、どういうところが良いと思われますか。



Hisa: 水力発電は、純国産エネルギーなので、外国から燃料を買わなくても発電できることが貴重だと思います。それと、水力発電の大きな特徴でもありますが、電気を使いたくなければ止めて、使うときにはすぐに発電できるというのがあります。火力とか原子力の発電所ですと、まずボイラーでお湯を沸かしてその蒸気でタービンを回して発電していますので、ボイラーの火を急に落としてしまいますと、急な温度差でボイラーが痛みますのでそういうことができないのです。緊急時にはムダになりますが、蒸気を捨ててでも止めることが出来ます。しかし、そういうことを普段やっていますと効率が悪くてしょうがないのです。水力発電所は、急に発電を止めても貯水池の水はそのまま残っていますからムダにはならない訳です。そういう応答の速さがいちばんの特徴で、良い点です。

中野: なるほど使い勝手が良いところですね。では、水力発電の比率が増えるにはどうしたらよいでしょうか?例えば、エコな発電ということで注目されている中小水力などはどうですか。
Hisa: 少しの水の流れを利用して発電するというものですが、もう少し設置しやすくなると、まだまだ開発の余地があるのかなと思いますが、やはり水利権の関係でかなり手続きが大変だというのを聞きます。小さい規模の発電所はまだまだ作れると思いますが…。

中野: 水力はいちばんクリーンでいいと思うのですが、どうしても今は太陽光とか風力にスポットが当たってしまうのですね。日本の河川は急流が多くて水力発電にすごく適していると思いますが。

Hisa: 水力発電の弱点でもあるのですが、初期投資のコストが他の発電方式よりも多めにかかるのがネックになっているのかなと思います。でも、とにかく水の流れで水車を回せば安定して発電できますし、小さなものでもたくさん集まれば便利に使えると思いますので、太陽光だ、風力だ、地熱だとかいう前に、世の中の人にはもっと水力発電のメリットを知っていただければと思います。

中野: 「水力ドットコム」を読んでいただけるとよくわかりますね。
 本日は楽しいお話をありがとうございました。



(参考)Hisaさんのホームページ関連の活動

1997-11-12 ホームページ開設(ホームページ名称は無し)
1999-09-20 水力発電所初掲載(多摩川第三発電所)
1999-09-25 ダム初掲載(小河内ダム)
2001-06-04 ホームページ名「電力館」へ改称
2005-04-26 ホームページ名「水力ドットコム」へ改称、アドレスも「suiryoku.com」へ移行
2010-11-01 ダムマイスター任命
2011-10-16 掲載水力発電所1000箇所達成

(2013年1月作成)
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 (Hisa)
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